第6話 村に聖騎士が馴染みました
村に戻ると、リリとモフたんが馬車停めの所で待っていた。
エラも手を振っている。
「ただいまーー!リリ、いい子にしてた?エラもありがとうね」
「いやー、村のおじさんたちがリリちゃんに釣られて沢山買ってくれたからオーケーだわ」
相変わらず緩い村だ。
まぁ、そこがいい。
「それで……。おぉ、いい男が着ると普通の服も一等品に見えるのねぇ」
エラが上からの下まで眺めてから、感想を出した。
ぐいぐいと私を引っ張って少し離れた場所に移動させる。
まったくいつも通り強引な。
後ろを見ると、リリが私とエルの間をわたわたと視線を行き来させている。
可哀想だから、早めにきり上げよう。
「で、なに??」
「あの服、いくら位した?大体でいいのよ」
ピーンと来てしまった。今は春の初め。
もうすぐトーマの誕生日だ。
「ピンキリだったけど、あの服はこれくらいよ」
私は指を立てた。
その数にホッとしたのか、少し勢いが緩む。
「何?今度は服を贈るの?」
「そっ!そうだけど……。あいつって服とかに頓着しないじゃない?そろそろ新しい物があってもいいと思うのよ」
エラは言い訳がましく、必要だからと念を押してくる……が、正直トーマがエラから貰った服を普段着として使うとは思えなかった。
大事にしまい込みそうだ。
「いやー、いつも通り、作業用手袋とか実用の方がいいと思うよ?この前見たときは結構古いの使ってたし……」
「――よく見てるのね。はぁ。ミーナにも気づかれるくらいボロい物なら、欲しいものを聞いたときに教えてくれたらよかったのに……」
若干エラが落ち込んでいるが、意味がまったく違う。
あいつは、数年前にエラから貰った物を、私に錬金術で強化やリメイクをお願いしてくる。それも何度もだ。
だから、私が知っているだけだ。
――はいはい。両思いごちそーさま。
「トーマはエラから貰ったものは何でも大切にしてるよ」
私はエラにそう伝えて、リリの所へ戻った。
すると、意外にも会話が成立していたみたいだ。
少しずつ、心を開いているリリ。
きっと、今まではエルを『連れ戻す存在』として警戒していただけなんだろう。
「お待たせ。二人とも、今日は帰ろうか」
「うん、リリ、今日はつかれた」
珍しく看板娘をやらされたみたいだし、それは疲れるよね。
じゃあ、夜ご飯は――。
「おばさん達がくれた食材が山盛りあるから、それでご飯を作ろう。塩漬けベーコンもまだ残っていたはず」
とりあえず、今日はちょっと疲れた。
軽く煮込んでシチューでいいか。
早く帰って荷物を開けたかったし、リリにも着てもらいたい。
このタイミングで切り出すのがいいかな?
「ねぇ、リリ。お兄さんを夕食に呼んでもいい?食材切ってもらうつもりだから、お礼にね?」
「……うん」
一瞬、二人は目を丸くしたが、リリは納得してくれた。
それを聞いて、エルは荷物を持つ手に力が入ってしまったようだ。
グシャリ、と袋が潰れる音が聞こえてきた。
――おいおい。荷物がヨレヨレになっちゃうよ。
気持ちはわかるけど。
家に帰る途中、いつもと違い、村中が大騒ぎだった。何事かと、三人で顔を見合わせる。
『そっち行った!』
『捕まえろ!』
家畜が逃げ出したか、モンスターが入り込んだか。
この辺りは、小型のモンスターしか出没しないけれど、家畜被害にも繋がるので即討伐が基本だ。
横に視線を向けると、彼はすでに懐から小型ナイフを取り出していた。
いやいや、まずは状況を聞いてから――。
「モンスターのようです。……来ます。リリアーヌを」
「え!あ、うん……わかった」
わかったけれど、わからない。
随分と遠くで男性陣が騒いでるのに、ここからどうやって――。
彼の動きが一瞬止まった。
次の瞬間、驚異的なスピードでナイフを投擲した。
ほぼ、手首しか使ってなかったように見えた。
その後、モンスターの悲鳴と村人の歓喜の声が上がった。
え?距離、だいぶ離れているけれど?
――彼は本物だった。
討伐されたモンスターはワイルドボアで、下手をしたら家畜だけではなく、村人にまで危害を加える厄介な相手だった。
男性陣は、次々とエルに酒を勧め、女性陣はどんどんと料理を追加する。
「いやー、兄ちゃん、見かけによらずスゲェな!感心しちまったよ」
「そうそう!あのナイフ一本で仕留めるなんてなかなか出来る芸当じゃないぞ!」
うわ。夜ご飯作らなくてラッキー。リリに料理を取り分けてあげる。
しかし、あのトーマまでそこに混じっているとは意外だった。
彼もモンスター討伐に参加していたらしい。
そのナイフの刺さり方や、綺麗に眉間を狙い撃ちにした技術の凄さを、自分の事のように語っている。
相変わらず単純だ。
まぁ、聖騎士だと知識では知っていた私も、その実力を内心疑っていたくらいだ。
皆が驚くのは当然だと思う。
エルは黙って勧められるまま飲んで食べているが……。
先程から何かが変だ。
少し、表情が緩み始めている。よく見れば、姿勢も目元も崩れている。
私は、慌てて立ち上がった。
「ごめん、今日はお開きにします!彼、街まで出かけて疲れてるから話はまた今度ね。ごちそーさま」
無理やり立たせて、家まで支えて歩く。
重い。
思った以上にデカくて重いわ。
「ちょっとエル!ちゃんと自分で歩いてよ。このままじゃ二人で生き倒れよ。置いていっちゃうわよ」
「あ〜、ごめん……。断り方がわからなくて」
珍しく敬語が抜けている。いつもより雰囲気が柔らかい。
ただそれだけだ。
玄関の扉を開き、そのまま彼を床に落とす。
「リリごめん、もうこの人、重すぎるから、上から布団だけ持ってきて。一階に転がすしかないわ……」
リリが頷いて階段を上がっていくのを見て、力が抜けた。
近くで見るこの顔に!さらに普段はしない口調だとー!?
「……ただそれだけなんだけどね」
ひんやりとした夜の空気が体温を下げてくれてありがたい。
私は、水を用意するために彼から離れた。
――そう。逃げたかったわけじゃないんだから。
しかしその後も、なかなか火照った顔から熱が引かなくて少し困ってしまったのだった。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
もし少しでも心に残るものがありましたら、★で応援していただけると嬉しいです。




