第4話 街へ行こうと思います
渋るトーマから、親方の古着を貰ってきた。
くたびれて破れている箇所が多数あるけれど、ここは私の腕の見せ所。新しい布と合成したら――。
あら不思議。新品にはならなくても、穴はちゃんと塞がっちゃうのだ。
素材が強くなればなるほど難しいけれど、自慢のスキルだ。
リリの服も、私が錬成した代物だ。
かわいいフリルは布を大量に使ったけれど、後悔はない。
買ったほうが高い。
そして私は繕い物が出来ない。
「リリ、これから……あのお兄さんに服を渡しに行くんだけど、どうする?」
「……まってる」
仕方ない。リリには家で待ってもら――、
『まぁ、この辺じゃ見ないくらいの色男ねぇ』
『やだーー!お兄さん照れちゃってるわよ!』
「いえ、その……」
『声もいいじゃないのーー!』
『ミーナちゃん上手くやったわねぇ……。お仕事は?』
「あ、自分は……聖……」
「待ったーーー!!!」
おばさんたちが庭に押し寄せて、エルを取り囲んでいた。
あまりの光景に一瞬固まってしまったが、彼が不穏な単語を出しそうになって、慌てて止めに入った。
彼は黙って私に口元を抑えられている。
よし。
「おばさん達!今日はなんの御用で?」
「あら、ミーナちゃん。ちょっとフライパンを補強してもらおうと思って……」
差し出されたフライパンを受け取り、営業トークでその場を乗り切る。
「フライパン!大の得意です。とりあえず、全部請け負いますので残りは明日の朝にお願いします!大事な話があるのでちょっと彼を借りますね〜〜」
――お願いだから、もう喋らないで。
そう目で語ると、通じたのかどうなのか怪しいが、彼は黙って私についてきた。
パタリ。
扉を閉じて深呼吸する。
私が悪かった。
彼に薪割りを頼んで村に行ってしまった。
彼が目立つということを考慮しなければいけなかった。
目の前のエルは、戸惑いながら視線を彷徨わせ、グッと背筋を伸ばして片手を胸に添えた。
「申しわけありませんでした。どう対処していいかわからず……、ミーナ嬢にご迷惑をおかけしました。この体たらく、どうお詫びすれば良いものか……」
「いや。重い」
「え?」
――男が首を傾げるな。
美少女(当社比)の私でも鏡の前で何度も練習した高難易度ポーズだ。
ちくしょう。負けてないのに……!決定的な部分で勝負になっていない気がする!
仕方がないので、錬成した服をエルに渡した。
「騎士服だと目立つから、とりあえず着替えてきて……。サイズは怪しいけど」
「ミーナ嬢。何から何まで、本当にありがとう」
エルに深々と頭を下げられてしまった。
気まずい……。
「いいのよ、ちゃんと宿代も、ご飯代も諸経費も全部請求するんだから」
私は真正面から来られると逃げたくなってしまうのだ。
少し冷たかったか……と、片目を開けて彼を見ると、口角が上がっていた。
途端に顔に血が上る。
――馬鹿にされた?いや、そんな人じゃないはず……!
もう一度見ると、やはり穏やかな顔をしていた。
何、今の笑顔は!
反則すぎる……!私は、銀髪碧眼長髪聖騎士に靡いたりしない……!
いや属性盛りすぎだな、おい。
世界が違いすぎて、一瞬で目が覚めたわ。
そして。
着替えてきたエルを見て、さらに冷水を浴びてしまった。
これは、危険物だ――。
急いで、街に買い出しに行かなければ!
なんとも言えない空気に包まれた私たちを和ませてくれたのは、壁の向こうでクスクスと笑う可愛らしい声だった。
パツパツの服が面白かったらしい。
子供らしいその声に二人で苦笑いをした。
翌日。
街行きの馬車を待っていたら、遠巻きに近所のおばちゃんが品評会を開いていた。
――聞こえている。彼にも丸聞こえなんだよな!
『あらやだ。あの胸元……凄いわね』
『こらこらこら……。みんな。太ももが凄いわ』
「ちょっと待ってあげて!彼のHPがゼロだわ!」
私はエルの前で両手を広げる。
『『ひっとぽいんと??』』
――あ、つい。こういう場面で言いたかった言葉が口をついた。
冷静に見ると、エルが硬直してプルプルと震えている。
そして、さらによく見れば、羞恥で顔が赤くなっている。
いや、おばちゃんは取って食べないから大丈夫だよ〜と声をかけたいが……。
ごめんね……自信がなくなってきた。
リリはエラに任せて、そのまま二人で街まで買い出しに行った。
私も、錬金術に使う金属の発注をしなければ。
エルのおかげで商売繁盛、おばちゃんの列が絶えません。
まぁ、本来は金属類はトーマの所で仕入れるんだけれど……。
さすがに向こうも想定外の量だったらしいので、代わりに私が全ての発注を頼まれたのだ。
村の経済がたった一人に振り回されている。
いいのか?
いや、経済ってよくわからないしいいのか……。
馬車の中でも、チラチラと注目を浴びる顔面強者。
それを横目で見ているからか、私に視線をよこしてくれる人に愛想を振りまいてしまう……。
頑張れ、私。
赤毛、琥珀色の美……。
そういや、隣に座っている男に微妙少女と言われた。
「エル……。ちょっと、離れてください」
「ミーナ嬢?何かありましたか?」
心配げに声をかけられるが、ちょっと色々と複雑だ。
「現実が私を傷つけるんです……。美人は得ですよね……」
ふぅ。
アンニュイな気分で馬車の外を見る。
「……私は男ですよ」
「知ってますよ」
「ミーナ嬢は魅力的です」
「はいはい……。ありがとう」
彼はそこで、一回言葉を区切り、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「本当です。自分では気づかないものなんですね、本当に」
珍しく、彼の声が寂し気に響いた。
街までの数十分。
私は、大人げなかったと何回も反省してしまった。
ああ、そういえば。
男性と二人きりで出かけるのは初めてだった――。
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