第2話 銀髪の聖騎士が野宿すると言い出しました
ある辺鄙な村の一角。
私は、十七年前に若い夫婦の間に生まれたらしい。
両親の記憶はなかった。
その話を聞いた時には、既に祖母に引き取られていたので寂しくなかった。
そして、これまた定番だけれど、私は前世の記憶を持っていた。
そこまで細かい記憶じゃない。
ただ、確実に私の価値観にはなっている。
とまあ、格好よく言っても村の認識では“ちょっと変わった美少女”程度だ。
異論は認めない。私が傷ついちゃうからね。
祖母が亡くなってから、寂しさからか、生来のお節介からか。
私は行き倒れた生き物を放っておけなくなった。
そして今、私の家には小さなモフモフした小動物と、八歳の少女がいる。
どちらも可愛らしく、のんびり平和な日々を過ごしていた。
リリと名乗った少女を拾って一ヶ月後。
いきなり聖騎士が押しかけてくるまでは――。
「その子を返しなさい。誘拐犯でなければ、拒否しないほうが身のためですよ。今なら穏便にすませます」
銀髪で碧眼、長い髪を無造作に纏めた、見たこともないような美形が、私を犯罪者扱いしてきた。
鎧を着ている。
うん、なんか本物っぽい紋章が刻まれている。
しかし聞き捨てならない。
出会って早々に因縁をつけてくるとは。
どう見ても、保護でしょうよ。
ちゃんと可愛がって、世話をしてるでしょうが。
届けも出して、リリの家族を探していたもの。
それに生まれてこの方、他人に迷惑はかけても犯罪に手を染めたことはない。
そんな事をしたら、死んだお祖母ちゃんにゲンコツをもらってしまう。
「いきなりなんなの?ちょっとイケメンだからって偉そうに!いたいけな美少女がそんな事するわけないでしょ!?」
「美少女……。ええ、本当に微(妙)少女ですね……。誤解なら申し訳ありません。そちらの少女を保護しに来た者です」
――今、微妙って聞こえた気がする……。
私の発言に間の抜けた顔を晒した彼は、咳払いをしてから肩の力を緩めたようだ。
こらこら、態度が堅苦しい割に失礼ではないでしょうか。
後ろでスカートを引っ張られる感触がした。
リリだ。
聖騎士が驚かすから、私の影に隠れてしまった。
振り返ると、うつむき加減で指が白くなるまで私の裾を掴んでいる。
――これは。
「リリ?大丈夫?」
首を何度も振る少女。スカートに顔を付けて、こちらを見てもくれない。
明らかに怖がっているじゃない。
「あなたの方が誘拐犯なんじゃないの?なんでこんなに怯えているのよ」
「……なっ!それは……。リリアーヌ、大丈夫だから戻りましょう」
彼は優しげな声を出して、手を差し出す。
でも、リリはずっと拒否するだけだった。
「いや。いやなの。……リリはあそこはいや」
「……嫌だってよ。一度出直してきたら?」
私としても、本人が拒否する相手に引き渡すつもりはない。
「しかし……。任務を果たすまでは帰れません」
ようやくこの問答を無駄だと悟ったのか、彼はグッと拳を握りしめ、踵を返した。
「え、帰れないの?じゃあ、どうするの??」
「野宿します。この村に宿屋は無さそうなので……」
「野宿」
――イケメン聖騎士のお兄さんが野宿……。
いいのか?いやいやいや。いくらなんでも知らない男性をうちに泊める理由には……。
しかし、あの見た目では襲われないか?
変な野盗とかに拐われたりしないかな??
あんなに綺麗だから、あらぬ被害に遭いそうな……。
とにかく美人すぎる。どうすれば?
うーーん。
「工房なら空いてますけど……。あれですよね、騎士の誓いとか、あるんでしょう?それに誓うなら泊めてあげてもいいですよ。ほどほどで諦めて帰ってくださいね」
「……女性の名誉と安全に背く行為は騎士としての資格を失います」
随分と大げさな誓いらしい。
なら安全かな?
私は、自分の錬金術の工房へ彼を案内することにした。
「リリ。他に何かあると困るから、家の中で待っててね。あ、ご飯出来てるからモフたんと先に食べておいて!」
彼女がコクンと頷くのを確認してから、工房の方へ歩き出す。
私の後をついてくる気配がする。
とりあえず様子見だ。決してイケメンだから絆された訳じゃない。
「あの……。自分から言うのは何ですが……。若い女性が、あまりにも無防備ですよ」
「私より美人を放っておけなかっただけです」
「は?」
意味は伝わらなくていい。
私が悔しいもの。私だって赤毛の美少女(前世基準)に生まれ変わったからいいのだ。
「ここが私の工房よ」
こぢんまりとした、古い物に囲まれた空間に連れてきた。
元はお祖母ちゃんが使っていたものだ。
「一応、錬成途中のものもあるから触らないでね。爆発したら大変だから。あと――」
物珍しそうに辺りを見回す男性に色々と注意をする。
「私は、ミーナ。錬金術士よ」
「ああ。失礼しました。私は、エルディオン・レイヴェルト・アル=セラフィムです」
――長い!要するにどこを呼べば??
「あの、もう一度、言ってくれます?」
「……エルディオン・レイヴェルト・アル=セラフィム」
「エル……ディオン?」
「普通は、レイヴァルト卿と呼ばれています」
ややこしい。
平民にそんな文化はない。
「あの、こんな田舎じゃあ、その名前は目立ちすぎます。こう……愛称とか偽名とか何でもいいんで短くお願いします」
あと、毎回思い出すのに数分かかるわ。
「……エルで」
「了解、エル。一気に気楽になったわ。リリが帰りたくないって言ったらどうするの?」
「でも、教会には彼女が必要なんです」
彼の声には、揺るぎない物があった。
しかし。
「私もリリが元の場所に帰るのは反対しないんだけど……。あの態度……何かあるのかしら」
今まであんなに強く拒否感を示したことはない。
教会。
聖騎士。
「まさか、あんな小さい子に何か無理やり……」
「なっ……!」
嫌な想像が頭をよぎり、彼から距離を取ろうと後ずさってしまった。
エルは、私の言葉にすぐさま反応した。
「そんな事は決してありません!神官長も心配して、捜索のために各地に聖騎士を派遣しています」
神官長なんて大物まで。
もう、別の世界の話みたいだ。大丈夫これ?
さっきみたいに無理やり誘拐犯に仕立て上げられて……なんてこと、さすがにないわよね?
「――リリアーヌ。彼女は今代の聖女候補です」
だよねぇ。
そんな予感はしてたんだよ。
聖騎士といえば“聖女”だよねぇ……。
これからどうなってしまうのか。
ちょっと目の前が暗くなってしまった。
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