【短編完結】竜と姫と時々♡パンチ
今日この頃、気づけば桜の咲く季節になっていた。いつもの通り、黒い猫が眠そうに見下ろしている脇道をショートカットして学校に向かった。
「おはよう!」
そんな時はバカでかい声をかけてくるやつがいる。それが昨日までの日課の一部だった。
「ああ…おはよう……」
「…どしたの?」
こいつは金髪でいつもピンク色の髪留めをしている幼馴染のはずだ。長い髪を風に揺らして僕の視線を遮った。
「…学校が憂鬱なんだよ」
「始業式だっていうのに…。残念な子ね…。よしよししてあげようか?」
「…やめい!」
「…ほんとに元気ないわね。昨日まであんなに元気だったのに…」
「…俺たち幼馴染であってるよな?」
「…私は天才で容姿端麗……。止まった鳥を落とすほどの勢いで歴史を更新していく…最強の魔法使い…。この私を忘れるなんていい度胸ね」
「飛ぶ鳥を落とすだろ…」
「なにいってるの…? 止まった鳥でしょ?」
「……そうだな…。それが正解だ……」
この世界では……。
『…俺がいる!?』
『……まさか…本当に繋がってるなんて…』
話は昨日に戻るが、いつものショートカットを使って僕は近道をして帰っていた。ここは通学中によく使う通路なのだが、今日は休日だ。こんな日にここを通る理由があるのかと言われれば、なんてことはない。本屋に用事があったからだ。
こう見えても僕は優等生を目指している。割と勉強はできる方だ。だが、勉強はできるといっても、勉強が趣味な訳では無い。遊びも好きだ。中でも割と漫画は好きだが、中二病なんてものは発症していない。そのはずだったのだが、目の前には信じられないことに喋る黒猫と僕が立っていた。幻覚にしてはあまりにも精巧だ。
『…私の言ったとおりだっただろ?』
『…でも…本当に大丈夫なのかな……』
『じゃあ…ほっとくのかい?』
『わかってるけど……』
『彼にもあんたと同じくらいの力を感じるさね…』
『うーん……』
とりあえず逃げるべきか…。でも、体が動かない。恐怖で動かないというよりは足が光る鎖のようなもので地面と連結され、物理的に?動かない。
『静かにしな…。暴れても簡単には解けないさね…』
『おっ、俺を離せー!』
『ちょっとうるさいね…』
口がチャックを閉めるように左から少しづつ閉まっていき、僕の口は完全に閉まった。両手も地面に縛り付けられて完全に身動きが取れない。
まずい…。このままじゃ…僕は死んでしまう!
『うっ…ぐぐっ!』
『やっ、やり過ぎだよ!』
『人払いの魔法をかけてるとは言えね…。こっちの世界じゃどこまで使えるかもわかんないんだから静かにしておいて…』
『そうだけど…』
『今から言うことは決定事項だ…。この子の代わりにこの子の世界で、魔法学校に入り大魔法使いを目指しな』
『うぐっぐぐ!』
『…悪いんだけど、僕は邪神を封じに行かなきゃいけないんだ。しかも、旧王族の末裔が絡んでてね…。相手が一人じゃないってのが面倒くさいんだよ。だから…僕が動いていることを悟られたくない…。…ん? ねえ…クロ…僕の顔色悪くない?』
『アンタの顔色? 悪くないさね…』
『違うよ…。この世界の僕だよ…。…なんか青色になってるんだけど…変な魔法掛けてないよね…』
『うぐっ…ぐっ…ぐっ…』
『……掛けてないさね…。でも…確かに……様子がおかしいね。…騒ぐんじゃないよ』
黒猫の尻尾がフワッと動くと、僕の口元がゆっくり開いた。僕は大きく息を吸い込んだ。
『はぁ…はぁ…はぁ…。息がやっ、やっとできる…。僕を…殺すつもりか……』
『大げさだね…』
『俺はこの季節は花粉症なんだよ! 鼻呼吸が出来ないんだ』
『…花粉症?』
『…花粉症?』
初めて聞いた言葉のようだ。僕は目の前にいる奴らに説明してやった。猫の方は黙って聞いていたが、もう一人の僕の方はうーんうーんと唸っていた。
『……クロ…やっぱりやめよう…。別の手を考えるべきだ…』
『私もそんな気が少ししてきたよ…』
『…ごめんね…僕……。…記憶を消すよ……。お詫びに花粉症が治る魔法をかけとくよ』
『おっ、おい……』
目が覚めると、自室で僕は買った本を抱きかかえてグッスリと寝ていた。こんなにもグッスリと寝れたのは久しぶりだが、一階からご飯ができたと大声で呼ばれて起き上がった。
『食べたし……勉強でもするか…。えっと……何冊か買ったんだよな…。サラッと読んどくか…。…ん?』
どうやら間違って買ってしまったらしい。何冊もおかしな本が紙袋の中に入っていた。
『なんだよ…よくわかる戦闘魔法って…。こっちは実録…魔法薬学…。…なら…教科書でも……。…これ………なんだ…? なぁ…母さん……。……………うわあああ!』
僕は一階に降りると普通にテーブルが宙に浮いて、布巾がテーブルを勝手に拭き、宙に浮いた水がジャバジャバとお皿を洗っていた。僕は何事もなかったかのように事実に戻り、部屋の扉を閉めた。
『…なんだ…これ……。ここは…まさか…』
僕はおもむろに押し入れから小学校の社会の教科書を出した。歴史を少し読んでいくと、曖昧だった記憶が少しづつ崩れていき、あの幻覚を鮮明に思い出させた。ここは僕の知っている世界ではないと……。
これだけでも大きな問題ではあるが、魔法が当たり前だということを前提にすれば多少の理解はできる。ただ、ミステリー小説を読んでいるようなストーリー展開に疑問が残る…。
あの時、僕は外でバタンと倒れてしまったはずだ。でも…気づいたらこの部屋で寝ていた。この間の記憶が当然ながらない。無意識に帰ったとでも言うのだろうか。まぁ…そんなはずはない。
じゃあ、仮に彼がこの部屋に連れてきたのだとしたら、どこに行ったんだ? 邪神がどうとか言っていたが…。いずれにしても僕は彼に会わなければならない。そのためにも大魔法使いにだってなってやろうじゃないか。
「…どしたの? ぼっーとして…」
「…ユナ……」
「…なによ……」
「…であってるよな?」
「…はぁ?」
「なんでもない…。そういえば…クラス決めって…なにするの? やたら時間が取ってあるみたいなんだけど…」
「…まずは測定からね。私みたいな優秀な人は置いといて、貴方みたいな普通の人は三日間でテストが有るのよ…」
「ふーん…」
「ほらついたわよ…。じゃあ…頑張ってね…!」
係の人に案内されて着くと、どデカいスピーカーが空中に浮かんだ広場に連れてこられた。広場には数百人いてザワザワと不安そうにしている。そんな時、聞き慣れた声が聞こえた。
「えー皆さんこんにちは…」
ユナは本当に優秀なようでスピーチをしたあと拍手とともにどこかに消えて閉まった。その後、係の人に何十人か連れて行かれ、半分程度が広場に残った。続いてサングラスをかけた体育教師みたいなやつが急に出てきて、拡声器を使っているかと思うくらいの大声で叫んだ。
「いいか…残った貴様らは負け組だ!」
「……」
…なに言ってんだこいつ……。
「這い上がりたければ他者を踏み台にしろ!」
「……」
「…残ったやつが勝者だ!」
「…ぷっ……」
「………今笑ったのは誰だぁああ!!!」
あまりにもしょうもないことをいうのでつい笑ってしまったが、これは仕方ないだろう。毎年、あんな事を言っているなら、相当痛いやつだ。そんな事を思っていると、僕の顔が空中に大きく浮かび上がった。
「…ん?」
「…貴様かぁああ!!!?」
「…おっ、おえ!?」
魔法が使えるということを舐めていた。きっと監視装置もあるのだろう。
「…貴様はランニング十周だ! こいつを付けてだ! 他のものもそれをつけてグラウンドを一周走れぇえ!」
重りのようなものが空中から現れ、僕は言われるがままに取り付けた。だが、見た目よりは軽く、思ったより大したことはないが、皆の視線は痛い。
「…さっさと走れぇ! 」
「…終わりました」
「…貴様かぁ! いい度胸だな…。不正をするなんてな…。退学に……。…ん?」
「…十周走りました。少し疲れましたけど…」
大げさなポーズをしながら大きく足を上げて動いている。二十分くらいたったのに半分もゴールしていない。こっちの世界はスポーツなんてしないのだろうか?
「ぐぬぬ…。つっ……つぎぃ!」
どんどん次のテストに進んでいくと、気づけば僕一人になっていき、係の人は担架で生徒を何人か魔法で搬送している光景を見て、異常な事態に気づいた。次はバーベルあげのようだ。
「…重っ……」
「…さあ…今度はこれを持ってみろ! ……はぁ!?」
僕は何とか持ち上げると、周りの人間は目をパチクリさせていた。こんなの見た目だけで、そんなに重くはなかった。
「それなら…今度はこれだ!」
「はぁ…」
そうして、一日が終わった。
「ねえ…知ってる?」
「なんだ…ユナか…」
「なんだとは何よ…」
「…どうしたんだ?」
「今日…先生に反抗してとんでもない課題を押し付けられたアホな生徒がいるらしいのよ」
「ふーん…」
「…でも…全部クリアしちゃったんだって……」
「…凄いの?」
「…凄いわよ。私も観たかったわ…。明日の魔法のテストは皆注目してるわよ」
「…ちなみに魔法ってどうやって使うの?」
「冗談言ってないで帰るわよ」
こうして自宅に戻ったが、明日の魔法テストのことで頭がいっぱいだ。小学校用の魔法の教科書を見てもチンプンカンプンだ。とりあえず魔力の元みたいなものは出せるようになったが、ここから炎や雷に変換できない。いかにも簡単にできるように書いてあるのだが…。そんなこんなであっという間に一日が過ぎた。
「…まずいな」
とりあえず防御魔法は覚えた…と思う。これで命はなんとかあるだろう。どんな恐ろしいことになるかも見当がつかない。
「どこだ…あいつは……」
「……」
校門に着くとグラサン教師が立っていた。誰かを探してるようだ。きっと僕ではないと思いながら、下を向いて通り過ぎようとした。
「貴様…会いたかったぞ…」
ガシッと肩をつかまれて僕は止められたが、僕も問題事はこれ以上ごめんだ。グラサンを割りたい気持ちもあるが、ここは穏便にいこう。
「おはようございます。それじゃ…」
「まぁ…まて…。貴様には特別なプランを用意してある。これに合格できればAクラスに上げてやってもいい」
大魔法使いの定義は昨日の帰りにこのグラサン教師からもらった用紙に補足として載っていた。似つかわしくない可愛いイラスト入りだったのでそちらの方に驚いたが、どうやら三カ月に一度クラスの入れ替え戦があるらしい。
CクラスのものはBクラスにBクラスのものはAクラスに上がることができる。当然、逆もあるが、上にいるメリットもある。
まずは授業内容だ。Cクラスは主に基礎を勉強し、Bクラスは応用、Aクラスはプロと混じって、ほぼ実技のみらしい。実力もその分だけ差が開き、就職にアピールできる圧倒的にAクラスが有利だ。だから…僕の答えはこうだ。
「Cクラスで問題ありません」
「そうだろう……。Aクラスに…。ん? 聞き待ちがいか?」
「Cクラスでいいです。それでは…!」
「ちょっと待てぇえ…!」
最短で半年でAクラスに上がれるならそこまでメリットがない。まずはCクラスで基礎を勉強しなければ僕は死ぬだろう。あまりにも授業が偏りすぎている。それに一年に一度、学校を代表して戦う魔法大会があり、Aクラスの人間だけがそこに参加できる。その大会である程度の成績を収めれば大魔法使いの仲間入りだそうだそうだが、今の僕が運良く参加できたとしても悲しいことになるのが目に見えている。
「なんでしょうか?」
「貴様には特別なプランを用意してある。これは…強制だぁあ!」
「…はぁ!?」
「…先にグラウンドに立っていろ!」
「…わかりました」
全く横暴にもほどがある。そんな事を思いながら、グラウンドに立っていると、雲行きが段々と怪しくなってきた。なぜなら巨大な龍がどこからともなく羽ばたきながら降りてきて、僕の方をジッと横目で見ている。最初は驚いたが、流石にここまでとんでもない奴がいるなら大騒ぎになってもおかしくない。しかし、周りを見ても特に人が集まる様子もない。次の試験はドラゴン退治でもしろというのか。
「…流石に…倒せないよな」
「あの…」
「喋ったぁあ!?」
「ぼっ、僕を倒そうとしないでください…。…というか、僕の言葉がわかるんですね」
「…普通に分かるけど……」
「……ドラゴンの血とか浴びた方ですか?」
「……特に浴びてないけど」
ドラゴンか大きな火球を作り出したかと思うと、急に僕めがけて撃ってきた。あまりの唐突な攻撃に驚いたが、特にダメージを受けてないようだ。まぁ…テスト用のモンスターといったところだろう。
「…やっぱりダメージがとおりませんね」
「…俺さ……。今…死ぬかと思ったんだけど……。…本気で殴っていい?」
「……はははっ…御冗談を…」
「……」
「やっ、やめてください! なんでも言うこと聞きますから…!」
「…じゃあ、採点は満点にしといてよ」
「…採点?」
「…とぼけなくていいから……」
「…はぁ……?」
「おっ…。きたみたいだ…」
「おい! お前さっさと………に…ぉ…!!!」
グラサンが走ってきてるが、妙に足取りが重そうだ。腰が引けてると言うか…。生徒もなぜかこちらに来ない。むしろ、手を挙げて大声を出してる。応援してくれてるのか?
「…とりあえず、お前を倒せばいいってことか……」
「…なんでそうなるんですか!? 僕はお腹が減って動けないのに……」
「フリだよフリ…。…じゃあ…そうだな。帰りにハンバーガーでも食べに行くか…」
「…僕になんかおごってくれるの?」
「でっ、でも…その体じゃ無理か…」
「そこは大丈夫…。さあ…お腹の辺りに力をいれたから殴っていいよ」
「よし…じゃあいくぞ……。…おりゃぁ!」
「…おっ、おぼぉおお!」
軽く殴ったつもりだったが、妙な衝撃波が発生し、ドラゴンは涙を流してお腹を押さえながら暴れまわったあと、どこかに飛んでいった。素人のような演技だったが、まぁ…これで百点間違いないだろう。
「お前……」
「特別なプランって割には簡単でしたね。…次はなんのテストですか?」
「…今日は終わりだ。全生徒直ちに帰宅するように…」
「…もう帰っていいんですか?」
「…おっ、お前はしばらくここに立ってろぉお!」
なぜか思いっきり怒られたが、あとから来た大人達に事情を説明すると、教室に閉じ込められてしまった。僕がなにをしたっていうんだ!
「まいったな…」
入学早々…先行きが見えなさすぎる…。早く家に帰って寝たい…。
「くっくっく…」
「…ん?」
「なかなか見どころがあるじゃないさね」
「お前…あの時の黒猫!」
黒猫は窓から入ってくると、僕の前に座った。黄色に光る目が鋭く刺さるように僕を見つめてくる。
「ドラゴンを殴ったやつなんて聞いたことがないよ」
「そんな事はどうでもいい。俺を元の世界に戻しやがれ!」
「まぁ…それは置いといてだね」
「置くなよ!」
「…順調にいってて安心したさね……」
「…っていうか…この世界の僕はどこに行ったんだ!?」
「今は知らなくていいさね…。いずれまた…会えるさね…」
「…っ! あれ…」
どういうことかわからないが、黒猫は消えていた。その代わりに白い封筒に入った手紙が落ちていた。僕はそれをひらって開けようとしたが、どうやら開きそうな気配がない。これも魔法というやつなのだろうか。僕はそれをポケットに入れると、なぜか校門に僕は立っていた。
「えっ?」
「…やっと出てきた……」
「…ユナ?」
「…もう帰れるんでしょ?」
まぁ…今更また教室に戻るのも面倒だし、帰るか…。
「あっ…ああ…」
ユナは最初は特に他愛のない話をしていたが、やはり噂を聞きつけていたようだ。おもむろに立ち止まると、僕の方へ近寄ってきた。
「…そろそろ話してくれてもいいんじゃない? 朝の話…」
「…朝の話ね……。…どこが問題なのか分かんないだけど…」
「どこって…全部に決まってるでしょ……。なんなのあのドラゴン…。…あれ…?」
「…どした?」
「みて…。…あの子……」
「…ん?」
そんな時だった。白いワンピースを着ている赤い髪をした赤眼の女の子が苦しそうにお腹を抑えていた。彼女は涙目になって僕を睨みつけてこういった。
「…よっ、よくも……やってくれたな…。…責任は取ってもらうからな……」
「……」
「……」
「僕を忘れたとは言わさないぞ! 痛かったんだからな…!」
「……」
誰だ…この子……。
「…こんな小さい子を……。あなたって………」
「うっ……うっ………」
「ちっ、違う! こんな子知らない!」
「…警察…呼ばなきゃだね………。…もう…大丈夫……。…犯罪者は私の手で始末するから……」
「……僕を知らない………? …とぼけないでください!」
「…本当に初めましてだろ! ……おっ、おい、きっと…なにかの誤解だ…」
「…ぼっ、僕の…お腹に思いっきり…したくせに……!」
「…このゴミが……」
ユナの拳に段々と魔力が溜まっている。あれが完全に溜まったら終わりだろう。…というか…社会的に終わりな気がしてきたが、全く心当たりがない。こんな子なんて…。
「…ハンバーガー……」
「…ハンバーガー…? まさか…この子…」
「…食べ物で釣ったのね……。…貴方にはもう二度と美味しいものが食べれないほど血反吐を吐かせてやるわ…!」
「ハンバーガーを食べるまで僕は絶対に許さん!」
「まっ、まてよ…! この子…朝のドラゴンだよ!」
「…言い訳するなら…本気でピーするわよ」
「こっ、怖いよ……。じゃあ…本人に聞いてみろよ…」
「……あなたはドラゴン……なんかじゃないわよね…」
「…僕はドラゴンだよ」
それからハンバーガー屋に連れて行くと、さっきまでの機嫌が悪かったのは嘘のように消え、ルンルンでハンバーガーを何個も平らげていた。お腹が痛かったっていうのはなんだったんだろう。
「…ユナ……」
「…なっ、なにかしら?」
「…心…痛くないか?」
「……うっ………」
僕もハンバーガーを一つ食べていたが、ユナは注文したものの一口も手に着けない。こういうときは落としどころを提示してあげるのが無難だ。
「…会計は任せてもいいよな。…もう少しでピーされるところだったんだから…。…これでキレイさっぱり忘れるよ」
「……わっ、わかったわ…」
「そういえばユナって、豪邸みたいな大きな家に一人暮らしだったよね? …確かユナ以外…誰もいなかったような……」
「…ええ……。食事中に話しかけないでよ!」
「……悪いけどユナの家にいってもいいかな?」
「なっ、なにする気!?」
ユナはハンバーガー咥えて、少し混乱しているようだが、僕はこの子のことが少し気になる。色々と物事を整理したい。
「この子を少し調べたいんだ…」
「……」
「…変な意味じゃないよ」
「…わっ、わかってるわよ」
ユナの家に行き、この子の話を聞くと、どうやらドラゴンというのはこの子にとっては別におかしなものではなく一般的なものらしい。ただユナの反応は少し違う…。やはり…僕の世界と同じく伝説扱いのようだ。いるにはいるそうだが…。
「…僕にそう言われましても……困りましたね……。…うーん……。お腹空きました……」
「…どんだけ食べんだよ……」
「私…夕飯作ってくる……」
僕はドラゴンと二人になった時に、ふとおもったことがある。この子はもしかして僕と同じじゃないのかと。
「…ところで…君の名前を教えてくれないかな?」
「…僕の名前はマルティです」
「マルティね…。マルティは……記憶が最近無くなったとか……。邪神が復活するとか…。…そんな事なかったかな?」
…俺…なに言ってるんだろ………。
「えぇ…よくしってますね…」
「…あるの……!?」
「僕はその邪神を復活させようとしている奴らをコテンパンにしてた…はずなんてす…。…そんな時ですね。小さい黒猫と誰かが現れたんです。それで…気がついたら家のベッドで寝てました」
「…やっぱりそいつらか……」
「…そもそも…ここは僕のいた世界じゃない気がするんです。…と…同時に僕のいた世界でもある気がするんです」
「…どっ、どういうこと!?」
「んーなんというか違和感があるようでないんですよ…。例えば…家が狭いので、僕は常に苦手な人化をしなければならなかったのです」
「…うん」
「…ですが、そもそもこんな事をしなくてもいいほど、家がもっと大きかった気もすれば、最初からこの大きさだったといわれればそのような気もする…というような不思議な感覚です。実家のような安心感といいますか……」
「それは少し意味がちがうような気がするけど…。確かに魔法の教科書をみていると、あれ…これやったような気がするなって不思議な気分になってたよ」
魔法なんて信じられないが、抵抗感もなく既に信じてしまってる自分が確かにいる。この子の姿を見たときには驚いたが、そこまで違和感をかんじなかった自分がいる。歪な世界に溶け込んでしまっていると言うか…。
「そんなこんなで…僕は仕方なく…お腹がものすごく減るのでとりあえず休眠モードに入りました」
「…なにも食べずに寝てたってこと?」
「…まぁ…そうなります」
「でも…なんで学校に……」
「私もこの姿で行くかは迷いましたが…学校もありましたし…。…何より学食のランチだけでも食べれればと…」
「そうなんだ…。…っていうか……ん? 同級生!?」
「はい…。あなたがグラウンドに立っていたので、僕もシレッと立って遅刻したことを誤魔化そうとしたのですが…。いきなり腹パンされるとは思いませんでした…」
マルティは膨れ上がった可愛いお腹を抑えていた。こんな子にパンチをしてしまった事を思い出すと、罪悪感がやはり拭えない。
「…ごっ、ごめん」
「……それだけですか…?」
「…えっ?」
「…まぁ…私もあんな姿で学校に出てしまったからには少しは悪いと思っています。…ですが…やはり…ハンバーガーだけでは許せませんね……」
「…どっ、どうすれば……」
「…僕を…僕を飼ってください……」
「…えぇ……」
「学校がある日は二食で構いません…」
「…いや…流石に……」
「…僕を見捨てるんですか……。…仲間じゃないですか……!」
「わかったよ。…でも、俺の家は無理だ……。…ユナに頼んでみる。協力してくれよ」
「…ありがとうございます!」
ユナが料理を持ってくると、二人してガシッと肩を掴んだ。僕は料理をテーブルにさっと移動してユナを座らせるとマルティの事を頼み込んだ。最初は抵抗していたが、僕が疑われた時の話をすると、あっさりとオーケーしてくれた。
「…はぁ……。あんたにも食費は払ってもらうわよ…」
「…俺が!?」
「…僕も少しは払いますよ」
「…いいのよ…マルティちゃんは……。少しは慰謝料払いなさい」
「…わかったよ。……犯罪者になるよりはマシだ…」
「犯罪者ですか……。…うーむ……」
「どうしたの…マルティちゃん?」
「…僕の仮説が正しければ…既に犯罪者になっています……。…まず…部屋での出来事を思い出してください…。…他の人にはいえないことがあったはずです」
「……どういうこと!?」
「……あなた…私の部屋でなにしたのよ!」
僕は両手を広げで左右に振ったが、拳が届いたほうが早かった。魔力がこもってなかったが、頬がジンジンと痺れて痛い。
「…いえ…やはり…僕の早合点でしょうか。…聞かなかったことにして…。…無理そうですね……」
「…ああ…もう無理だな…」
「…私はなんとも思ってないけど……。…警察に突き出すだけだから……」
「うーん……それは困りましたね…。まず…部屋というのはこの部屋ではありません。…僕達が出会う前に自分の部屋で出来事があったのです」
「そうそう…。…だから…この部屋じゃない。まずは殴った事を謝ってほしいんだけど…」
「……えー気になる。マルティちゃん…早く続きを……」
…むっ、無視か……。
「続きについてはまた今度にしますが、少し話題を変えましょう。……ユナさんは僕がドラゴンだと知った時、違和感を感じたはずです……。…今はどうですか?」
「さっき言ってただろう…。確か…伝説扱いだったよな…」
「…なに言ってるの……。……どこにでもいるでしょ? 数は少ないでしょうけど……」
ユナの回答がさっきとまるで違うことに驚いた。僕達以外にはそれに気づいてないのだとしたらとんでもないことだ。だとするなら…僕が殴ったということが…。
「……僕たちのような異物がこの世界に影響を受けているようで、影響も与えてるのです。…あなたなら…この意味がわかるはずです」
「……まさか…まさか…」
「…どうしたの?」
「そう…。……あなたは校庭に現れたモンスターを殴った英雄から、可憐な同級生を殴った愚か者になったのです…。…明日は魔法教育委員会や警察の聞き取りが始まります…。……残念ながら…僕が被害届をだせば確定です……。…この意味がわかりますか?」
「そんな…そんな……。…ん? でも…よくよく考えるといきなり火を吹いてきたよな? これって正当防衛なのでは……」
「…マルティちゃん…そんな事したの……」
マルティは何が悪いものでも食べたような青白い顔に変わっていき、冷や汗をダラダラとかき出した。
「…まっ、待ってください! こいつが僕の顔を見るなり、倒せそうとか言われたので私も正当防衛です…!! ケンカを売られたんです!!!」
「いーや…でも手は出してない! 会話の途中だった…!! それを…お前が…!!!」
「…ちょっと待って!! つまり…入学早々…二人がケンカしたって事?」
「……」
「……」
「…それって…下手すると、停学とか…退学になるんじゃ……」
「そんなわけないよな!」
「そうです! ドラゴン族の挨拶ですよ!」
「…そんなのあるのね。もう寝ましょ……。…あなたは帰ってよ」
次の日、学校に行くと、職員室にマルティと共に呼ばれた。恐る恐る話を聞くと、反省文を書く程度ですんだので一安心したが、そもそも昨日の騒ぎが起きたことすら皆は認識してないようだ。
じゃあ、何の反省文をかけというのだろうか。とりあえず、当たり障りのないことを羅列させとけばいいのだろうが…どうにも消化不良だ。
「なぁ…マルティ…。…昨日は殴って悪かったよ」
「僕の方こそ…すみません」
「そういえば今日はスライムっていうモンスターを倒すらしいな…」
「…初級モンスターですね」
「そいつらを十匹倒せたやつは、トーナメント戦で戦っていくらしい…。でも…あの様子だと…残ってるのは数人くらいってとこか…」
「みたいですね…」
黒いジャージをきたグラサン先生に言われたとおり、皆がテストを受けてる最中は水を入れたバケツを持ってグラウンドに立っている。僕達は他愛のない話をしていたが、ふと空を見ると、今日も雲行きが怪しい。
「バケツか…。並々に入っているバケツと掛けまして…理不尽に対する不満とときます」
「その心は…」
「そろそろこぼしそう…」
「はははっ……。今日のお昼なんだろ…。…スライム…あまりおいしくはないんですよ…。…口直しに美味しいものが食べたいです……」
「…えっ? 食べるの…」
「…じょっ、冗談です。ドラゴンジョーク…」
「はははっ……。…それで話は変わるんだけど、今度は別のドラゴンが空中に浮かんでるんだけど、あれって親戚だったりする?」
小型の黒い鳥のようなドラゴンが何匹も何匹もカラスのように集まってきている。今はまだ旋回しているが、いずれ降りてきそうだ。僕はスッとバケツを置いて状況を確認した。
「…あれは動物園にいるような感じのやつです」
「…はははっ……。皆…避難してるんだけど…俺達忘れられてない?」
「…なかなか面白いドラゴンジョークですね。…皆さん手をふってますよ。…テストなのでは?」
「…じゃあ…あいつらの相手は頼んだよ。あとから犯罪になって…刑務所ぐらしは無理だ…」
「…一緒にやりましょうよ」
「三食キチンと出ると思うぞ。…差し入れにハンバーガー持っていってあげるから……」
「…ユナさんにいいつけますよ。…僕を一人で戦わせたと……」
「…ぐっ! でも…強いんだろ? あんな火の玉撃てるんだし…。…僕なんか戦った経験もないのにそもそも戦力としてカウントしないでよ。…早く巨大なドラゴンになってあいつらをやっちゃえばいいじゃないか」
「…それは無理です。…僕は思ったんですよ。ここでドラゴンになる事自体が危険なのではないかと…」
「…まさか…またなにか……」
「…そう…変態です」
「はい…?」
「…空を見てください」
空をみてみたが特にさっきと変わった様子もないが、マルティの方を見ると少し顔を赤らめている。赤くなる要素がわからない。
「…どうしたの?」
「…以前に人間のお友達に言われたことを思い出しました。…お前たちは素っ裸で飛んでるが恥ずかしくないのかと……」
「……えっ?」
「…私の基準でいえば確かに人化した時は服を着ています。…が、ドラゴン化した時は巨大な魔力鎧を纏っているため、そもそも見えないのです」
「結局…裸体なのか…」
「違います! …が、完全に否定することもできないという事実もあります」
「つまり…昨日の出来事は…校庭に突如現れた変態暴行犯を俺が撃退したっててことか…」
「…失うものがなければ僕はなんだってできるタイプですよ」
「…冗談だよ。…でも、話を聞いてる限りはドラゴン化しても問題ないんじゃないか?」
「…問題となるのは…また、人化したときに僕は素っ裸なのです」
「…前はどうしてたんだよ……」
「…魔法の服があるんですよ。…破れても元の姿に戻ったときに光を放ちながら元に戻る服が…」
「なんか…魔法少女みたいだな…。」
「…恐らく…この制服にはそのような機能はありません」
「…じゃあ…そろそろ…襲ってきそうだから、その姿で戦えばいいんじゃないか?」
マルティは急に弱々しい声になった。僕はとても嫌な予感がしたので、迫りくる大軍をみて一歩後ろに下がると、マルティはガシッと僕の腕を持った。
「…前にもいいましたが、僕は人化が苦手なんです。巨大な魔法なんて使えば一瞬でもとに戻ります…」
「…じゃあ…どうしろと……」
「……」
「…そんなつぶらな瞳で見られても……」
「…あなたにはとてつもない力を感じます……。…僕は…そんなあなたに賭けてみたいのです…」
「…つまり…あいつらを僕一人で相手しろと……。…むっ、無理言うなよ!」
「…さあ、きましたよ!」
僕はマルティを抱えてドラゴンの攻撃をなんとか躱した。防御魔法のシールドを何個も重ねて校舎に逃げ込もうとしたが、奴らの速度には負ける。…というか、マルティがめちゃくちゃ重い。…という、マルティがすでに噛まれている!?
「…マルティ…大丈夫!?」
「体の硬さはむしろアップしています…。…質量は変わりませんから…」
「…体重…何キロあるの…。…一トンくらい?」
「そこまではありません…。…ですが、僕を抱えて逃げるというのはなかなか良いシチュエーションです…。今のセクハラはなかったことにしましょう。…さあ…次はなにをしますか?」
僕はマルティの足を噛んでるドラゴンの口を思いっきり開けたあと、尻尾を掴みブンブンぶん回した。そして、思いっきり投げるとボウリングのピンのように吹っ飛んでいった。
「…よし…逃げるぞ…!」
「…見ているだけでおしりが痛いです」
奴らが怯んだので、なんとか校舎の中には潜り込めたが、逃げる様子もない。ゆっくりとだが、近づいている。
「…どうする……」
「…防御魔法を使ってみればいかがでしょうか」
「…どこに?」
「…彼らの尻尾にです。いいから…やってみてください」
「…シールド魔法…発動!」
ドラゴンの尻尾にシールド魔法を発動すると、重いのか分からないが、途端に動けなくなっていた。…とりあえず、三日目は無事に終わりそうだった。この後に黒い獣を操る剣士と戦ったり、白い封筒から妙な剣が出てきて、次の日のトーナメント戦で闇落ちしたユナに殺されかけるのはまた後日話したいと思う。それでは…また…会いましょう。もう少しで君も違和感がなくなってきてるだろうから…。




