02. 赤ピクミンは水溜りに沈み、青ピクミンは炎に焼かれた
「久しぶりでござるな。拙者ヤキトリでござるよ。にんにん」
メイド服に編み上げのブーツを履いて、腰には日本刀を差しているけども。そのポニーテールには見覚えがある。孤児院の子供達は全員ポニーテールだったからね。僕達は出てスグに解いたけども、結婚式ではポニーテールにしていたから、彼女の方も僕達が分かったみたいだ。正装といえばポニーテールな気がするのは、毎朝みんなの髪をといてポニーテールに結ってくれたシスターへの感謝からかな。
神社なのにシスターというのが、異世界知識しかない僕達には今でも不思議だけどね。あのシスター、ある日突然失踪してしまったけども。何処に行ってしまたのだろう。神社では昔から、人が突然消えたり、逆に現れたりはよくあるんだそうだ。異世界転生ってヤツらしい。
「そのござるとかにんにんってのは?ダモンの方言なのかしら?」
「いや?ただのキャラ付けナリー」
「お姉ちゃんが相変わらずでごめんね」
妹のスズメちゃんも一緒に帰国したんだね。姉妹は無事にダモン王国に亡命出来て、近衛騎士予備校にも入学出来たそうなんだけども。
「ダモン王国で革命が起きちゃったでしょ?お姉ちゃんは王女様の護衛に就職出来たんだけど、王女様も居なくなってしまったから失業しちゃって」
「妹のスズメも予備校は卒業できたでござるし、この街に帰ってきたナリ」
「革命かー。主君が居なくなれば近衛騎士は失業だよね」
「失業しているのなら、私達の家でメイドと護衛をしたらどうよ?」
「かたじけない。そうするでござるよ。悪魔が現れても主君を守ってみせるでござる」
「昔に戻ったみたいだね」
四人でまた一緒に暮らすのはいい事だよ。アパートの部屋は余っているしね。でも、他人を雇う前に問題があるんだよ。
「失業といえば、僕もそんなようなもんだったよ。今ここには沢山の貴族が来てくれているから、営業をしておこうか」
「そうね。聖書の代書が必要なのは貴族だけだもんね。考えてみれば貴族と何のコネも無ければ、仕事の依頼もないわよね」
「その通りだね。今日はチャンスだ。結婚式をして良かったね」
神社で結婚式を行うのは20年ぶりなんだそうで、珍しがった貴族達が多数参列してくれた。国王まで居るよ。無精髭に上下スウェットでサンダル履きのおっさんで、とても一国の主には見えないけれど。他にも銀行の頭取や、学園の理事長なんかも来てくれている。ご祝儀という習慣がもしあったら、それだけで一生暮らせる財産になったかも知れない。
「うーん。ここでテロを起こしたら、この国はオシマイでござるなあ」
「お姉ちゃん?その通りだけどね?物騒な発言しないでよ」
女騎士というと、日本人的な感覚だとラノベの脇役で「くっころ!」とか言ってるイメージだけど。軍人だからね。視点がものものしいよね。
「貴族を紹介して欲しいの?代書屋の事を教えた我が言うのもオカシイ話だけどね?貴族には関わらない方がいいよ?仕事なら、うちの事務所で雑用でもすればいいよ」
知り合いの中で貴族と接点のある堕天使姉さんに相談してみたところ、そんな回答だった。どういうこと?
「あー、貴族ねー。うん、ムーンライトちゃんの言う通りだよ。巫女ちゃんもオススメはしないよ。看板だけ掲げとけばカッコ付くんだし、働きたいなら神社のアルバイトでもすればいいよ」
「我は、ダークネスだけどね。堕天使は名前に拘らないから、なんでもいいよ」
今日は堕天使が五人全員居て、誰が誰だか分からないよ。五つ子だからね。片目を隠している長い前髪の先端が違う色で染めてあるんだけど、頻繁に色間違っているからね。区別するのは無理。本人達も区別ついているかアヤしい。
巫女も20人居るとウォーリーを探せよりも混乱した状態だよ。双子と三つ子と五つ子と六つ子と従兄弟とー?んー、四人の残像が並んでいるようにしか見えない。こっちの方がニンニンって感じ。
「聖書を代書するのがキミの運命ならば、いつかどうしても書かざるを得なくなるよ。それまでは、子育てをしていれば?ドラゴンの世話もあるでしょ?」
そうかな?そうかも知れない。せっかくの助言だし、従っておこうかな。決して、ずっと遊んで暮らしたいわけではありますん。