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子供水先案内人  作者: M.J
5/5

迷子の迷子の、案内人?!

さぁさ、今度の案内人は な な なんと!迷子?!どっちが?案内人か?それとも子供の魂か?!

迷える子羊とは聞くけれど、迷える案内人とは聞いたことがないぞ。どうする?どうするんだ案内人。

とにかく、逝く?逝くしかないだろう案内人!!


「どうしよう…。」


真っ暗な中、案内人は困り果てていた。前後左右と言わず、上下の区別もつかないのだ。


気にせず進めばいいと思うでしょ?


ところがどっこい、少し進めば()に向かって()()()んだもの。かと思えば、今度は右に左に引っ張られる。


「これ、出られるのか」


そんな一抹の不安を抱えながら一歩、また一歩進んでは落とされていく。


ああー

「何度目なのーーー。」


今度も派手に上に向かって落ちていって、叫ぶのだった。


 数時間前ー。

案内人は一つの魂の叫びを聞く。


あ、

「はいはい、すぐ行くよー。」


ご機嫌で応えて魂の元に向かう。


はい

「はーい、今日は誰かな?」


そんな”のり”(今日はどの患者さんかな?位の)で来たのだ。

 行くと、小さな女の子がうずくまっている。


ちょ

「っと、大丈夫?」


案内人の仕事そっちのけで心配した。魂になってからも、()()というものはある。生きていた頃の感覚が消えない、特に死にたての頃は生きていた頃の感覚に近い。だから、痛みや、苦しみを訴える子も多いのだ。

案内人はその子に不用意に近付いてしまった。


あっ


と思った時にはもう遅かった。


いたい

「、苦しいよ。」



パチンッ


と何かが弾け飛ぶ音がして、辺りが闇に包まれてしまう。魂だけが引き起こせる現象だ。実際に暗くなったわけではない。現実世界には何の影響もないのだ。だから、近くを通る人々はこちらを見ることもなく、忙しなく過ぎてゆくし車だってバイクだって何事もなく通って行く。

だが、案内人は困るのだ。”魂の結界”に閉じ込められたのだから。

これは魂が使える特殊能力の一つで、誰でも使える。が、その能力の存在を知らなければ使()()()()。だから誰でも使えるが、殆ど()()使えない。そして、厄介な事に張った本人にしか解除出来ない。正直、ここまで自由に魂の力を使いこなす子がいると思ってもいなかった。


確か

「生まれた時から、霊力があったって聞いたけど。」


閉じ込められたのだから、もう少し慌ててもいいのだが案内人は出来るだけ冷静に、自身の気持ちを落ち着けるように努める。慌てていては、対処すべき時にそれが出来ないからだ。


ええと

「大丈夫?かな?真宙(まひろ)さん。」


そう

「こんな時でも、対処出来るのね。いいわ、相手してあげる。」


何だかちょっと小生意気な返事が返ってきた。うずくまっていた女の子は

すく

と立ち上がってこちらを見ている。


そっか

「よかった、大丈夫そうだね。」


そう言って微笑んだ案内人を真宙は恐い目で見据える。何か恨んでいる様な目つきだ。

(うーん、これ()()まで行けるかあ?)

と、何時になく弱気に考える案内人。

霊力があったとされる人間は、()()()の事をある程度知っている事がある。だからこそ危ない、だからこそ()()()()()()()()ならない。

 彼女が何故ここまで憎悪に満ちているのかを。


「自己紹介がまだだったね。僕は魂を導く案内人、えっと名前は無いんだ。なので、”おじさん”って呼んでね。」


奇妙な紹介に、真宙の表情が崩れる。この程度で崩れるのなら、まだ()は抜けそうだ。

 案内人が差し出した手は、触れられる事なく無視されてしまう。


(あらー?もしかして、バレてる?)


案内人の()()、いやいや能力の一つをである。この力があるお陰で案内人は仕事を進められる。特に警戒心の強い子や、真宙のように疑り深く大人びている子はこちらの話を聞いてもくれない事が多い。全く知らない人と話すのと、案内人であると”分かって”話すのでは子供の態度が違うからだ。

だが残念ながら、今回はそれが出来るかどうか怪しい。


(まあ、何とかなればいいけれど。)


そんな一抹の不安を抱えながらも取り敢えず、無視された手を仕舞う。


貴方

「一体何が目的?死んでまで私にどうしろって言うの?お父様の差し金だってことくらい、分かってるんだからっ。」


叫ぶように声を荒げ、周囲が空気ごと震える。こんな事を引き起こせる魂はそういない。(前回の賢太郎が車のボンネットを凹ませられたのは、単なる偶然でしかない。)それも、自分自身で意識してやっている。


(うわあ、凄い。)


頭の片隅でそう思いながら、


えー

「っと、僕は君を迎えに来たんだけど?どうしたら()()()貰えるかな?」


案内人のその言葉に真宙は異常に反応した。


「?()()()ですって?何を?誰を?私はもう誰も()()()()!!」


あっ


っと思った時には、もう”黒い迷路”に()()()()()()()()()()()


ふふふ

「貴方はもう、そこから出られないわ。そこでずっと彷徨って、魂が消滅してしまえばいいわ。」


悪役令嬢よろしく、わざとらしい笑い声を上げる。きっと何かのアニメの影響だろう。


それは

「困るなあ。」


閉じ込めたはずの案内人の声がすぐ後ろでする。自分の力を過信していた真宙は、驚き過ぎてつい”地”が出てしまう。


きゃ

「あああ、貴方、どどど、どうして?何で、外に?」


(今だ。)


案内人はその一瞬の隙を逃さなかった。

っと真宙の頭に触れる。


ごめんね

「僕には効かないんだ、そういうの。」


真宙が言葉に詰まっている間に、

ふわふわ

の癖っ毛頭を優しく何度も撫でる。真宙は案内人に触れられた途端、顔を真っ赤にして俯いてしまう。これで彼女も案内人の事を”分かった”はずだ。

 

でも、


案内人はしゃがみ真宙と目線の高さを合わせる。


「もし、君が作った迷路を僕がこの力を使わずに出られたら、その時は僕に君を”見送らせて”くれない?」


貴方

「…馬鹿なの?」


泣いているかと思ったが、そんな事は無かった。今までの何やら演技掛かったトーンの声ではない。これが本来の真宙の声なのだろう。


それじゃ

「貴方に何の得も無いじゃない。お父様が送ってきた人じゃないのは分かったけれど、それは取引にならないわ。」


真宙は腕組みして案内人を見据える。睨まれなくなっただけまだましだが、真宙の瞳の奥には憎悪が見え隠れしている。


それで

「いいんだよ。仕事だからというのもあるけれど、僕は君を見送りたいんだよ。」

(やっぱり、手強いなあ。)


これは、相当の覚悟を持って挑まなければならない事になりそうだ。

しかーし!そんな事を言っても始まらない。何が何でも”天”へと逝ってもらうために、死力を尽くすんだ!


 

 そういう訳で、最初に戻る。

右に左に振り回されながら、それでも進んで行き、また落ちる。


ふふふ

「進めてないじゃない。そんなんじゃ、いつまで経ってもゴールに辿りつけないわよ。」


という真宙の声は案内人の所にしっかり届いている。案内人が頼んだことだ。こちらの声も届いているはずだ。散々落ちて叫び声を上げる度に笑い声が聞こえてくるからだ。


そうだね

「でも、できればそろそろ明かりかなんかあると助かるんだけど。って、うわあー…。」


今回は落ちたのではなく、目の前に急に真宙が現れたからだった。


「こんな事で驚いててどうするの?そんなんじゃその仕事も続けらんないわよ。」


「ちょっと慣れなくてね。でも…。」


一番の原因が、真っ暗な空間に真宙が自分の顔を照らしながら現れた”顔”が怖かったから。


(何て、口が裂けても言えない。)


でも

「?何よ?」


むす

っとした顔で腕を組む。何故だか迫力満点だ。案内人は

いやいやいや

と首と手を同時に振って否定した。


なんでも

「ないない。ないよー。」


真宙は

やれやれ

という感じで軽く息を吐き肩を窄めた。


ご希望に

「お答えして、明かりを持ってきたんだけど、いらなかったかしら?」


そういう真宙に案内人はすがりついた。


は、はい

「要ります。要りますです、はい。」


情けないとさえ思える姿に、真宙は機嫌を良くしたのか

にっこり

笑みを浮かべる。


助けて

「あげるのはこの一回だけよ。あとは自分でなんとかなさい。」


それだけ言うと、

っと消えてしまう。

しかし、灯りがあるだけでも大助かりだ。


ぼう


とした灯りに照らし出されたのは、巨大な”箱”を思わせる迷路。横にも上にも、黒い壁の路が張り巡り、その色のお陰で余計に暗く見えている。

 そしてまた、例によって”落ちる”。


ああー


っと、今回も落ちて行ったが視界の端に映った景色は前とは違う。はっきりと迷路の中央に降り立ったのだ。真上には先程まで歩いていた路。


(本当に凄い。11歳で魂の力でここまでの物を作り出せるなんて。これ、送る前に()()()に報告案件だなあ。)


ほけー


としながらそんな事を考える。

真宙に貰った灯りで

キョロキョロ

見回しながら進む。見えているのと見えないのとでは、やはり雲泥の差だ。案内人はもう一つの能力に頼りながら進んで、ある場所で歩みを止める。


どうしたの?

「早く進みなさい。」


そこからなかなか動こうとしない案内人に真宙が痺れを切らす。何だかとてもあと一歩進んで欲しそうな、そんな気がする。


(やっぱり、そうか。)

あのさ

「ちょっとだけ、休息してもいい?」


心とは反対の事を口にする。

案内人だって、気持ちが疲れるんだもん。

と、壁を背にして座り込む。

ここまでで、真宙の”やりたかった事”は大体分かった。なら、ここからは、真宙の”やりたい事”つまり”一つだけの願い”を見つけなければならない。


一つ

「聞いていい?」


案内人は何となく上を見て話す。


ちょっと

「気がついてるなら言いなさいよ。上から見てるって。」


あはは


当てずっぽうだったのだが。


真宙さんは

「生きていた頃、僕みたいな”存在”に会った?」


真宙からは暫く返答は無い。戸惑っているのか、それともまた怒っているのか。案内人は根気強く待つ。

の間に、頑張って上に広がる迷路の道順を頭に叩き込む。ついでに、左右も。


(反則かもしれないけど。)


背に腹は代えられません。だって、記憶力まで”無し”って言ってないもん。


「無いわ。死んだ人なら幾らでも見てきたけど。」

それに


真宙はウンザリしたような声で続ける。


「あの人達、私を見る目が”気持ち悪い”のよ!」


ズル

っと、それまで比較的にこやかに聞いていた案内人だったが真宙のこの言葉に、眼を点にした。


(な、何だって?!)

ど、

「どうして?」


だって


真宙は声を沈ませる。


「私があの人達を見ると、変質者の様な眼で”にたー”っと笑ってくるのよ。それだけじゃない、見ないふりしててもついてきたりするし、酷い奴は脅かしてきたりするのよ。」


最後は少し涙声になっている。相当怖い目に遭ったことがあるようだ。

案内人も流石に脅かす様な奴は許せないと思うが、


最後の

「奴は流石に駄目だと思うけど、他のは多分君に構って欲しかったのと、ただ笑いかけてただけだと思うよ。」


嘘よ

「だったら何故あんなに気持ち悪いのよ。」


うーん


案内人は立ち上がり、年寄り臭い仕草で腰を伸ばした。


死者

「と、幽霊には違いがあるんだよ。」


でも、

「意味は同じだわ。死者=幽霊よ。」


言葉上ではね


案内人は

キョロキョロ

進もうとしいていた路と、来た路を照らす。


ねえ

「少しだけ路を戻ってもいい?」


「好きになさい。どうせ、進めって言ってもそれ以上進まないんでしょ。」


ありがとう

「、と、さっきの続きだけど、僕達の中では明確に違いがあるんだ。死者はね、死んで未だ”お迎え”が来ていない人とお迎えが来て天に昇った人の事。」

で、

「幽霊っていうのは、お迎えを拒んで現世に留まっていたり、何かの理由でお迎えが来なくて、迷子になっちゃった人の事。なんだ。」


その事と、

「私が見た人達に何の関係があるって言うのよ。」


真宙の声がまた怒気を含んでくる。案内人は慌てて、


あ、

「だからね真宙さんが見たのは幽霊の方で、彼らは時間が経つにつれて生きていた頃の事を忘れちゃうんだ。笑い方や人との接し方、自分の姿まで忘れる事もある。」


と付け足す。

この世を彷徨う存在、幽霊は人間の目には()()見えない。が、何かの拍子か間違いかで霊力を持って生まれた人間にはそれが見えるのだ。だが大抵は見えるだけで、それ以外は何も出来ない。

真宙は生きていた頃、自身の有り余る霊力で幽霊を祓う仕事をさせられていた。

案内人もそのことを知っている。勿論、真宙の望みでも何でもない。


きっと

「真宙さんが見た人達は、”忘れちゃった”人なんだと思うよ。」


 現世に留まった幽霊達は、始めこそ生きていた頃と変わりなく過ごすが、次第に喜怒哀楽の感情も忘れ、自身の姿も忘れて魂を保てなくなり消滅していく。それは、単に自身の存在が相手つまり、人間達に認識されない事にある。

話しかけても誰にも答えてもらえず、知り合いから友人、家族に至るまで、認識されない。いや、見ることもその声を聞く事も出来ない。そんな”存在”になった。その事を幽霊となった者達は受け入れられず、心を壊し魂を消滅させていく。大半がそれに当てはまるが、一部そうはならない。生前もしくは、死んでから怨みに支配され怨霊となり長く現世に留まってしまう者達もいる。


とは言っても

「大したことは出来ないんだけどね。ドラマやアニメで表現されている様な事は、出来ないからね。”一般魂”は。」


忘れちゃう

「?大したことは出来ない?…それじゃ、私がしてきた事全部無駄じゃない!」


真宙がまた声を荒げたのは、案内人の話を聞いて腹が立ったからではない。案内人が正しい路を行き始めたからだ。

ヒョイヒョイ

と、落とし穴も、上に()()()()も避けて進む。


「こうなったら、」


真宙は迷路自体を回転させる。これにより、案内人はまた右に引っ張られる。


ああー

「ーー…、っと、とと。」


右側迷路に降り立ったが、かなり進んでいる。覚えた甲斐があったと、心の中で自分を褒めておく。


(この迷路、やっぱり何処を進んでも()()()()()()から落ちてもちゃんと進んだ先に着いてる。)

真宙さんは

「優しいね。」


貴方

「とうとう、おかしくなっちゃったの?」


いや

「優しいよ。君は迷路で永遠に彷徨え、と言いながらも手助けしてくれたし、迷路にもキチンとゴールは作ってくれてるし。」

それに


話しながら

スッタカター

とゴール近くまで走る。勿論罠をかわしつつだ。


「君は無駄だったと思うかもしれないけど、君がしてきたことは魂達にとっては唯一の救いだったんだよ。」


「う、嘘…。」


じゃない

「僕は君達に嘘は言えない。君が彼等を祓うという形で救ってくれなかったら、もっと長い年月を、心がすりきれても魂の消滅が訪れるまでずっと彷徨うことになるんだ。」

だからね


 案内人の声がすぐ後ろで聞こえる。が、真宙は驚かない。案内人が華麗にポーズを決めながら?ゴールまで辿り着いたのを見て知っているから。


「そんな地獄から、真宙さんは彼等を救ってくれた。僕の様な案内人達も救われた魂達も、君には感謝してるんだ。」


………


真宙は再び俯く。

はらはら

大粒の涙の粒が宝石のように溢れ落ちる。


……

「ぼん、どうに?」


本当に?と聞きたかったようだが、涙声になって上手く発音出来ていない。


本当

「僕が保証する。」


う、

「…ぅわああーーーー。」


真宙は初めて大声を上げて泣いた。

案内人は知っている。真宙は後ろめたさを感じながらも、霊を祓う仕事をさせられ、その事に疑問を持ちずっと葛藤してきたことを。

 

 自分は、何なんだろう?人間?神様?それとも…?

 霊達は敵?それとも私が霊達の敵?

 怖い、霊達を祓うのが。何故祓わなきゃいけないの?何も悪い事してなかったのに。

 霊達は私を恨んでないだろうか?無理矢理小さい子からお母さんの霊を祓った事もあった。

 やっぱり、私がいない方が良かったのかな?


生前から何度も何度も真宙が思ってきた事である。いつの間にか案内人にしがみつきながら、泣いた。

案内人は真宙の声が聞こえなくなった頃合いを見て、真宙を抱き上げた。


さあ

「それじゃ、次は何をして遊ぶ?」


え?


案内人は言葉通り、様々な場所に連れていった。遊園地、動物園、博物館にプラネタリウム、そして一生の内に一度は行ってみたいと言われるあの”ランド”にまで。そして最後に、真宙がいつも車で通りかかる度に

ッと見ていることしか出来なかった、アスレチック遊具豊富な公園。

 真宙は最初こそ戸惑ったような、興味の無さそうな顔をしていたが、案内人があまりにも次々に

ここへ行こう、あそこへ行こう

と言うので、終には本気になって遊び出した。


(やっと、年相応の顔になった。)


きらきら

の笑顔で遊ぶ姿は普通の子と変わらず、とても案内人を閉じ込めたり、苦しむ姿を見て笑う様な子には見えない。


いてて

「これは、後で筋肉痛だな。おまけの腰痛もかな?」


痛む

「筋肉も骨も、無いでしょ。」


しかし、しっかり揚げ足だけは取られる。

はい、そうです。筋肉も骨もありません。でも、そんな気がするんです。

2人は散々遊んだ後、ゆっくりと沈んでいく美しい夕日を高い塔の屋根に座って眺め、夕日がその日を惜しむ最後の一滴の光を見終わると立ち上がった。


時間ね


うん

「決まったかい?」


真宙は、何を?等と聞き返さない。”分かって”いる。


ええ

「私は、”生まれ変わる”わ。」


会わなくて

「いいのかい?通りかかる事くらいは出来るよ。”お願い”じゃなくても。」


真宙は無言で首を振る。が、多少後ろ髪を引かれていることは案内人にも感じられる。

 眼下に広がる大きな通りは薄暗くなると、街灯がつき始め夜の街へと姿を変えつつある。


会いたく

「なんてないわ。私はもう、自由に生きるの。…死んでるけどね。」


肩を竦めて言う。ちょっと、不本意そうな顔だ。


あはは

「僕に合わせてくれたんだね。嬉しいよ。」


ふん!


と、怒ったようにそっぽを向く。


でも

「今日はありがとう。なかなか楽しかったわ。」


それは

「良かった。お気に召して頂けたようで何よりです。」


と紳士らしく?優雅に?頭を下げた。


さあ、

「それでは、レディ。貴女の一つだけの願いをお聞かせ下さい。」


ええ

「私の願いはー。」


ザザア

と春の嵐が急に吹き、真宙の声を掻き消すが案内人にはしっかりと聞こえた。


「では、その願い”叶えましょう”。」


案内人は真宙の額に

そっ

と触れる。たちまち彼女は光りに包まれる。一筋の光が天から降り注ぎ、案内人と真宙を包む。


あったかい

(まるで、ママに抱っこされてるみたい。)


真宙は産まれて直ぐに母親を失っている。彼女が母の温もりを覚えているわけは無いのだが、今は魂の感覚で"分かる”。

光から使者が降りてくる。案内人と使者は何やらやり取りした後、先に使者だけが昇っていく。


ちょっと

「迎えに来てくれたんじゃないの?あれ?」


先に

「報告に行ってくれたんだよ。ちょっと特殊だからね、真宙さんのお願いは。でも、流石に”あれ”って。」


し、

「仕方無いじゃない。私はてっきり連れて行って貰えると思ってたのよ。」


(そっか。)

ごねんね

「僕の説明不足だったよ。真宙さんは僕と一緒に天に逝きます。」


分かったわ

「それじゃ、エスコートお願いね。」


差し出された手を、案内人は慎重に取る。

おっと、調子に乗って手にキスなんてしようものなら怒られる。ここは、我慢だ。

2人は光に包まれ天へと昇って逝った。

































真宙の、願いが叶ったかって?

それは、案内人にしか分からない。

しかし、この人間世界ではない遠い遠い異世界で、大賢者をも凌ぐと言われた魔道士が誕生したことだけは確かである。




案内人は、子供達の”願い”は必ず叶えてくれるのだから。

今日も行け逝け、案内人。

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