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子供水先案内人  作者: M.J
4/5

きよしこの夜、案内人。

シャンシャンシャーン、シャンシャンシャーン。

スズっがーなるー。聖なる夜に乾杯。

パフパフドンドン、さあて、お立会い?特別な夜に神様からのプレゼントだ。普段は立入れない魂達の楽園にご招待。よってらっしゃい、見てらっしゃい、見なきゃ損踊らにゃ損だよお客さん。

さあて、普段見えない所ではどうなりますやら...。



ふんふんふーん、ふんふんふーん。


ご機嫌で鼻先に歌を沸かせている案内人。雪の降りしきる中、幼い魂を2つ両手に抱え今日は何時もと違って天から降りてきた光に乗って、共に昇っていく。金色に光る帯の中、両手の幼い魂達が騒ぎ出す。


わちゃわきゃ


光の粒になったり、戻ったり子供達は忙しい。それを微笑ましく見守りながら登る。気分的には一緒になって騒ぎたい程だが、流石にそうはいかない。

大人たる者、常に後輩の手本とならねばならない。だが、この先の楽しみを思うと、ついつい頬が緩んでしまうのだ。今日はこの後”天”へと上がる許可が出ている。年に数度の機会だが、何時も楽しみにしているのだ。”天”へと送った魂達には会えるし、最近案内人訓練をしに上がった美咲、いや、()美咲にも会えるのだから。

いつもこの時を待ちに待っている。やりがい、を感じる事も出来るが、何より送り出すだけで何時もその後が気になって仕方ないのが現状だからだ。原則案内人は送り出すまでが仕事で、その後のことには干渉出来ない。ただし、イレギュラーが発生した場合はその限りではない。

 とにかく、滅多に来られないのが現状だ。しかし、案内人はこの滅多に来られない”ここ”が大好きだ。案内人の事を皆”分かって”いるし、何より身体が無いぶん皆自由なのだ。苦痛も、貧困も、飢えも、一切ない楽園だからだ。

ここでは、子供達の魂も苦しむ事は無い。それが案内人にとっては何よりの喜びであり、ご褒美だ。


さて

「漸く着いたねー。」


子供達に話しかけながら使者が迎えに来るのを待つ。

あまり待たずに使者はやって来る。魂を受け取ると、何時もの様にあやしながら連れて行く。

 ”天”とは人間達が想像している、死後の世界だが、天国や、地獄がある訳ではなくただ魂の()()が行われている。それぞれの輪廻の輪に従って一時的に、生まれ変わるまでその()を置くだけの場所だ。

 だから、と言うべきなのか否か、忙しなく魂達は入れ替わっていくし、その魂達の世話をする使者達も忙しそうにしている。特に年末のこの時期は人間達の世界も忙しいが、”天”も忙しいのだ!!


うーん

「いつ来てもいいねー、ここは。」


軽い足取りで目的地まで行く。まず最初に向かわねばならない所へと。次第に使者達の数が減り、代わりに案内人にとっては天敵とも言えるような存在、()使()()が増えてくる。同じ”天”に居るにも関わらず案内人が


「敵だー。」


と思っているのには理由がある。ここに居る()使()()の大半が本来の目的である”天”での仕事を放棄し、ここで遊んでいるからだ。


ただ、

「全員がそうじゃないから憎みきれないんだよな。」


しかし、この遊んでいる天使達が案内人の”神”を困らせているのも事実。


せめて

「交代交代でもいいから、仕事してくれればあの方も悩まずに済んだのにね。」

まあ


そんな事言っても仕方ないか。

何せ目の前の天使達は歌に音楽に、

こいつら、酔ってるのか?

と言いたくなる程に騒いでいるのだ。

案内人が進む毎に少しずつ静かになって、

ヒソヒソ

とした話し声がする。それも内容が聞こえるようにだ。仕事をしないくせに、文句だけは一人前の”誰かさん”のよう。


まあ

「大きな顔をして。たかが”案内人”如きが。」


仕方が

「ありません。我々天使と違い、”あんな者”に作られたのですから。」


口々に好き勝手な事を言う。何度も聞いてきたが、いや、何度も聞いているからこそなのか、我慢も限界に達している。


いい?

「ちょっと我慢の限界なんだけど?」


左手を

わきわき

させながら、珍しく案内人が怒りを顕にする。

パチ

っと周囲の空気が弾け、途端に天使達が慌てだす。何の力も持たない天使達だが、案内人達よりも永く生きている分だけ、”偉そう”にしている。


そこも

「いやーなとこなんだよ!」


ちょっとくらい長く生きてるからって、威張んなよ!

と言いたい。


こっちは

「”お前達”の分まで働いているんだ!」


何時も何時も、これが一番嫌だ。怒りを表に出さなければいけない瞬間が、だ。

まあ、天使達の場合自業自得と言える。


バチバチバチ


周囲の空気はさらに弾け、天使達が跪き頭を下げる。


ふーーーん


と案内人は珍しく感情を乗せない頷きをし、

さっさ

とその場を後にする。あれ以上付き合っていても何の得もない。だが、目的の場所迄は必ずここを通らなければならないので、仕方がない。

本当なら、こんなとこ通りたくもないのに。

ぷんぷん

怒って進んで行くと、花々が咲き乱れるその先の方から元気な声がする。


じゃあ

「皆、円を描いて〜。そうそう、いい感じ上手よー。」


つい最近聞いた懐かしい声だ。が、ちょっと違う気がする。低くなった訳では無いが、何というか声が()()()()()()()


あれ?


と思いつつ近づく。花畳が途切れ、石の敷き詰められた道の先に建物が見えてくる。その建物の前に光の粒が幾つも煌めいて幻想的な景色を作り出している。


(ああ、これこれ。)


と思わず笑みが溢れる。この光景を見ているだけで、日頃の疲れ(いや、疲れが溜まる身体はないのだが。)はおろか、さっきの怒りも無くなっていく。

案内人が光の粒達に癒されていると、建物の中から勢いよく飛び出して来た何かが


ドオオオオン


とぶつかってくる。そのまま一緒に飛ばされ道の脇に生えていた木の幹に受け止められる。


へぶぅ

「……な、何??」


案内人は何が起こったのか分からないが、咄嗟に”その何か”を受け止めた。

モゾモゾ

動いて、何だか柔らかい感触がする。


いたた

「おじさん、”おかえりなさい”。」


ひょこ

っと顔を出したのは、つい最近見送ったばかりの美咲だった。しかし、何だか雰囲気が違う。

案内人は思わず頭を撫でかけて、その違いに手を止める。


(何だか、大人になった?)


戸惑いながらも抱き上げるようにして、立たせる。


あわわわわ

「おじさん、私もう子供じゃないのよ。」


いいえ、子供です。

と言いたかったが、美咲の変わりようはそれを超えている。見た目がすっかり、大人の女性になっていた。だが、話しぶりはあの時のままだ。つい何時ものように話しそうになってしまう。


(あぶない、あぶない。)


ぶんぶん

頭を振ってその思いを捨てる。こんな時、何と言えばいいのかわからない。


(ほ、褒めたらいいのか?大人になったね?綺麗になったね?え?何?どう言えば??)


そんな事を高速で考える。


ああ

「いや、…えぇと、素敵に?立派になったね。」


案内人の奇妙な言葉に、美咲は目を丸くした。


「あはは、なあに?それ。」


ポン

と花でも咲きそうな笑顔で美咲は笑う。こう言う笑顔を見ていると、本当に癒される。


あのね

「おじさん、こういう時は」


美咲は腕を組み、片手を顎に当てて決めポーズをとり、わざと低い声で


「美咲さん、大人になったね。」

とか、

「綺麗になったね。」

とか、

「美しすぎて、一瞬誰だか分からなかったよ。惚れちゃいそうだ!」


台詞が変わる度に何だか妙なポーズをとっている。この辺りは相変わらずだ。


とか

「言ってくれないと。」


その事に何だか

ほっとする。


あ、

「じゃあ、2番目で。んっん、き、綺麗になったね。」


ちょっと決め顔で言ってみた。


あはは


とまた、花が咲く。


全ッ全

「だめ、駄目。」


美咲の

ノリ

に乗せられてつい、”そっち方面”にいってしまう。つい、真顔で、


「綺麗になったね。」


とやってしまった。美咲は

ぴく

っと表情を止めたが,すぐに戻った。


ぶっぶー

「はい、真面目な顔しても駄目です〜。」


「厳しい…。」


がっくり

肩を落とす案内人に美咲はまた声を立てて笑ったが途中で


あっ


と何かを思い出したように飛び上がる。


いけない

天使様(ラファエル様)に、おじさんを大聖堂まで連れてきてって言われてたんだった。」


ええ?


案内人は不快から声を上げたのではない。美咲が言う天使ラファエルは、”働く方”の天使なので案内人の中では他の天使達とは全くの別”者”。案内人同士と同じかそれ以上の仲間として、”尊敬の念”を持っている。

が、こんな風に突然呼ばれた事は無い。


(何か、大変な事でもおきたのかな?)


 美咲の言う大聖堂とは造りこそ立派に見えるが、中はもう結構ボロボロで、毎年?見える所だけを修繕し、会議や働く天使達の報告会を行うだけの場所だ。

そんな場所に呼び出すと言うことは、何かあったか、もしくは相談事でもあるのか。

兎に角も急いで行く必要がありそうだ。

半ば引きずられるようにして手を引かれ、大聖堂に辿り着く。だが、表にも中にも誰の姿もない。


奥の

「会議室?かな。」


キョロキョロ

しながら美咲について行く。ついて行っているはずだったが、今の今まで目の前にいたはずの美咲がいなくなっている。


(あ、あれ?…)


と思った次の瞬間には、何かで視界を塞がれていた。


おじさん

「ちょっと我慢してね。そのままゆっくり進んでー。」


美咲の声だ。


ええ?何?何?


手をゾンビの様にしながら恐る恐る進む。どれくらい進んだのか分からないが何度か角を曲がり、おそらくは聖堂に併設されている会議室辺りに来たと思われる。


まだ

「よ、そのままでね。」


そう言いながら美咲が少し遠ざかるのが感じられる。若干の不安を感じつつも、大人しく従う。


(な、なんだろう?何か妙な緊張感があるなあ。)


そう思いながら、出ない固唾を飲む。案内人だって緊張するのだ、

だって、しがない()()()案内人なんだもん!

泣きそうになる心を

っと堪える。


おじさん

「もう取っていいわよ。」


そろり

目隠しを取る。


パーンパパーーン


派手なクラッカーの音が響いた。

案内人は何が起こったのかが分からずに呆気に取られている。


え?


え?

「じゃなくて、おじさん。ほら、こっちこっち~。」


美咲はラファエルやその仲間の天使、そして彼等が”神”としている者と一緒にクラッカーを持って、次々に鳴らしている。


こ、

「これって?!」


やあ

「久しぶりですね。お変わりありませんか?」


「ラファエルさん、これは一体?」


案内人に声をかけてきたこの天使こそが、ラファエルだ。見た目は美しく容姿だけみれば女性なのだが背が高く、見えている肌の部分は細いが鍛え上げられた筋肉が付いているのが分かる。現代っ子でも

イケメンだ

と、口を揃えて言うだろう。そんな姿をしている。


こちらの

「彼女の発案でしてね。何でも人間達の世界では”ボウネンカイ”なるものがあるとか。」


ラファエルは愛おしそうに美咲の頭を撫でる。どうやら美咲はここでも上手くやっているようだ。


えへへ

「おじさん達に日頃の疲れを癒してほしくって…。」


だから案内人と働いている天使達の慰労会をしたいと言うのが彼女の意見だ。

何処まで、この子は優しいんだ?天使か?いや、天使というのはこの子のためにある言葉だ!

案内人がそんな事を思っていると、後方で天使達の”神”が引っ切り無しにクラッカーを鳴らすのが聞こえる。新しい物好きの人懐っこい人?である。

ラファエルが申し訳なさそうに、頭を下げる。


すみません

「父はこういった事が大好きでして。」


案内人も天使達の”神”は嫌いではない。働く天使達に混じって汗水流して働く人だからだ。だから、こういう子供っぽいところがあっても許せる。


いえいえ

「”ヤハ様”にはいつも案内人の後輩達がお世話になってますから。」


社会人としての礼儀だけではなく、本心からそう思う。天使達の”神”は面倒見が良く、新人案内人の教育や魂達のお世話を買って出てくれるのだ。それなのに自分の所の下級天使達には甘い。

末っ子可愛い!!感情がどうしても捨てきれないようだ。


そう言って

「頂けると助かります。ちょっと失礼しますね。…お父さん!!」


少々ヒステリックな声を上げて”神”を諌める。子供にきつく叱られて

しゅん

となっている姿は、可哀想だが何だか可愛らしく見える。


おじさん

「私達も行こう。他の案内人の皆も集まって来てるよ。」


美咲の言葉通り、

ぞろぞろ

と懐かしい顔がやって来て、こちらに気が付き手を降っている。


「待って。美咲さん。」


案内人を引っ張っていこうとする美咲を止めた。


今日

「の事、ありがとう。それから、もう少ししたら僕達の”神様”の所へ行こう。きっと祝福してくださるよ。」


美咲の顔にまた花が咲く。天使達の”神”の様な人物(?)を思い浮かべ

くすり

と笑う。

(あんなに可愛らしい”神様”なら早く逢いたい。)

だが、この時のこの思いをその”神”の前で少し後悔する事になるとは、この時の彼女はまだ知らない。


うん

「楽しみにしてる。…さあ、行きましょう。」


ピョンピョン

飛び跳ねながら案内人を引っ張って行った。



 案内人達の束の間の休息はこうして過ぎていく。

人間達の世界では、もうすぐ新しい年になる。しかし、案内人達がそれを喜ぶ事はない。何故なら魂達が上げる声はそんな事はお構い無しに響いてくるからだ。

 今日も明日も、行け逝け、我等が案内人。
















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