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少女はいっちょやることに決めた

 アセットはつぶやくように聞いた。

「向こうは武器あるじゃない。こっちにもなにかないの、イステバ?」

「今はないよ。アタシだいたい姫の魔剣使ってたから。悪魔の騎士でも斬れるやつ。お墓になかったし、あったとしても姉妹相手に使うわけにいかないし」

「くっ……」


 ここは一度逃げておいて、あとで油断しているところを襲ってパモナを奪うか。

 いや、それもうまくいきそうにない。

 イステバとイルケビスはお互いの気配を察知できるようだから、周囲をうろつけば気づかれてしまうだろう。やはりここでどうにかするしかない。


 睨みあうこと数秒、タナキサが声をかけてきた。

「そっちの相談は終わったか? こっちは終わった」

 そういうと、両手のナタを腿の鞘に収めて拳を構えた。向こうも取る手段は同じらしかった。


 気絶するまで殴り合い。

 それしかなさそうだった。

 アセットも拳をあげ、踵を浮かせた。


 そのとき、轟音と衝撃が襲った。

 屋根を突き破って、なんらかの重量物が落下してきたのだった。

 アセットもタナキサも瞬時に飛び退き、回避姿勢をとった。

 砕けた床の上、部屋の中央にうずくまる輝きがあった。

 真紅と白銀の光沢に包まれた装甲武者。

 両腕に銀の鎖がまきついている。

 またひとり、悪魔の騎士デーモンメイデンが出現したのだった。


 イステバとイルケビスは声をあげた。

「イメリアン!」


 アセットは聞いた。

「なに? またあなたの姉妹なの?」

「そうみたい。イの三姉妹が三女、イメリアン。戦闘狂だったからアタシはあんま好きじゃないんだけど、契約者のほうがどうかってとこね……」


 イメリアンの契約者はゆらりと立ちあがった。

 タナキサに向かって、明るく甘い声で言う。

「アタイ、もぉいっしゅーかんもタナキサのこと追ってきてたのぉー。ノデン王国がプライマル・ナイトのタナキサちゃん」


 タナキサが問う。

「誰だ? わたしになんの用かしらんが、いまはとりこんでいる、あとにしてどいててくれ」

「アタイに勝ったらそうしてあげるぅー」

 イメリアンの契約者の顔がアセットのほうを向いた。

 顔が動いただけだが、

 アセットにはフェイスガードの目の部分がぎらりと光を放ったように見えた。

 彼女は言った。

「キミさあ、三姉妹最強のイステバなんでしょ? 先に相手してあげようか? それともふたり一緒にかかってくる?」


 話の流れからして、うまく行けば彼女がタナキサを引き受けてくれる。

 できるだけ自分へ注意を向けたくない。

 アセットは下手にでるべきだと悟った。両手を振りながら答える。

「わ、わたしは遠慮しておきます! 用事があるので! 弱いですし!」

 イメリアンの契約者はすねたように首をかしげる。

「キミはアタイと勝負してくれないんだ? アタイより大事な用事ってなに? 先に勝負しとかないと逃げちゃうなら優先度があがっちゃうねぇー、そうじゃない?」

「くっ!」

 アセットは言葉に詰まった。

 イメリアンの契約者は戦闘狂で天の邪鬼らしい。なかなか思うようにはいかない。


 タナキサがアセットを指した。

「そのチビを無力化するのが先だ。あとでいくらでも勝負してやる、手を貸せ!」

「アタイ、命令されるのキライ」

 イメリアンの契約者は腕を振るって銀の鎖を投げ伸ばした。

 ウェイトが付いた先端がタナキサを襲う。

 タナキサは鎖を避け、鎖はテーブルを破壊した。

「馬鹿め!」

 タナキサはナタを抜いてイメリアンの契約者へ迫った。

 イメリアンの契約者は鎖を振るう。

 タナキサはナタでそれを受けつつ距離を詰める。


 うまくふたりが戦い始めた。


「ふたりとも頑張ってね!」

 アセットは奥へ回りこんで窓を突き破って飛びだす。

 着地すると振り返り、外から腕を振って窓ガラスをすべて割り落とした。

 パモナを呼ぶ。パモナは慌てて外へ出てきた。

 両手でパモナを抱きあげ、エクウスへ跳ぶ。

 パモナをバスケットのほうへ乗せると、悪魔の騎士のまま、アセットも鞍にまたがった。

「いざ、アガモルゲへ!」

 アセットはハンドルを勢いよく倒し、急発進した。


 背後では大音響がなんども響き、兵士たちが浮足立って騒ぎ始めていた。

 だが、アセットにはもう関係ない。

 闇のなかをエクウスは疾走していった。


 村から離れるとアセットは口を開いた。

「あなたの姉妹ってあんなのばっかりなの? まったく」

 ヘルメットの内側でイステバが答える。

「そういうことになるのかな。アタシも思いやられるわ。封印がやっと解けたと思ったら契約者が血の気の多いのばっかりで、姉妹で戦いあうばっかりなんだから。アンタたちこそちょっとは協力したりしなさいよ」

 アセットは非難しようとして逆に非難されてしまった。装甲の内側で唇を尖らせる。

「人間は忙しいの! あなたたちみたいに何百年も時間はないんだから!」

「それにしても生き急ぎすぎ」


 分が悪いので言い合いを打ち切り、アセットはパモナに注意を向けた。

「パモナ、そろそろ方向を決めて」

「あ、うん」

 パモナは目を閉じて眉間にシワを寄せた。ぶつぶつつぶやいたあと、口を開く。

「とりあえず、このまままっすぐ行って。アガモルゲはここからずっと先、草も生えてない荒れ地を巡回してるみたい」

 アセットは驚いて聞いた。

「アガモルゲが見えるの?」

「よくわからない。そんな気がするだけかもしれない」

 イステバがスーツの外側にも聞こえるように言った。

「アタシたち三姉妹がこの世界に喚ばれたのはパルツァベルも終わりのころだったけど、魔道士ってホントに不思議。同じ人間なの?」

 パモナは儚げに微笑んだ。

「そのはずだけど。でも、わたしにしたって、どうしてこんなことができるか、よくわからないし。魔道士ってなんなんだろうね……」」

 アセットもイステバもそれ以上聞かなかった。どのみち遠い昔の出来事だ。  


 森林地帯に入り、エクウスは樹々を縫って進む。もう夜明けも近いはずだった。

 昼近くまでエクウスを疾走させて、やっと休息に入った。林間の空き地をみつけたのだった。 

 近くに小川もあった。

 本来眠る必要のないイステバを見張りにたてると、アセットとパモナは草の上に眠った。


 鳥の鳴き声と獣の遠吠えでアセットは目覚めた。もう日が落ちてすっかり暗い。

 闇のなかではイステバの金髪と碧眼は光を放っていて異様だったが、アセットはもう慣れている。あくびをひとつして、イステバに声をかけた。

「追手の気配はどう、イステバ?」

 イステバは軽く伸びをして答える。

「アタシたち姉妹のことならアテにしないで。イメリアンは隠密能力に長けてて近くにきてもわからない。ちょうど昨日の晩みたいに。イルケビスとタナキサならもっとわかりやすいけど、やっぱり近くまでこないとわからないし。アタシはアンタたちが獣に食べられないよう見張ってただけだから」

「そっか。おつかれさま。休む必要があれば休んで。水もたくさんあるし、火を焚いて温かい食事を作るから」

「どうせならベルラッサのほうがおいしいもの食べられただろうなー……」

 不平をつぶやくイステバを後に、アセットは小川へ水を飲みに行った。

 水を汲んで戻ってくると、パモナも起きていた。パモナは言った。

「焚き火するならわたしが火をつけるけど」

「じゃあおねがい」

 アセットは鍋を吊るすために木の枝を組みながら答えた。

 目覚めるのが夜になるのを見越して、眠る前に薪は集めておいた。

 パモナは薪の小枝に指を突っこんでぶつぶつとつぶやく。

「針先の穴を通してわが真心よ、原初の輝きをもたらせ」

 パモナの指先に赤い光が灯った。

 それが小枝に燃え移り、みるまに大きな炎となる。

 アセットはあっけにとられた。

 エクウスに火口箱を取りに行くつもりだったのに、そんなもの必要なかった。

 アセットは感嘆した。

「すごい! ほかにどんなことできるの!」

 パモナは照れて笑った。

「へへへ、ま、いろいろとね。魔道士ですから」


 湯を沸かし、グラウスの村から持ってきた麦で粥を作る。

 鳥の鳴き声も獣の遠吠えも遠い。

 夜はおおむね静かだった。

 三人は焚き火を囲んで麦粥をすすった。


 食事を進めながらアセットが切りだす。

「アガモルゲまでの距離はわかる? エクウスの速度でどれくらいか」

 眉根を寄せてパモナが答える。

「そうね……エクウスなら数日ってところだと思う。森を抜けて荒れ地に入ったら、遠くからも見えるだろうし」

「よかった。エクウスを失わないかぎり、食料も水もだいぶ余裕ある」

 イステバが口を開いた。

「向こうに着いたら終わりじゃないんだからね。アガモルゲで水や食料が手に入るとは思えないし。帰りの分はだいじょうぶなの?」

 アセットは答えた。

「ちゃんと帰れる分あるから安心して。わたしだって死ににいくわけじゃあるまいし」

「アンタの用事が終わったら次はベルラッサだからね! 忘れないでよ!」

「はいはい。連れてってあげるから」

 パモナがおずおずと聞いてきた。

「アセットはアガモルゲにいったい何をしに行くの? わざわざ大きな危険を冒してまでしたいことってなに?」

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