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悪魔の騎士は拳で語りあう2

 アセットがなにから聞こうか逡巡していると、パモナが口を開いた。

「わたしはアガモルゲから連れてこられたの?」

「あなたはアガモルゲの落とし子の体内に入っていたみたい。その怪物をこの村の近くで倒した。怪物の身体が消えたあと、あなたが残っていたというわけ。なにも思い出さない?」


 パモナは水の器を置いて、こめかみに指を当てた。悩ましげに顔をしかめる。

「わたしが落とし子のなかにいた。だとしたらわたしはアガモルゲから追い出されたの……? わたしはアガモルゲでやるべきことがあったはず……たぶん。それが終わっているのかどうかもわからない……」

「このままだと、あなたはベルラッサに連れていかれて事情を聞かれることになる。ここからだいぶ遠いよ」


 パモナは遠くを見るような目をした。

「ベルラッサ、小さな花の都……」

「いまやベルラッサは巨大な大都市だって。たぶんあなたが知っているのとは違う。パルツァベルで多くの強国が滅んだあと生き残ったの」

「パルツァベルって?」


 アセットは説明した。

 人とデーモンが世に多く、超常の力を奮っていた時代の末期に大戦争が起こったことを。

 パルツァベルの末期にはデーモンと同化した魔人たちが終末の巨人となって、

 人間の魔力を吸いつくして戦いを終わらせた。

 その巨人たちをパルツァベルと呼び、ひいてはこの戦争の名となったことを。

 魔力を失った人間はデーモンを召喚することが極度に難しくなり、現在に至る。

 アセットは締めくくった。

「でも、おかしいな。パルツァベルの時代にはもうアガモルゲはあったはずなのにパルツァベルをしらないなんて」


 パモナは陰のある微笑みを見せた。

「別におかしくないよ。わたしがそのパルツァベルのさなかに生活していたんだとしたら、おかしくない。パルツァベルっていうのは後の世の人がつけた呼び名でしょう?」

「でもあなたの服装は数百年前のものだって。パルツァベルは千年近く前らしいよ」

「じゃあ、数百年前はまだパルツァベルと呼ばれてなかったのかも。ごめん、うまく思い出せない」


 パモナの考えは理屈に合う。

 彼女は数百年を飛び越えてきた可能性が高かった。

 そうと知るとアセットには新たな好奇心が湧いてくる。

「なんであなたが封印されるようにして時代を飛び越えたか、あなたの使命が本当はなんだったのか、知りたくない? アガモルゲに戻ってでも」

 パモナはためらいを見せた。

「わたし、少し怖い。アガモルゲに戻るのは。でも、このままベルラッサに行ってもことは終わらない。それは確かだと思う」

「わたしと行こう、アガモルゲに! わたし、アガモルゲに向かって旅してたところなの!」

「いまのアガモルゲは危険じゃないの?」

「危険はあるよ。でもわたし悪魔の騎士デーモンメイデンだから、パモナのこと守ってみせる」

「悪魔の騎士もまだいるんだ。だから髪が白いのね。一騎当千の悪魔の騎士デーモンメイデン。わたし、前も悪魔の騎士に守られていたような気がする……」

「向こうまで行ってみればわかるかもしれない。なにか思い出すかも。アガモルゲをみつけて近づいてもなにも起こらなかったら、そのときはあなたを安全な場所に置いて、わたしひとりでなかへ入っていくから」


「うっ!」

 パモナはとつぜん呻いて頭を抱えた。アセットは慌ててその肩を抱く。

「どうしたの、まだ調子が悪いの?」

 パモナは首を振る。顔色は悪くない。

「いまアガモルゲに行こうかなって考えたら、わたし、アガモルゲの方向がわかったの。どっちへ行けばいいかわかる。感じる……」

「そんな、すごい……」


 この新たな事実だけでもアセットはパモナを手放せなくなった。

 彼女がいればアガモルゲがすぐにみつかるかもしれない。

 どうしても一緒に連れていきたい。


 アセットはパモナの手をとって握った。

「行こう! アガモルゲをみつけるまででも構わない。そのあとのことはそのとき考えればいいじゃない!」

「う、うん……」


 そのとき家の扉が開いた。

 タナキサ、イルケビス、イステバの三人が上機嫌で騒がしく帰ってきたところだった。


 赤い顔をしたタナキサが陽気な声をだす。

「お、目が覚めたのかお嬢さん。名はなんというんだ?」


 アセットが代わりに答えた。

「彼女はパモナ。アガモルゲにいたらしい魔道士。デーモンがいなくても魔法が使えるみたい」

「なに……?」

 タナキサの表情が見る間に引き締まっていく。

「それが本当ならものすごいことだぞ。歴史が書き換わるかもしれないじゃないか。詳しく話を聞かせてくれ」

 アセットはそっけなく言う。

「話すことはそんなに多くないです。パモナはベルラッサなんかに行かないから。わたしと一緒にアガモルゲへ行くの」


 タナキサは事態が飲みこめないようにしばらく黙った。

 それから強い口調をとった。

「ふざけるな! 彼女は人類の財産だぞ、そんな勝手が許されるか! ベルラッサへ連れて行く!」

「行きません!」


 イステバが焦ってふたりのあいだに割って入る。

「ちょっとアセット! 意地になってもいいことないって! ベルラッサに行こう? 向こうへ着いて事情をまとめれば十分な準備もできるしさ」


 アセットは首を縦に振らなかった。

「パモナは貴重な存在、それは確か。いちどベルラッサに連れていってしまったらもう外へは出られないに決まってる。いま出ていくしかないのよ、イステバ!」

「愚か者!」

 タナキサは踏み出してアセットを平手打ちしようとした。

 しかしアセットもいまでは戦い慣れている。

 酔った相手から一撃を食らうわけもない。

 アセットは平手を避けてタナキサの懐へ飛びこんだ。

 アセットとタナキサがもんどりうって倒れる。

 アセットは転がって素早く立ちあがった。

「イステバ!」

 アセットはあっけにとられるイステバを強引に抱き寄せて言った。

「プライマル・スーツ展開!」

「え?」

 イステバの身体が解けてアセットを包みこむ。

 瞬時に紺碧と金色の装甲をまとう悪魔の騎士が出現していた。

 パモナは勘よく事態を察し、急いで衣服を身につけていく。


 タナキサがゆらりと立ちあがった。

「やる気か小娘。おもしろい……」

 タナキサの表情は寒気がするほど冷静なものとなっていた。

 戦いの気配に接しては優秀な戦士であるのに間違いない。

「イルケビス!」

 タナキサが自分のデーモンを呼ぶのと同時にアセットは突進した。

 タナキサが悪魔の騎士となるまえに勝負をつけるつもりだった。


 しかしタナキサは悪魔の騎士に変化しながらアセットの突進を避け、

 装甲に包まれた瞬間に手にしたナタを振るった。


 アセットは背中に一撃をくらい、床に叩きつけられた。

 追撃としてタナキサが踏みつけようとする。

 アセットは推進噴射でこれを避けた。装甲が守ってくれたのでまだ傷はない。


 アセットとタナキサは正面から対峙した。

 百戦錬磨の女騎士を相手にして、さすがにアセットも分の悪さを感じた。

 小声でイステバに話しかける。

「なにかいいアイデアない、イステバ?」

「もう、よしてよ! 強引に着装しといて! こうなったらパワーで押し切るしかないっしょ、こっちの売りだし。昼間みたいな一撃には気をつけてよね」さらに続ける。

「ちなみに着装時間は向こうのほうが長いからね。時間切れはこっちのほうが早いから」


 自分たちだけ逃げるならいざしらず、パモナを連れていかなければならない。

 一時的にしろ、タナキサを無力化するしかなかった。

 エクウスのスピードより悪魔の騎士の突進のほうが速いからだ。


 タナキサが動いた。

「さっきの威勢はどうした!」

 両手のナタと蹴りのコンビネーションが襲った。

 アセットはナタを避けたが、蹴りをくらって弾き飛ばされる。

 ガードしそこねていたら意識を失っていただろう。

 アセットは倒れた直後に推進噴射を吹かせて逆襲に転じた。

 百戦錬磨のタナキサといえど、悪魔の騎士を相手にするのは慣れていない。

 これは虚を突くことができた。アセットの膝がタナキサの胴に入った。

「うぐぅっ!」

 うめき声をあげながらもタナキサは耐えた。


 反撃を警戒してアセットは距離をとった。

 すでに室内はめちゃくちゃだった。

 荒廃した部屋のなかで、悪魔の騎士が向かい合う。

 お互い装甲に守られて無傷。

 決め手となるものがなかった。

 先に着装が解けてしまったら十秒で捕らえられてしまうだろう。

 時間の経過はアセットに不利だった。

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