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宴はまばゆい光のもとで催され2

 パモナは記憶が戻っていないらしく、戸惑いをあらわにしていた。

「わたし、そんなことわからない。おかしなことなんてしたくない……」

 メレブは目を細めた。

「ならぬぞ、パモナ。そなたとアガモルゲは一対の存在。そなたがいなければ時の門は真の力を発揮できぬ」

 タナキサが聞いた。

「時の門の真の力とは? そもそもアガモルゲの存在がわたしたちには謎なのだが?」

 タナキサはいつでも手枷を引きちぎれるように準備している。

 身体の態勢から、アセットにはそれが見てとれた。

 だが、皆まだメレブの話に興味がある。

 メレブは言葉を続けた。

「アガモルゲとは魔人アガメンテの奥の手よ。パルツァベルで魔人アガメンテの軍勢が破れて、いまの世がある。それは承知のことだろう。時の門はアガモルゲを維持するための動力源以上のものなのだ。パモナの力で時の門を操ることによって、世界の時間は巻き戻される。魔人アガメンテが敗れる前にな。アガモルゲとは敗戦をなかったことにしてしまう戦略装置なのだ。アガモルゲとパモナがそろえばアガメンテは不滅だ。ふたたびパルツァベルを戦い、それはアガメンテが勝利するまで繰り返される。そのはずだった。パモナよ、どうやって身を隠した」


 パモナは青ざめて震えていた。かすれた声で言う。

「わ、わたしはそんなことしりません。なにも思いだせないんです。でもわたし自身のことですから、なにを考えたかはおぼろげにわかります。わたしはあなたがたに力を貸したくなかったんだと思います。パルツァベルと呼ばれる大戦を繰り返すのが嫌だったんです、きっと。それは……いまでも変わりません!」


 タナキサの横でイルケビスが口を開いた。

「パモナの服装は三百年くらい前、メレブさんが死んだのもそれくらい。でもパルツァベルがあったのは千年くらい前でしょー。時期が合わなくない?」


 メレブは言った。

「わらわの代ではこのパモナだった。パモナは死んでも転生を繰り返して現れる。わらわはアガモルゲの記憶を読むことができる。最初のパモナはアガメンテとともに討ちとられた。二代目のパモナは時の門を作動させた。しかしアガメンテは再び敗れ、パモナは時の門を作動させた。そのときアガメンテはまだ生きていたので、パモナとともに時の狭間に囚われた。アガメンテとともに、時の狭間でどうにか生命を失うことに成功したパモナは転生したが、そのときより記憶と使命感が大きく損なわれた。そのあとの代のパモナはアガモルゲを訪れなくなる。だが、わらわの代になってパモナをまた見出したのだ、このパモナを」


 パモナはなにかを悟ったように顔をあげた。

「いまわかった。記憶はほとんど溶けてしまったけど、わたし自身が考えたようなことはわかる。わたしはパルツァベルを繰り返したくなかった。自ら生命を絶っても転生して、無力なうちにここに連れてこられてしまうのを恐れた。だからこの生命のまま、隠れてしまおうと考えた。わたしはアガモルゲの落とし子に乗りこんで、そのまま眠っていた。身近な場所に身を潜めていればみつけられないと思って。でもその落とし子が外へ出てしまって、タナキサに倒された。寝床を失ったわたしが取り残されて目覚めた……」


 メレブはガグスタンをくるくる回しながら言った。

「そういうことか。パモナ、おまえはずっとわらわとともに、このアガモルゲにいたのか。どうりでみつからんわけだ。わらわの目は常に外を向いていた」


 パモナの生命を救うにはメレブを倒すしかない。

 だが期限はアガモルゲを出るまで。まだ余裕はある。

 パモナに呪いをかけたオンデールより上位者のメレブなら、

 なんとか呪いを解く方法も持っているかもしれない。

 それに、時の門はアセットの考えていたような物ではなかった。

 いまでは落胆と疲労感が全身を満たしつつある。

 いくら頑固なたちのアセットといえども、これではメレブを倒す理由に弱かった。


 あとはパモナ。


 だいじなパモナさえ無事に開放されればよかった。アセットは説得を試みた。

「メレブ姫、あなたはパルツァベルのあとを暮らした人でしょう? 魔人アガメンテに恩もないはずだし、パモナは嫌がっている。もう時の門を使わなくてもいいんじゃないですか。昔のことになんか拘らずに、こんな立派な庭園を造ったみたいに、有意義な時間を過ごしていったらどうなんですか。パモナを開放してください。パモナはわたしたちのだいじな友達なんです」

 ここで初めて、アセットはメレブが邪な目つきをするのを見た。

「それはならん。興よ。すべては興のためよ。外の世界に手下を育てることからはじめ、遠方の動植物を集めて百年かけて庭園をこしらえてみたりもした。だがわらわはやはり戦いを好く。パルツァベルのような世界大戦の世に身をおいて、思うさまガグスタンを振るってみたいのだ。この渇望はいや増すばかり。わらわは時の門の発動を欲す!」

 イステバが年端もない外見に似合わない、重々しい声で言った。

「メレブ……。アンタは確かに戦うことが好きだった。でもそれはいつも大儀のある戦いだった。他人を守るため、弱者を救うためにこそアンタは戦い、ガグスタンを振るってきた。ただ争うだけの戦いなんてアンタは望んでいなかった。アンタは崇高だったのよ、生きていたときには。いまのアンタは不死ボケよ。思いとどまって」

 メレブは片手でくるくるとガグスタンを回した。楽しげに言う。

「甘くなったな、イステバよ。いまの契約者が軟弱なせいであろう。おまえこそ軟弱ボケだ。壮絶な戦いの準備が目の前に揃っているのに、それを我慢できるか? おまえこそ、昔のおまえなら喜んで手を貸したはずだ、情けない。軟弱なおまえなど見ていて苦痛だ。昔のよしみで斬ってやろうか」

 説得はうまくいきそうにない。

 アセットは紙の手枷を引きちぎった。

「パモナは渡さない!」

「もう遅い! この場に立ったからには!」

 メレブは両腕を上にあげた。

 その瞬間、爆風が起こり、アセットたちはなぎ倒された。メレブの声が聞こえる。

「時の門よ、舵の帰還だ! 受け取れ!」

 

 アセットは苦痛をこらえて目をあげた。

 パモナの身体が木の葉のようにくるくると舞い、虚空に消えるところを見た。

 パモナは声をあげることもなく消えてしまった。

 だが、パモナはまだ無事なはずだった。死んでしまっては用をなさない。

 生きているなら取り戻すチャンスはある。


 じんじんと痛む身体に鞭打って、アセットは立ちあがった。

 ほかの皆もふらふらと身体を起こしていた。

 全員、いまの衝撃で手枷がちぎれていた。

 メレブはそれを見たのか、妖艶な微笑みを浮かべた。

「なんだ、その小細工は。簡単にちぎれる手枷など意味がないではないか。そなたら、最初からわらわを討つつもりであったな。愉快な企てよの。いいだろう」

 メレブはガグスタンを真横にかまえて立った。

「そなたらに悪魔の騎士と化す猶予を与える。しかるのちにかかってくるがよい。全力でな!」


 彫刻だったデーモンたちが、生気を取り戻して蠢きはじめた。

 その目は怒りにぬらぬらと光っている。


 アセットとイステバは抱きあう。

 イステバの身体が帯状にほどけてアセットを包みこんだ。

 まばたきの間に紺碧と金色の装甲に変わる。アセットは悪魔の騎士となった。

 タナキサとカバネルもプライマル・スーツに包まれていた。


 装甲の内側で、アセットは両手が熱くなっているような気がした。

 見れば、拳が緑の光を発している。イステバが早口で言ってきた。

「魔力障壁を両手に集中させたから。手でならガグスタンを受けられる。ほかはダメ。プライマル・スーツの装甲もガグスタンにとっては紙切れどうぜんよ。これをやると着装時間が半分くらいになっちゃうけど、メレブとガグスタンが相手だと、勝てなきゃそんな時間生き残れないから。メレブはアンデッド。普通の人間より頑丈だとしても悪魔の騎士の一撃で頭を砕けば勝てる。覚悟を決めて」

「わかった。ありがとうイステバ」


 タナキサが両手にナタを持って、右へ飛んだ。カバネルはアベイラーを構えて左へ飛ぶ。

 そしてアセットの真正面には、アガモルゲの女王メレブ。


 タナキサがこちらに顔を向けた。

「わたしとカバネルがデーモンの相手をする。アセット、おまえはメレブに集中しろ!」

「わかった」

 アセットは頷き、拳を構えた。


 メレブが蕩けるような微笑みを見せる。

「ふふふ、たっぷり猶予を与えてやったというに、それでいいのかえ? イステバと妹よ、まずはそなたらが血祭りだ。さあ始めよう!」


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