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女王の名こそは懐かしく

 オンデールは言った。

「彼女を無力化せねば、ヒャッ! 時の門には近づけないだろう。時の門の守護者たる女王は我々の支配者でもある」

 オンデールの回りくどさに腹を立てたのか、苛立った様子でカバネルが口を開く。

「それで? アタイたちが女王を倒すとしたら、まずアンタたちとやれっての?」

「そうではない。我々は虜囚だよ。ながいことそうだった。ヒャッ! もうアガモルゲのなかにいるのはうんざりなんだ。だが、女王がいる限り我々に自由はない。きみたちは時の門をいじるために女王を倒さねばならない。ヒャッ! これは奇妙な利害の一致というやつではないかね」


 アセットにも話が飲みこめた。

 代弁するようにタナキサが言う。

「そっちの計略に乗れば、女王のもとまで連れてってくれるわけか。あとはご自由にってことだな」

「そうだ。ヒャッ! だが覚悟が必要だぞ。女王メレブは……」

 その名を聞いてイステバが身を乗りだす。奇妙な反応だった。オンデールは続けた。

「強力なアンデッドだ。不老不死であるばかりか魔剣ガグスタンを持つ……」


 イステバが声をあげた。

「ガグスタン! メレブ! それはアタシの知ってるメレブに間違いない! 彼女は死んだはず! アタシと一緒のときに死んだ!」


 イステバの勢いに怯んで言葉が止まる。

 しかしオンデールは気にも留めない様子を装ったように言った。

「さよう。ヒャッ! メレブは一度死んだ。メレブは墓を暴かれて蘇り、我々の仲間入りをした。メレブを蘇らせたのは前の支配者、バネロウだ。バネロウは生前よりメレブを見初めていたらしい。ヒャッ! 死後、蘇らせて自分の妃にしようとしたがメレブはバネロウを討った。そして自分がアガモルゲの支配者となったのだ。我々はメレブを好かんし、バネロウさまが滅したのなら自由になりたいのだよ。ヒャッ!」


 イステバが口をわななかせた。

「そんな……。アタシが封印されたあとそんなことになってたなんて。メレブ姫がアンデッドに……」


 アセットはためらったが、聞いておかねばならないと思った。

「イステバ、メレブ姫ってもしかして……」

「そう、アンタの先輩よ。前の契約者。メレブ姫が死んだからアタシはない責任を問われて封印された。アンタと出会った墓の主がメレブ姫。まさか蘇ってガグスタンも持ってるなんて思いもしなかった」

 イステバは沈んだ様子でつぶやいた。

「かわいそうなメレブ……。彼女がアンデッドにされてしまったなんて……」


 オンデールは両手を広げてみせた。

「女王メレブが昔のしりあいとは思わなかった。デーモンの長寿も厄介なものだな。余計なしりあいが増えていくばかりだ。ヒャッ! しりあいのようだが、きみたちはメレブを討てるのかね?」


 イステバはアセットの手を握った。

「姫を開放してあげて。呪われた偽の生から。アタシも最大限の力を貸す」

 アセットはイステバの瞳をみつめた。

「あなたがそれでいいなら、わかった。わたしも手加減しない。メレブさんを倒す」


 タナキサがオンデールに向かって言う。

「メレブとしりあいなのは、そこのデーモンだけだ。彼女はメレブを開放したいと言っている。それならわたしたちは躊躇しない。メレブと戦う。それでそちらの計画は?」


 オンデールは牙を見せて微笑んだ。

「きみたちが侵入してきたから力ずくで捕らえたことにする。ヒャッ! そしていま決めたことだが、女王のしりあいがいるらしいので彼女の前へ連れて行くことにしたわけだ。女王の前までいったらご自由に」

 タナキサが聞いた。

「メレブを倒したあと、ほかのものに襲われないか?」

「それはわからんね。メレブの持つ冠を手にれればだいじょうぶだろう。ヒャッ! 冠はアガモルゲの支配者の証だ。我々の配下のほうが数は多いし、もちろん我々はきみたちに味方する。メレブを倒したあとならね。ヒャッ!」


 タナキサはカバネルとアセットの顔を見回した。

「おまえたちはそれでいいのか?」

 カバネルが頷く。

「アタイは構わない。乗った!」

 アセットはイステバの手を握り返した。

「メレブさんはわたしとイステバで倒します!」

 みなの目がパモナに注がれた。パモナはもじもじと同意した。

「わ、わたしはみんなについていくので。親玉を倒すのなら助力します」


 オンデールが誰にともなく聞いてきた。

「納得いったかね? これで我々は契約締結だろうか?」

 代表してタナキサが答える。

「そうだ。わたしたちはメレブを倒し、時の門を操作する。あんたがたは問答無用でわたしたちを支援する。これで契約締結だ」

「よし! アレをここへ!」


 数人のドレスを着たグールがごそごそと動き、アセットたちの後ろへ回りこんできた。

 席の後ろから、絡みあった黒い塊をテーブルの上に置く。

 それは鋳鉄でできたような手枷と鎖だった。

 置くとき、カサコソとやけに軽い音がしたのが不思議だった。


 オンデールがアセットを指差してきた。

「いちばん力の無さそうなきみがいい。ヒャッ! 手にとって引きちぎってみせてくれ。ただしひとつだけだ。あまり数がない」


 アセットは言われたとおり、鎖のついた手枷を手にとった。

 軽い。

 本くらいの重さがあるかどうか。


「これを……こうするの……?」

 アセットは鎖を引っ張った。

 鎖が伸びたあと、さらに力を込めると、それはビリッという感じで裂けて千切れた。

 アセットはその断面を見る。

「これ、紙でできてる……?」


 オンデールは得意げに頷いた。

「そうだ。ヒャッ! いつかこういうときがこようかと、つまり力あるものをメレブの前へ引き立てることもあろうかと、特別誂えで備えておいた。鉄粉を塗ってある。紙にしては頑丈に作ってあるがしょせん紙だ。ヒャッ! きみたちのいちばん小さい者でも引きちぎれる。きみたちがこれをつけていれば、警戒されることなくメレブに近づけるだろう。ヒャッヒャッ!」


 カバネルは興味津々といった様子で紙の手枷を弄り回した。

「すごいじゃん。鉄に見えるよね、これ」


 そのときドレスを着たグールのひとりが何も言わずに、パモナのほうへ身をかがめた。

 アセットが気づいたときには遅かった。

 グールはパモナの耳をつかむ。パモナはのけぞった。

「え、なに、いたっ!」

 グールが身を離して逃げると、パモナの耳朶には金色のピアスがついていた。


 グールはなにか悪巧みをした! 

 だいじなパモナがその標的となったのだ! 


 アセットは間髪を入れず、イステバを抱き寄せて悪魔の騎士となった。

 オンデールに向かって戦いの構えをとる。

「パモナになにをしたの! あれをすぐ外して!」


 続いてタナキサとカバネルも悪魔の騎士となった。

 真紅と白銀の装甲に包まれたカバネルの手にはアベイラーが握られている。


 悪魔の騎士三人に怖気づいたものか、オンデールは顔をひきつらせて弁明しはじめた。

「ヒャッ! け、契約の証だよ。ヒャッ! きみたちに裏切られたらわたしは終わりだ。きみたちが確実にメレブを仕留めてくれるよう、契約の呪いをか、かけたわけだ。ヒャッ! そのピアスは呪物だ。契約が不履行、つまりきみたちがメレブを倒せないと、そのお嬢さんの体は腐り果てる」

 アセットは冷たい怒りをこめて口を開いた。

「はずさないと、あなたの首をねじ切る」

 オンデールは震えながら言った。

「む、無駄だ。ヒャッ! 呪いは発動した。そのピアスを取っても、耳をちぎっても、呪いはそのまま持続する。ヒャッ! たとえわたしを殺してもね……」

「じゃあ、まずアンタ殺しとくわ」

 カバネルがアベイラーの穂先をオンデールの胸に突き刺した。

 絶叫があがる。

「アアアアアアアーッ! 抜いてくれ、たの……」

 胸をかきむしる暇もあればこそ、

 オンデールは煙をあげてしなびてしまい、さらに灰になった。

 フリルのついた服だけが椅子に残る。


 グールたちが、男も女も悲鳴をあげて棒立ちになる。

 グールたちは力があったかもしれないが、戦いから遠ざかりすぎていたのだろう。

 歯向かってくる者はいなかった。

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