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殲滅するは宴の華なり2

 とたんに、山腹に開いた穴から多数の矢が飛来した。

 足元の地面に矢が突き刺さっていく。

 アセットの小柄な身体にも数え切れないほど命中した。

 紺碧と金色の装甲がすべてを弾く。

 オークの弓矢でアセットを傷つけることは不可能だが、命中数が多い。

 思っていたより練度の高い射手たちだった。リーダーは有能なはずだ。油断できない。


 続いて山裾のトンネルから群をなしたオークが走り出てきた。

 鉄板のような剣と盾で武装している。

 オークたちはみな、アセットより背が高く、栄養状態もよいようだった。

 足音を轟かせ、雄叫びをあげながら飛びだしてきたものの、オークたちの動きはしだいに鈍くなっていった。

 武装して大群で押し寄せたところが、相手は小柄な騎士ひとりなのだった。

 オークたちは血走った目に困惑の色を浮かべて動きを止めた。

 ただアセットをじわじわと囲むばかりであった。

 口々に疑問と誰何の唸りをあげる。


 だがアセットは容赦しない。

 間合いに入ったと認めるや、群れに打ちかかっていった。

「えぇいっ!」

 腕と足を振るい、オークたちの頭を叩き潰していく。

 そのさまは凶暴な旋風のごとく。

 次々とオークの死体が積み重なっていく。


 そこへパモナの援護射撃も加わった。

 アセットから離れたところで火柱があがり、爆発する。

 オークたちは吹き飛ばされて、死ぬか身体の一部分を失った。


 五十匹ばかり殺され、

 同胞の死体につまずくようになって、オークたちもやっと事態を悟ったらしかった。

 打ちかかれば刃は弾かれ、つかめばその腕が千切られる。

 自分たちは、この小さな悪魔の騎士に勝てないのだと。

 獣のような阿鼻叫喚が広がる。

「ギャァーッ!」

「ウガァーッ!」

「イノヂバカリハッ」

 オークたちは恐慌状態におちいって逃げ惑い始めた。


 とたんに殺戮の効率が落ちる。

「ちぃっ!」

 アセットは推進噴射で飛び回って、逃げ惑うオークにトドメを刺していく。

 しかし、けっきょくのところ攻め手はふたりしかいない。

 群れが固まっていてくれないと無駄な動きが多くなるばかりだった。


 オークの三分の一は死に、三分の一はいずこかへ逃げ去っていった。

 残る三分の一は、逃げまわるがこの拠点を諦めもしなかった。

 こいつらを始末しなければアセットの仕事は終わらない。


 時間の限り潰していこう。

 アセットがそう決意したとき、山裾のトンネルから太鼓の連打が響き渡ってきた。

 リズムを伴った胴間声が聞こえてくる。

「オッ、カシラッ!」

「オッ、カシラッ!」

 その声が聞こえてくると、アセットの周りのオークたちは動きを止めた。

 両手を振りあげ、口調を合わせて叫びはじめる。

「オッ、カシラッ!」

「オッ、カシラッ!」

 やがて太鼓の響きとともに、トンネルの口から新たなオークの一団が現れた。

 このオークたちは身体がひと回り大きく、装備も上等だった。

 黒い板金鎧で身を固め、剣と槍を持っていた。

 この上級オークたちに囲まれて出てきたのは、背の高い初老の男だった。人間だ。


 オークたちは動きを止めていたが、アセットは容赦しない。

 これ幸いとばかりに始末をつけて回った。そうしながら、アセットは男の様子を窺った。


「オッ、カシラッ!」とは『お頭』ということだろう。

 この初老の男がここの首領に違いない。

 男は黒いローブに身を包み、曲がった大きな杖を持っていた。

 おそらく魔道士だろう。左肩に灰色の人形を乗せている。


 イステバが囁いた。

「肩の人形、デーモンだよ。デーモン使いの魔道士ね。油断しないで」


 男の瞳には狂気を宿らせた知性がきらめくが、その顔は野卑に歪んでいた。

 こんな場所で、オークばかりに囲まれて長く暮らし過ぎたせいかもしれない。

 男の真の目的は不明だが、

 こんな場所で密かにオークを増やし、そのために同族である人間を奴隷として使っていた。

 無慈悲で冷酷な男であろう。

 デーモン使いとなればどんな力を持っているかわからない。

 アセットはデーモン使いの魔道士と戦うのは初めてだった。

 攻撃の手をとめて飛び退き、距離をとる。


 黒い鎧の上級オークたちは間隔を広げ、魔道士の男が進みでた。

 男は余裕のある表情で言った。

「悪魔の騎士か。この近辺にいるとは思わなかったが、やってきたことを後悔しても遅い」

 男は唇を歪めて続けた。

「おまえのような処女を弄んでやりたいが、わたしは少しばかり幻滅している。さっさと始末してやろう」


 そこにパモナの光弾が飛来した。

 しかし弾は魔道士に接することなく破裂してしまう。アセットは息をのんだ。

「バリアがある!」

 イステバは声を弾ませた。

「パモナ、ナイス! これで魔力障壁があることもわかったし、障壁の種類もわかった! あとはアタシに任せて。アセットは殴るだけ!」


 魔道士は驚いていた表情を剣呑なものに変えていった。

「仲間がいるとしてもひとりか。まずはおまえを血祭りにあげてやる!」

「せいぃっ!」

 アセットは脅しにも動ぜす、まっすぐ飛びこんだ。

 イステバが慌てた声をだす。

「なんで真正面から!?」


 もう遅かった。

 魔道士の身体から吹き出した炎の帯がアセットを包みこむ。灼熱が襲った。

 悪魔の騎士となっていても、その熱は熱かった。

 アセットは歯を食いしばって腕を振りあげる。

 イステバが叫ぶ。

「魔力障壁中和ッ!」

 アセットの拳は魔力障壁を打ち破り、魔道士の顔を殴り抜いた。

 その首がねじれて折れる。

 アセットが着地したとき、魔道士はすでに絶命していた。

 間を置かず、上級オークたちに殴りかかる。

 パモナの射撃もあって、上級オークたちはあっという間に全滅してしまった。


 残された雑兵オークたちのあいだに、さきほどを上回る恐慌が吹き荒れた。

「ギャァァーッ!」

「ギャァァーッ!」

 オークたちはもうこの場にとどまろうとはせず、散り散りになって逃げ去っていく。

 アセットは魔道士の死体を横に、油断なく目を光らせた。

 やがてオークは一匹もいなくなった。

 残るは死体ばかりだった。


 すべてが済んだと思ったとき、魔道士の人形がもぞもぞと動き始めた。

 アセットは警戒して構える。

 人形は大きく膨らんでいき、灰色の衣をまとった若い男の姿となった。

 魔道士のデーモンが正体を現したのだった。

 若い男のデーモンは首を振りながら言った。

「この男とも永いこと組んできた。手練の魔道士だったのに。ちょっと油断したところをきみのような小娘に瞬殺されてしまうとは」

 イステバが外に聞こえるように言った。

「まだやるつもり?」

「まさか。勝ち目もないのに痛い思いするだけじゃないか。ぼくは来たところへ帰るよ。邪魔されなきゃ」

「勝手に行って」

 アセットが答えると、若い男は浮かびあがって、そのまま高い空へ飛び去ってしまった。


 もう敵はいない。

 完全勝利の静けさがあるばかりだった。

 アセットたちはオークの集落を全滅させた。


 ひといきつくと、アセットはイステバに聞いた。

「着装時間、あとどれくらい?」

「もうすぐ限界」

「まずパモナのところへ。向こうにもオーク逃げてったから様子をみないと」

 アセットは推進噴射を吹かせて飛んだ。

 魔道士の火炎放射を受けてから、身体中がヒリヒリ痛む。

 プライマル・スーツの麻酔効果があっても痛むとは、

 もしかしたら深手を負ったのかもしれない。

 アセットは気の所為であることを祈った。

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