55 最下層の報酬
私たちが部屋の奥を探索すると、奥の壁の前に、祭られるように置かれていたアイテムを一つ見つけた。
それは銀の腕輪だった。魔力を纏って紫色に怪しく光っている。
「これかな?」
「最深部の装備が呪われていることはないから、誰かつけてみなよ!」
アイナはそう言った。
私には、それがどういうアイテムかわからなかったが、ここに来たらダンジョン初体験のニーナに何かあげられたらとずっと思っていた。
「ニーナ、付けてみたら?」
「いいの?」
ニーナは嬉しそうに、私と他の仲間たち、そしてアイナの顔を見た。
そして、みんなが頷くのを見ると、ニーナは自分の右腕にその腕輪をつけた。
「おおおぉ!! これは……」
「何かわかった?」
「あれと同じことができそう!」
「あれ?」
「うん? 何のこと?」
ニーナは、おもむろに腕輪をつけた腕を掲げると、しゃがみ込んだ。
そして地面を殴りつける。
ドゴォン!!!
物凄い衝撃が走る。
これはつまり、ベリトが使っていたあの大技と同じものが発動できるらしい。
周囲に凄い勢いで衝撃波が広がる……
……って、そんなこと言ってる場合じゃない!
私たちも飛ばされて……ってあれ?
勇者アイナは、目にもとまらぬ速さでニーナと私たちの間に入ると、スキルを発動していた。
「”ロイヤルガード”!!」
アイナの前に薄い透明の光が張られ、私とセレニアとモニカもその後ろに守られた。
するとその光の幕は、ニーナの衝撃を防いで、私たちを吹き飛ばさせずに守っていた。
「おぉ~!!! 見た、見た⁉ 凄いよこれ! あれ? すぐにはもう一回使えないみたい」
「おバカ! それを食らわないために私たちは逃げることにしたのに、何で私たちに使うのさ!」
食らっていたらまずいことになっていた。私はニーナをつい叱ってしまう。
「あ……そうだった、ごめんごめん!」
ニーナは頭を搔いて、私にそう謝った。
「いい武器じゃない。よかったね、ニーナちゃん!」
「うん! ありがとう勇者、本当に貰っていいの?」
「いいよ、アイナって呼んでね」
「アイナ! ありがとう!」
お姉さんに飴玉でももらった子供にしか見えなかったが、普通に考えて、多分ニーナよりアイナの方が年下だ。
なんだこの光景は……
「しかし、私のこの骨剣も、呪われてはいなかったようだな」
「セレニア、それは本当に結果論だから気を付けてください」
珍しくセレニアがモニカに普通に注意されていた。
「とはいえこうしなくてはな……」
確かに状況的には剣を取り上げられて、それを使うしか仕方なかったのだが。
しかし、セレニアが元の剣を拾いに行くと、新たな事実が判明した。
なんと、元々使っていた剣が重たくて持てないのだ。
「なっ! なんだこれは! めちゃくちゃ重たい!」
「何言ってるの? セレニア、普通に持てるよ?」
ニーナはセレニアが持てないと言っていた、セレニアがもともと装備していた剣を、軽々と持って見せた。
「ほら」
しかし、ニーナからそっと渡されてセレニアが剣を持つと、重そうにして取り落してしまう。
ガランガランと音を立てて、剣が地面に落ちる。
「う゛っ! ほら、重いって!」
「うーん? 何でだろ?」
「だから言ったじゃないですか。呪いですよ。骨剣がそれなりに使える剣だっただけマシですよ。それで使い物にならない剣だったら……呪いを解くまでただの非力な少女です」
「非力な……少女……私が……?」
セレニアは頬に手を当て、照れた。
「なぜ喜ぶ」
「なっ、喜んでなどいない!!」
セレニアはモニカに反論したが、明らかに照れている様子だった。
ずっと強き女騎士でやってきたから、やはりか弱い女性に憧れているところがあるようだ。
趣味も可愛いし。これは内緒だけど。
モニカがセレニアの趣味を知ったらと思うとぞっとする。きっと一生からかい続けるだろうな。
結局、セレニアの剣はニーナが腰に付けて、持って帰ることになった。
「ふふっ、楽しいメンバーだね。羨ましいよ。さて、積もる話もあるんだ。僕と一緒に、ここを脱出しないかい?」
私たちは満身創痍だ。
アイナの提案に乗らない手なんてなかった。
「よろしくね、アイナ。一緒に帰ろう」
「うん、リリーさん、行こう!」
私たちは一応、戦える力を残していたはずだけど、帰りの道中に出会った魔物は、ほとんどアイナが一人で一ひねりしてしまったのだった。