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53 デッドライン


「アァ……いいだろう。もう飽きてきた。終わらせてやる」


 ベリトは、セレニアとニーナに、徐々に体力を削られ、息が上がっていた。

 そして、そう言うとベリトは突然、剣を地面に突き刺した。

 戦いの最中に武器を自ら置くという行動に違和感を感じ、一瞬セレニアとニーナがその攻撃を緩める。


「ウオオオオォォ!!!」


 ベリトは叫ぶと、身体を縮こまらせて自分の身体に魔力をため込んだ。こういう動作を見ると、私たちは警戒するようになっているものだ。

 なぜなら、強力な攻撃の直前には、魔物は普段と違った行動をするものだからだ。そしてそれは、悪魔も同じだろう。


「まずい……!」


 私は嫌な予感がしたが、何が起きるかまでは結局分からず、構えることしかできない。

 すると突然、爆発的な衝撃が、ベリトを中心として四方へ放たれた。


 ドォン!!!


 物凄い音と、衝撃が響く。

 私たちは全員、軽々と吹き飛ばされ、四方の壁に叩きつけられた。


「うぐっ……」


 体中が痛い……


 土煙が舞う……


 状況……

 状況確認しないと……


 這いつくばったまま、私は辺りを見渡す。

 壁に大きな血痕を見て一瞬冷や汗が出たが、それがすぐ下に倒れているデーモンのものだと気づく。

 なんと、ベリトにとっては部下であるはずのデーモンまで巻き込まれ、既にモニカによって体力を削られていたデーモン二体は、ベリトの攻撃によって壁に叩きつけられ即死していた。


 モニカを見つけた。HPはギリギリ。

 ほとんど動けない。

 私と同じくらい……重傷。


 ニーナのHPは残り一割。

 セレニアは二割。

 二人はそれでも立ち上がり、自分たちに注意を引きつけようと何とかベリトに対峙している。


「やば……」


 私は、懐から完全回復薬……ポーションを取り出すと、一気飲みした。

 珍しい虹色に光る液体が、私の口から体内に取り込まれる。


 これ、買っといて本当によかった。

 効果が瞬時に出るポーションは高い。ましてや、完全回復ともなれば、ポーションというよりは装備の一つでも買えるほどの値段だ。


 その高い買い物のせいで、、ブレイズには怒られて、それで追い出されちゃったけど。

 それが今、私の命を、それによって今いる大切な仲間達の命を救う。

 自分で自分を回復するより、今は手っ取り早いし、私のMPも減ってきている。


 今、私の魔法で自分を含む全員を、普通に回復しきることも、できなくはない。

 でも、それだと敵を倒せても、地上に戻るまでにMPが枯渇する。


 残念だけど、ベリトの今の攻撃を見た時点で、撤退は決定事項。

 あの攻撃が、この後二度と使われない保証などないのだ。


 そして、全ての状況を整理したうえで、奥の手を使う場面は、今だ。


 私は膝立ちになりながら、ベルトを解き、ミズキの魔法書店で買ったグリモワールを取り出す。

 そして、よろめきながら立って、グリモワールを開いて詠唱する。


「詠唱開始。”無謀なる……正義を知らぬ……愛を知らぬ……見捨てられし……全ての者……それらの死を……先延ばしにする……無意味なこの術を……今ここに施す。ウィムジカルフェアリー”!」


 言葉の羅列に意味などない。

 ただ、このグリモワールを書いた人間は、何かを思ってそれらの単語を鍵にしたのだろう。

 まるであざ笑うかのような言葉の並びを、私は淡々と読み上げた。このグリモワールの著者は皮肉屋なのかもしれない。でも、私にとっては意味なんてどうでもいい。これは道具なのだから。


 グリモワールの中のすべての文字が光り輝き、あたりに光の粒子をまき散らす。

 粒子が重なり、集まり、金色の妖精を何匹も生み出すと、妖精は私と、モニカ、そしてニーナとセレニアをからかうように、遊びに誘うように、周りを飛んだ。

 金色の粒子を浴びたモニカ達の、HPが完全回復した。

 その後もしばらく、妖精たちは皆の周りを漂い続け、全員に継続回復を与える。


「おお……! やれる! 勝てるよ!」


「リリー!」


 セレニアとニーナが嬉しそうにこちらを見る。


 でも……だめだ。二人の顔を見て、私は歯を食いしばった。

 グリモワールの魔法は、一度使うとしばらく使えない。

 効果の高い、妖精の継続魔法が続いているうちに……


「撤退!!!」


 私は出せるだけの大声で叫んだ。


 私の指示に、セレニアとニーナの表情が固まる。

 モニカだけが、冷静に、退路を確認するように、ゆっくりと出口のほうへ視線を投げた。


「ば、馬鹿な……もう少しだぞ?」


「リリー! あと少しだよ! やらせて!」


「そうだろうか?」


 セレニアたちに、ベリトが問いかける。そして、ベリトは再び咆哮した。


「ウオオォォ!!」


「来るよ!!」


 再びベリトは魔力をため込み、衝撃魔法を発生させた。

 私たちは再び弾き飛ばされ、体力をぎりぎりまで削られる。

 やはり、一回きりしか放てない魔法ではないようだ。

 しかし、今回はあたりを漂う妖精たちのおかげで、私たちの体力はすぐに戻っていく。


「今のでわかったでしょ! 撤退!」


 私は再び指示を出す。

 諦めたくないのはわかる。

 でも、何よりも大事な命のために、逃げなければいけない時もある。


「くそ……ニーナ!」


 悔しそうに、それでもセレニアは、ニーナに声をかける。


「わかったよう!」


 セレニアの一声で諦めがついたのか、今度は二人も、ベリトに注意を向けながらも、出口のほうへと少しずつ移動し始める。

 グリモワールの効果で出ている、妖精たちがいなくなるまでの間に、ここから避難する。

 それ自体は不可能ではない。

 二人が素直に従ってくれてよかった……

 でも、悔しいのは私も同じだ。


「うう……モニカ……ごめん!」


 私とモニカは一足先に、出口の扉の前で待つ。

 モニカにそう言うと、モニカが、いつになく真剣な表情で、私に言った。


「間違っていませんよ」


 モニカは真剣な表情で頷いた。

 そして、部屋の出口の扉に手をかける。


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