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 剣を吹き飛ばされ、得物を失ったセレニアは、咄嗟に機転を利かせる。

 先ほどスケルトンの大群がいた部屋で手に入れた骨の剣を、腰から抜いて手にした。

 そしてそれを構え、大剣の一撃をかろうじて防ぐ。


「ぐぅっッ! 仕方がない、緊急時だ!」


 ベリトは確実に命を取ったと思っていたが、予想外に反応され、一瞬動きが鈍る。

 セレニアはそんなベリトの大剣を足蹴にして跳躍すると、ベリトの顔を斬りつけた。

 

「ぬう!」


 ベリトは顔を傾け、直撃を避けた。

 頬に切り傷が入り、黒い血がかすかに宙へと散る。


「はっ! この剣、骨にしてはよく斬れる! それに驚くほど軽いぞ!」


 セレニアは新しい相棒の働きを気に入ったようだ。そう褒めたたえて、骨剣を再び構えた。


「貴様……!」


 ベリトが頬についた血を拭きながら、セレニアを睨む。その顔は怒りに歪んでいる。

 それを見ていたモニカが、後ろから叫んだ。


「セレニア、ニーナ!」


 モニカは二人にそう叫ぶと同時に、杖をベリトの方へと向けた。

 すると、セレニアとニーナは一瞬で理解して、後方に跳躍。ベリトから素早く距離を取る。

 怪訝に思ったベリトが、モニカの方を向いた時には手遅れだった。


「”ブレイズトーレント”!!」


 モニカの杖から放たれた、猛烈な勢いの炎が、ベリトを包む。

 セレニアとニーナは先ほどの一瞬で、安全な距離まで下がっていたが、それでも猛烈な炎の熱気を浴びて、熱そうに手で防御していた。


「ぐあぁぁあぁ!!!!」


 さすがのベリトも、悲鳴を上げて、炎の中で足掻く。

 真っ赤な炎に覆われた中で、微かに黒い影が蠢いていた。


 そしてモニカの杖から炎が消え、魔法攻撃を出し終えると、大ダメージを負ったベリトが、それでも変わらずその場に立っていた。

 かなりのダメージを負ったはずだ。この調子でいけば、倒しきれるかもしれない。私たちは少し、希望を持ち始めた。


 しかし、その理想はすぐに打ち砕かれた。


「ちょっとやりすぎたな。魔法の人間」


 ベリトはそう言うと、モニカのほうへと手をかざす。

 すると、魔法陣が先ほどと同じように、発生する。

 しかも、今度は五つ。モニカを取り囲むように、黒い渦が少しずつ大きくなっていく。


「ちょっとやりすぎたかもしれません……」


 モニカは立ち尽くした。


 三体でも厳しかったというのに、今回は五体も相手にしなければならない。しかし、それでもモニカは、それぞれの宝石を魔法陣の向こう側へ浮かせた。

 モニカが持っている宝石が一つ、残りの宙に浮くものが四つ。全てモニカが手にしている宝石から光線は放たれるから、撃てる光線は同時に最大で四つ。


「せめて一体を引き付ける必要がある……ニーナ!」


 モニカが光線で攻撃できるのは四体まで。

 少なくとも一体以上は、ニーナに処理をしてもらう必要がある。


 私も力になりたいところだが、自分の身を一番大事にするのはヒーラーの鉄則だ。

 何も、自己中心的な考えでそう言っているわけではない。

 私が死んだらその瞬間、誰も仲間を回復する者がいなくなる。

 結果、全滅だ。私が死ぬことが、パーティの全滅に直結する。

 常にそれを避けるように、無茶な動きはせず、安全な場所に位置取り、自分の命を第一に守らなくてはならないのだ。


 それならやはりニーナにお願いするしかない。私はそう判断して、ニーナに声をかけたのだった。


「いえ、いけます。ニーナはベリトに集中して!」


 モニカはなんと、ニーナにモニカの援護をさせるという考えを拒否した。

 そして、自分が持っていた宝石も宙に浮かせて見せて、五つの魔法陣それぞれに、一つずつ宝石を浮かせた。そして、自身も、長い詠唱を開始する。宝石での攻撃を続けながらも、古代魔法を放つつもりなのだろう。


「モニカ……すごい」


 私は意地でも一人で全てを処理しようとしているモニカの考えを理解すると、それを見守ることに決めた。

 そしてデーモンが召喚される。

 瞬間……それぞれのデーモンの側にあらかじめ浮いていた宝石が、別の宝石へと、その両側に光線を出した。デーモン達が、光線に貫通され、叫ぶ。


 ギャアァアァ!!


 デーモンたちの悲鳴が響く。しかし、モニカはその手を緩めない。


「”ブレイズ……トーレント”」


 苦しむデーモンたちに、容赦なくモニカは魔法を叩き込んだ。光線に焼かれたまま、三体のデーモンがモニカの杖から放たれた広範囲の炎に巻き込まれる。


「”ブレイズトーレント”!!!」


 モニカはストックもできていたようで、連続で超強力な古代魔法を放った。

 ありえない威力炎魔法。それを二連続で放たれる。そして宝石の光線の魔法にも焼かれ、生み出されてすぐのデーモンが三体、黒焦げになり消えていった。

 二連続の炎魔法の直撃を何とか避けたのか、デーモンはダメージを食らいながらも二体残った。モニカはそれを独りで処理するつもりだ。


 セレニアとニーナも、着々とベリトの体力を削っていく。

 私は回復を適宜唱え、セレニアとニーナの体力を、高く保ち続ける。


 モニカの無茶のおかげで、何とかなるかも。

 でも、油断はできない。

 私は今度はモニカの方にも気を配る。

 デーモンが咆哮する。最優先で処理すべきタスクが一つ、私の頭の中のヒールワークに割り込んでくる。


「”テンポラリシールド”!」


 デーモンのスキルに合わせて、モニカの身体を守る。

 これを欠かしたらそれで全てが崩壊する。

 今やモニカが頼みの綱なのだ。


「”トリプルヒーリング”!!」


 私は回復魔法も先読みで唱える。

 デーモンは爪を振るう。モニカは防御魔法に軽減されながらも、貫通するその爪の斬撃にやられ、痛み、苦しむ。

 これだけは私も避けられない。痛いだろうけど、ごめん、モニカ。


「ぐうぅ!」


 悲鳴を上げるモニカ。それでも、目の前のデーモンから目をそらさない。私の回復魔法が、すぐに届くと信じている。


 そして、先ほどのトリプルヒーリングが杖先からモニカの身体に、ベストなタイミングで届く。


 完全回復したモニカは、素早くデーモンから距離を取る。

 二つの回復魔法の連携を前提とした、モニカの戦略。モニカは頭がいいし、十分強いが、それでも危険な賭けだ。


 私のMPの消費も激しい。


 もう、あと二、三回だ。

 私はそう判断した。

 それだけの回数、回復を行ったら、もうリミットだ。

 撤退せざるを得ない。

 敵がどんなにもう少しで倒せそうでも、だ。


 どんなに悔しくても勿体なくても、何よりも掛け替えのない、替えの効かない、仲間の命のために。

 それを判断するのが私の役目だ。


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