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50 潮時

「来るぞ!」


 セレニアはベリトの斬撃を素早く後ろに一歩下がって、間一髪で避けた。

 ベリトにしてみれば軽く振っている程度だが、私たちからすれば身長よりも長い巨大な剣だ。

 当たったらひとたまりもない。


「うおおぉ!」


 セレニアはそのままベリトに攻撃するが、硬い鎧に弾かれる。

 剣と鎧がぶつかる重低音が、部屋の中に大きく響く。


「ふう……抗っても無駄だ。未来は決まっているんだよ。お前たちと、私自身の、一挙手一投足が、無駄だ」


 ベリトはセレニアが攻撃した後の隙に、蹴りを入れた。


「ぐあっ!」


 セレニアは腕で防御したが、それでも軽々と吹き飛ばされる。


「”ダブルヒーリング”!」


 一撃でも、HPの減少が大きい。

 この戦い、MPの消耗は激しくなるだろう。

 今の一撃、仮にニーナが食らったら?

 ギリギリ足りる。HPは残る。

 ひとまず、即死を懸念した即時撤退は無し。


「”ストライクレーザー”!」


 私の傍で、モニカが魔法を放つ。

 猛スピードのその魔法は、ベリトが防ぐ間もなく鎧に当たり、脇腹の赤い鎧が砕け散った。

 さすがの威力だが、それでも鎧を砕いただけだ。


「フン……」


 鬱陶しそうに、ベリトがその鎧を砕かれた箇所を見ると、既にニーナがそこめがけて飛び上がって、スキルを発動している。


「”流星光底”!!!」


 むき出しになった身体に、ニーナが直接スキルを叩き込むと、その衝撃でベリトは少しよろめいた。

 今まで出始めて、ちゃんとダメージが入ったようだ。


「ぐう……! 邪魔だ!」


 ベリトは剣を振るう。

 ニーナは空中で身体をよじり、何とか攻撃を避けたが、切っ先がかす当たりした。


「っとと! あっぶなーい!」


 ほんの微かな血が、空中に散った。


「”ヒーリング”」


 大した傷ではない。簡易回復。

 私の杖から放たれた魔法が、空中のニーナを追いかけるように飛んでいき、ニーナが着地する頃には怪我が治っている。

 モニカは詠唱中。すぐには次の魔法が撃てない。


 ベリトは着地するニーナを追いかけるが、セレニアが再びベリトを引き付ける。


「”スタンブレード”!!」


 光る刃はベリトの鎧に傷を付けられないが、その眩しさを忌々し気にベリトは睨む。気を引くことには成功したようだ。


「フン! どけぇ!」


 ベリトが剣を振るい、地面に叩きつける。

 セレニアは危なげなくそれを避けるが、地面は割れ、砕かれ、破片が飛び散り、セレニアはその破片でダメージを負った。


「”ヒーリング・オーバータイム”!!」


 セレニアを継続回復。

 セレニアへの小ダメージは継続回復させて相殺していこう。セレニアが直撃を避けても、今の様にどうしても細かいダメージが入ってしまう。


 ニーナは先ほどと同じように、ベリトの鎧が崩れたところを狙って再び跳躍した。

 しかし、狙いが分かりやすすぎた。ニーナがそこを狙うことは、ベリトにもバレていた。


「フン……わかっているぞ!」


 ベリトは片側の羽根を動かし、ニーナを勢いよく羽根で払った。手足の動きを警戒していたニーナは、予想外のところから攻撃を食らい、大きなダメージを負った。


「うわあぁっ!!」


 ニーナの悲痛な叫びが響く。巨大な羽根に勢いよく吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられてしまった。

 HPを確認。中程度の回復が必要だ。


「くっ……”ダブルヒーリング”!」


 消耗が激しい。ベリトが動くたびに、誰かが傷つき、回復が必要だ。

 ヒールワークの処理は問題ない。

 だけど、MPの総量から、撤退すべきタイミングは判断しなければならない。そして、消耗が激しければ激しいほど、当然その時はすぐに訪れてしまうだろう。


 そんな時、ようやくモニカの詠唱が終わったようだ。


「”ストライクレーザー”!!」


 モニカの光線魔法が、今度はベリトの脚部の鎧を砕いた。モニカは当然急所を狙ったようだったが、勘のいいベリトは素早い動きで狙いを外し、脚部に当たったのだった。


「でかした!」


 しかしセレニアにとっては、低い位置から狙える場所ができたため、戦略の幅が広がったようだ。


「そろそろか……仕方ない……」


 ベリトはそう言うと、手を私とモニカの方へと向けた。モニカや私が、遠距離攻撃や回復を行っていたことは当然気づいていたのだろう。知能の高い魔物ほど、後衛を先に落とそうと考えるものだ。

 何かのスキルか魔法を使うつもりだろうか?

 何をしてくるかは予測できない。私は軽減魔法を使おうと、構えた。


「出でよ」


 ベリトがそう呟くと……私とモニカの周りの地面に、魔法陣が三つ現れた。

 そして、そこに小さな黒い渦が現れ、どんどんと雷を発しながら大きくなっていく。


「モニカ……! これって……」


「セレニアの先ほどの話からすると……デーモンでしょうね。それも三体。絶対絶命です!」


 しかし、気づいたときには、私とモニカの方へ、ニーナが走って来ていた。

 ニーナはあの夜私が提案した、自分の位置を考えながら動くということを、既に実践しているようだった。


「ニーナ! ありがとう!」


「何とかなるかな⁉」


 ニーナは私にそう聞いた。デーモン三体に、ニーナだけで耐えられるかという意味だろう。


「……厳しいかも!」


 セレニアがあれだけ村で苦戦したデーモンが三体。

 あれからみんな強くなったとはいえ、三体をニーナが引き付けるのは難しい。

 しかしセレニアにデーモンを誘導して、セレニアが三体と戦いながらベリトと戦うのは、もっと危険だろう。


「どうする……?」


 撤退か?

 それしかない。MP切れ以前に、一瞬で全員がやられかねない。

 戦いが二か所に分かれることのリスクはそれだ。誰かを回復している間に、他の誰かが酷く傷ついたりすれば、私も手が回らなくなってしまう。

 ベリトがそこまで考えて、自分の周りではなく私たちの方にデーモンを召喚しようとしているとしたら、かなりのやり手だ。


 しかし、そんな私の心中を察したのか、モニカは声をかけてきた。


「少し……試したいことが」


 モニカはそう言うと、先ほどオーガから手に入れた赤い宝石を取り出し、杖を持たない左手に持った。そして、同じように赤い宝石を、袋から四つ取り出し、空中へばら撒くと、魔法で浮かせてみせた。


 これを使って戦ってみたいということだろうか。しかし、危険な賭けではある。


「モニカ、行けるの?」


「多分……」


「わかった、やってみて!」


 オーガと戦った際に、あの石像から発せられた光線は、赤い宝石から撃たれていた。それをモニカが使えるなら、複数相手もできるかもしれない。しかし、モニカのHPはデーモンの一撃に耐えうるだろうか。シールドを張っても、かなり厳しいはずだ。


「ニーナ、離れていてください。チャンスがあったらスキルを」


「合点!」


 ニーナはモニカの言うことを素直に聞いて、黒い渦から少し離れたところで、構えた。


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