44 オーガと八つの柱
私が部屋を見回すと、四角い部屋のその角……四隅に、儀式用のような巨大な柱が立っていることに気づいた。
四隅だけではなく、四つの壁に沿った中間の位置にも、それぞれ四本の柱が立っている。
つまり部屋の外壁に沿って、部屋を囲むように合計八本の柱が立っていることになる。
それを見ていた時、ちょうどそのうちの二本の柱の上にある彫像の目が、赤色に光ったことに、私は気づいた。
「来るぞ!」
セレニアもそれに気づいたのか、そう叫び、オーガの攻撃とは関係なく、位置を移動した。
すると、光った二本の柱と柱の間に、赤色の光線がビッ! と走った。
柱の上にある彫像が、もう片方の光った柱の方へとそれぞれ光線を放ったのだ。
二本の光線は地面とお互いの柱までの空間を焼きながら、やがて交差して一つの光線となった。光線は柱には影響を与えないようで、しばらく空間を分断するように赤い線を引き続けた後、やがてプスプスと消えていった。
「うわぁぁっ!」
ニーナの悲鳴が響く。光線のすぐそばにいたニーナが、避けたものの、少し光線にかすって怪我をしてしまったようだ。
「痛っ! 痛い!」
「”ヒーリング”!」
私はすぐにニーナを回復した。
かすった程度だから軽い回復で済んだが、直撃だと結構危ない。
仕組みは何となくわかった。
光った柱、二本同士が繋がるように、光線が発射される。
光線はしばらく発射され続けるが、数秒したら消えてなくなる。
それを避けながら、あのオーガを倒さなければならないらしい。
こうしたまるで魔物を手助けするような仕掛けが、時折ダンジョンには配置されている。
周りを見ていられる私やモニカには、避けるのはそこまで難しくないだろう。
しかし、オーガと戦いながらそれを避けなければならないとなると、前衛のセレニアが大けがを負ってしまうのも理解できた。
「大丈夫! 私が見る! オーガに集中して!」
私はそう宣言した。柱の攻撃は、私が注意深く観察して、セレニアとモニカに指示して誘導すれば、二人は戦いに集中できるだろう。
「ふっ……心強いことだ……」
セレニアはそう言うと、オーガにまっすぐと身体を向け、剣を構えた。
ニーナはその少し後ろで、隙を伺う。
セレニアがオーガに斬りかかる。
「うおぉぉ!」
オーガはそれを防ぐように、巨大な棍棒を振り回し、セレニアの進路へ攻撃を叩き込む。
ドゴォン! と、腹の底にまで響くような思い衝撃音が部屋中に聞こえた。
セレニアは咄嗟に地面に叩き込まれた棍棒を避けるが、飛び散った地面の破片の一部がかすった。ごく微量のダメージだ。
「”ヒーリング・オーバータイム”」
継続回復をかける。これでセレニアも些細なダメージを負っても、気にならないはず。
セレニアはオーガの脇を通り抜けざまに斬りつけ、ダメージを与えた。
そして、柱が光る。
左の壁の中央と、右の壁中央の柱、それぞれが光った。
ということは、その数秒後に、部屋を真っ二つに、横に横断するように光線が走るはずだ。
「ニーナ! もう少し前へ!」
光線で分断されることでセレニアが孤立しないよう、ニーナを部屋の奥のほうへと進ませる。光線が部屋を分断しても、魔法はその向こうへ届く。私たちは特に動く必要はない。
「りょーかいっ!」
ニーナはオーガに近づき、光線の予測範囲から抜ける。
直後、予想通り部屋を分断するように光線が走った。
「モニカ、詠唱してる?」
私はモニカに尋ねた。モニカは既に詠唱を始めていたが、複雑な顔をしてこちらを見る。
「一応……ストライクレーザーです。この環境に合った魔法がいまいち掴めません……」
「それで十分。当てやすいタイミングで攻撃を続けて」
セレニアとニーナはうまく連携して、少しずつオーガの体力を削っている。
二人だけだとかなりの持久戦になるだろうが、モニカが魔法を当てればそれほど時間はかからないはずだ。
柱が光る。
私たちに近い、部屋の出口側の右隅と、対角線上の左奥隅の柱が光った。
どう指示を出す?
いや、変わらない。
先ほどは横半分に部屋が分断されたが、次は斜めに変わるだけだ。
「セレニア、ニーナ、部屋に斜めに光線が出る! 右奥隅へ! モニカ、もう少し左へ、私のほうへ寄って!」
指示をすると皆はすぐ動いて、安全範囲へ逃れる。
それでも、やはりほんの数秒後に光線が走る。
もたもた指示していると、当たってしまう。
「はぁーッ……”電光影裏”!!」
ニーナは背後からオーガにスキルを叩き込む。
オーガの巨体がよろめき、正面からセレニアがその隙を斬りつける。
「いいぞ、ニーナ!」
「ナイス、セレニア!」
二人はうまく連携している。
私が指示さえ間違えなければ、勝てる。
オーガはダメージを多く負い、怒ったのか、空に向けて咆哮した。
「……スキル!来るかも!」
オーガは棍棒を下に向けると、何度も何度も地面を叩いた。
ズン、ズン、ズン!!
地響きがリズミカルに響き、私たちはバランスを崩す。
なんだ? 何をしようとしている?