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41 別れた道のその先の

「分かれ道だぞ。どうする?」


 セレニアが立ち止まって振り返ると、私のほうを見てそう聞いた。

 真っ直ぐにそのまま進む道と、右へと別れた道が一つある。


「どっちに何があるかは運だし。普通に考えたら、まっすぐ行くと深部に続くルートで、右に曲がると脇道って感じかな」


「だったらまっすぐじゃない?」


 猪突猛進タイプのニーナは当然そう答えた。


「だけど、脇道にも意味はあるよ。貴重なアイテムが眠っているかもしれないし、逆に敵がいるだけで無駄に消耗しちゃう可能性もある」


「ふーむ、じゃあ脇道に行ってみよう! いいものがあるかもしれないよ!」


 ニーナは気が変わったようだった。好奇心をそそられて、脇道に行ってみてもいいと思ったようだ。


「いいんじゃない? じゃあ、そっちへ行こう」


「いいだろう」


 セレニアは小さく答えると、再び先頭を進み、警戒しながら道を右へと曲がった。

 再びスケルトンと何度か遭遇したが、私たちは危なげなく倒し、進んだ。

 すると、突き当りに扉が一つ現れた。


「行き止まり。この扉を開けるしかないが……どうする?」


「開けるしかないでしょう!」


 ニーナはやれ、やれ!と煽る。


「どう思う? モニカ」


 セレニアがモニカに尋ねた。モニカは首を傾げて答える。


「さぁ? これが下の階層への道という可能性もあるし、開けてみる他ないのでは? 先ほどリリーが言った通り、結局は運なので」


 セレニアはその言葉を聞き、うなずくと、扉に手をかけた。

 私は杖を強く握って、構える。開けた瞬間、(トラップ)、という可能性だっていくらでもある。


 セレニアが扉を開ける。


 すると、部屋には……

 隙間が無いほどぎっしりと詰め込まれた、スケルトンの大群がいた。

 ざっと見ただけだけでも、百体はいるだろうか。

 その奥は暗くて見通せない。


 開いた扉の音に反応してか、私たちの方を、一斉に、目に光のない頭蓋骨がぐるん、と首を回して見た。

 ひぃっ……

 そのおぞましい光景に、私たちは全員が一瞬、身体を硬直させる。


「あ、お邪魔しました~」


 セレニアはいつもの調子と違う愛想のよい声色でそう言うと、ゆっくりと扉を閉めようとした。


「待って重い!戻すときだけやたらと重い!」


 セレニアが必死で扉を閉めようとするが、開けるときは推すだけで簡単に開いたはずの扉が、戻すときは何故か重いようで、引っ張ってもなかなか動かない。


「なにやってんのさ! 早く閉めてよ!」


 ニーナが加勢する間にも、スケルトンたちは少しずつこっちへ近づいてくる。

 

「ひぃぃぃ! モニカ!」


「合点承知!」


 私とニーナも、もう片方の扉を二人で戻そうとする。

 しかし、スケルトンたちは既に目と鼻の先まで来ている。


「どうする⁉ 閉まらないぞ!」


「撤退! 撤退!」


 私がそう指示を出すと、四人は一斉に駆けだした。

 さすがにあの数のスケルトンを相手するのは分が悪すぎるし、それによって得られるものもほとんどないだろう。


「どうするのぉ⁉」


 ニーナが全力で駆けながらも、そう叫ぶ。

 スケルトンたちは動きは速くないので、追い付かれる心配はないが、もし追い付かれたら、全滅も免れないほどの数がいた。

 私たちは息を切らしながら走り、先ほどどちらに進むか迷った曲がり道まで戻ってきた。


「どっちに進む? 一度出るか?」


 ダンジョンの奥へ逃げるか、入口に戻るか。

 セレニアは私に判断を問うた。

 でも、私が考えていたのは、少し違うことだった。


「モニカ、やれる⁉」


「もちろん。発射ボタンをどうぞ」


 私は、全力で逃げながらも、モニカが隣で呪文を詠唱していたのを見ていた。

 きっと、ストックが一つあるはずだ。


「発射ボタンどこ?! どこでもいいや、えい!」


 おびただしい数の白骨達が、ガチャガチャとうるさい音を響かせながら、迫っていた。

 その音は一つなら微かな骨のこすれる音でしかないが、相手が百体にも近ければ、ダンジョンの中に轟音として響く。

 

 白骨の群れから、白く無機質な手が伸び、私たちの身体に触れる直前……


 私はモニカのほっぺを人差し指で押した。

 むにゅっ

 無表情なモニカの頬っぺたが凹む。


「発射ぁー」


 モニカが気の抜けた声を出しながら、スケルトンの大群の方へと杖を構えると、ストックしていた魔法を発動した。


「”ブレイズトーレント”!!」


 モニカの杖先から、スケルトンが押し寄せる通路に向けて、勢いよく炎が放たれた。

 私たちのいる方向には熱気だけが流れてきて、その反対側、スケルトンがいる方向は、壁から反対側の壁まで、そして床から天井までをも埋め尽くした炎が、通路のずっと奥まで進んでいった。


「熱っち!! 熱い!!」


 その熱気に三人はモニカの体の後ろに身を隠したが、モニカは赤い炎に照らされて恍惚とした表情で、炎を放ち続けた。

 この炎、どれだけ奥まで届いているのだろうか?

 少なくとも、その勢いの強い炎に流され、こちら側へ抜け出てくるスケルトンは一体もいなかった。


「ふぅ……焼却完了……」


 モニカは熱気で額にかいた汗をぬぐいながら、その杖を降ろした。

 通路の先はところどころが燃えていたが、立ち上がる者は見当たらなかった。


 焦土。

 黒く焦げた通路は、まさにその言葉で表すのにふさわしかった。

 スケルトンたちは、打撃で崩す以上に、その高熱によってバラバラになっており、脆くなった骨は落下した衝撃で粉の様に崩れ落ちたようだった。

 頭蓋を潰すまでもなく、スケルトンたちは復活してこなかった。


「モニカってさ、もしかしたら怒らせたらおっかない?」


 言葉を失っている私たちの代わりに、ニーナが呟く。

 しかし、モニカはというと、何も気にせず喜んでいた。


「見ましたか?リリー、最高の瞬間に適切な魔法を放ちました……私……興奮を抑えきれません!」


「今のはね……ぴったりだった!」


「よし、撫でてください!」


「よかろう!」


 私は犬をなでるようにモニカの髪の毛をぐしゃぐしゃにした。

 髪型が崩されているというのに、なぜかモニカは嬉しそうにしていた。

 出会ったころのモニカからすれば、立派な成長だと思った。

 必死に逃げる間に、どの魔法が有効か考え、詠唱しておいたのだから。

 私たちは黒焦げになったスケルトンの残骸や、所々燃え続ける炎を見ながら、再びスケルトンが大量にいたあの部屋に引き返したのだった。


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