40 ダンジョン:山脈旧文明の遺跡
それからさらにしばらく歩き、山脈のなかの一つの山を少し上がったところに、ダンジョンの入り口があった。
白い柱に囲まれた、山腹に開いた洞窟。古い文明の遺跡のようだった。
「”山脈旧文明の遺跡”、ここで間違いないだろう。準備はいいか?」
遺跡に比べると比較的新しい看板に刻まれた文字を読み、セレニアが真剣に問いかける。
「あたぼうよ」
「どんなキャラだよ……」
自信満々で答えるモニカに、私はツッコミを入れる。
「燃えてきた! はやく、はやくう!」
長らく歩いてきたというのに、ニーナも元気だった。
まだ入り口。これからが長いというのに……
私はもう既に、結構疲れているんだけど。
セレニアに続いて、パーティは遺跡に足を踏み入れる。
じめじめしており、薄暗いが、松明は一定間隔で置かれており、ある程度の先までは見通せるようになっている。
誰が付けたかもわからない松明は、ダンジョンには自然とついているものだが、私たちはいつだって疑問を持たずに進む。
時折、出口に向かって風が吹き、パラパラと小石が天井から崩れ落ちてくる。
遠くから微かに、悲鳴か雄たけびかわからないような声が聞こえた気がした。
やっぱり、ダンジョンは身が引き締まる。
魔物が蠢き、罠が張り巡らされ、一瞬の油断も許されない。
ごくり、と唾をのむ。
突然、何かが飛び出してきてもおかしくない。
「ダンジョン、ダンジョン~♪」
すぐ目の前で、気の抜けた声でニーナが歌う。
「ごめん、緊張してたの私だけ?」
「緊張してるの?」
ニーナが不思議そうに振り返った。
いや、あんたダンジョン初めてでしょうが。
ちょっとは緊張しなさいよ。
「べ……別にしてませんけど」
馬鹿らしくなって、私はそう言い返した。
そんな時、前方のセレニアがふと足を止めた。
「しーっ……聞こえるか?」
いや、全然聞こえん。
ブォン!!
突然暗闇から剣が振り下ろされ、セレニアはそれを自分の剣で受け止めた。
ガキィン!
金属同士のぶつかり合う音が、狭い通路の中に反響する。
「スケルトンだ!」
白骨がそのまま動き出したような魔物、スケルトンは、剣を装備して、亡者にも関わらず目の前の敵を排除しようと、カタカタと音を立ててセレニアに襲い掛かる。
セレニアに襲い掛かっているものの後ろにも、二体のスケルトンが続いて近づいて来ていた。
地形は、直線状の通路。
ある意味、セレニアを回り込んで敵が私たち後衛の方に来ないので、ゴブリンと戦って囲まれた時に比べれば、よっぽど戦いやすいともいえる。
セレニアは道を塞ぐように立ちはだかり、スケルトンの攻撃を剣で防ぎ、反撃して蹴り飛ばした。
ガシャン!と音を立てて、スケルトンは後ろの一体を巻き込んで吹っ飛ぶ。
「”流星光底”!!」
ニーナはセレニアが蹴りを入れた一体と、それに巻き込まれた一体を見て、セレニアの横をすり抜けて最後の一体へとスキルを発動した。
スケルトンはニーナの素早い動きに防御もできず、腹……肋骨? に一撃を食らい、吹き飛ばされた。
しかし、三体ともすぐに魔法の糸に吊られるかのように元の形に戻り、ゆっくりと再び近づいてくる。
「うわぁぁぁあ! こいつら死なないよ! いや、死んでる? 死んでるから死なないよ!」
「ニーナ、落ち着いて! さっきみたいに無力化した後に、頭を壊して!」
「う、うん……」
ニーナを落ち着かせて、私は指示を出した。
まあ、既に死んでるから死なないよね。でもなんとか死なせないと。
言っててわけわからなくなってきた。
「”ストライクレーザー”」
隣で静かにモニカが呟くと、セレニアの脇を細い光線が一瞬で通り過ぎ、一番右にいたスケルトンの頭を撃ち抜いた。
その光線は頭を貫通して、その先の通路をはるか遠くまで進み、見えなくなるとこまでずっと進んで行った。
スケルトンは頭に小さな穴を開けられ、吊るした糸が切れたようにガシャンと崩れ落ちた。
「ダンジョンはいい……いろいろ試したい魔法があります……!」
「モニカ、ほどほどにね、ほんとに」
しかし、一撃で倒すとは見事。
ただ詠唱が長いから、次の一撃はしばらく先だろう。
それまでの間はニーナと……
「”ストライクレーザー”!!」
バキン!!
今度は一番左のスケルトンの頭が粉々に砕け散った。
私はぎょっとして思わずモニカのほうを見た。
「連射?!」
「”ストック”です。一つまでなら、詠唱した魔法を溜めておける魔法を習得しました。ストックできるのは一つだけですが……これで、最高の瞬間にタイミングを合わせやすくなりましたよ」
「それは……なかなか凄い……」
タイミングを合わせて、詠唱の長い魔法を打てるようになったとは、かなり応用が利くようになったんじゃないか?
でも、言い方を変えれば、戦略魔法レベルのものを二回連続で撃ち出せるということだ
また人間兵器がレベルアップしてしまったみたいで、私は怖いよ……
「ふっ! 負けてられんな! ”スタンブレード”!!」
セレニアがスキルを発動すると、剣が金色に光った。
それに攻撃されたスケルトンは怯み、硬直した。
「ニーナ!」
「了解! 食らえ、”牛頭馬頭”!!!」
ニーナは素早くセレニアの前に躍り出ると、スケルトンの頭に正面から強力なストレートパンチを叩き込んだ。
スケルトンの頭蓋はその場でばらばらに砕け散り、骨は下に崩れ落ちた。
「皆強いね……」
私は全く回復をしないまま、パーティはスケルトンの一団を倒してしまった。
まあ、まだ深く潜ってはいないのでそれほど強い敵ではないが、それでも三人の連携、新スキルは見事なものだった。
村の周りの魔物を狩る内にも、皆かなり成長したようだ。
私のMPが温存できるのなら、回復しないに越したことはない。この先いくらでも危険は待っているのだ。
むしろ序盤に手こずっていたら、すぐに引き返さなくてはならなくなるだろう。
私たちはスケルトンの残骸を踏まないようにしながら、先へ進んだ。