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38 セレニアの趣味

 私が買い物を終え、集合場所の近くで手持ち無沙汰に歩いていると、近くの店を覗き込むセレニアの姿を見つけた。

 どうせ暇だし、皆はまだ戻ってこないから、私はセレニアのところに行ってみることにした。

 近づこうとすると、丁度セレニアは、きょろきょろとあたりを見回してからそそくさと店に入った。


 何だか様子がおかしいな。

 私が店に近づくと、そこは武具屋でもなんでもなく、子供向けの玩具屋だった。


 どうしてこんなところに?

 私は少し面白くなり、ゆっくりとセレニアに続いて店に入った。

 セレニアは熱心に一つの棚を見ていて、こちらに気づいていない。

 ゆっくりと近づくと、その棚には、沢山のぬいぐるみが並んでいた。

 動物や、魔物が元になったものまである。


 セレニアは腕を組みながら、熱心にその前で何か考えては、一つを手に取り、また別のものを手に取り、表や裏を、丁寧に見回している。


「セレニア、何してるの?」


 私は不思議だったので、思わず声をかけた。


「に゛ゃッ?! はっ?! り、リリー!」


 セレニアはぬいぐるみを取り落とし、やたらと大げさに驚いた。


「セレニア、ぬいぐるみを誰かにあげるの? いつも元気だから幼く見えるかもしれないけど、ニーナはもうそんな歳じゃないよ」


 セレニアとニーナは、うまく連携する相棒になってきていた。

 仲がいいから、何かプレゼントしようとでも考えたのだろう。

 そこまで仲がいいとは。私はすこし疎外感さえ感じた。


「はっ……あっ……そ、そうか。て、てっきりニーナなら喜ぶかなぁとな……」


「ちょっと、お客さん」


 すると、店の奥から、店主らしきおじいさんが顔を出して、私たちに声をかけてきた。


「何言っているんだい。見ればわかるだろう? 彼女の目を」


「目? ですか?」


 何のことかわからずに、私は尋ねた。


「ぬいぐるみを見たときの輝いた瞳……あれはこれを愛する者にしかできん目だ」


「なるほど……?」


 ぬいぐるみを愛する者のみができる、輝いた瞳。

 セレニアが? あの、誇り高くたくましい、女騎士が?

 私が驚きながらセレニアを見ると、白い肌は赤く染まり、耳まで真っ赤になっていた。


「わっ……」


 わかりやすい!

 セレニアは滅茶苦茶照れていた。

 こんな可愛いものが好きな趣味があったとは。

 正直、ニーナやモニカがそう言いだしても、私はそんなに意外とは思わなかっただろうが……

 いやいや、セレニアだって女の子なんだから、別におかしなことではない。


「もういいもん! 帰る!!」


「あ、ちょ、セレニアさん?!」


 セレニアは子供の様にそう言うと、ダッ! と店から駆けだしていった

 私は咄嗟になぜか敬語で呼び止めたが、セレニアは止まらずに行ってしまった。


「おやおや、行ってしまいましたか……」


 店主が残念そうにそう言う。


「うわぁ……やってしまった……」


 酒場での失言に次ぎ、セレニアを傷つけてしまった。

 私は、セレニアが取り落としたぬいぐるみを手に取った。

 水色のまん丸の身体の中心に目が付いて、ぴょこんと小さな小動物のような耳だけがついたものだ。


「何? コレ……」


「それはスライムだよ。」


「魔物じゃん……」


 しかし、そいつと目を合わせていると……可哀想になるような、保護したくなるような、何とも言えない気持ちがこみ上げてきた。


「どうするんだい?」


 なぜか、責めるような目で、おじいさんは私を見た。


「わ、わかりました! 買いますって……」


 私はそのスライムを買うと、紙袋に包んでもらい、店を出た。

 店を出ると、セレニアは集合場所から少し離れた、湖のほとりにあるベンチに、膝を抱えて座っていた。


「セレニア~……」


 恐る恐る声をかけると、セレニアは顔を背けた。

 もしかしたら泣いているのだろうか……

 私はセレニアの隣に腰を掛けた。


「なんだ。馬鹿にしに来たのか?……笑いたければ、笑え」


「ごめん……別に、馬鹿にするつもりなんてなかったし。ほら」


 私は紙袋をそっとセレニアの隣に置いた。


「何だ? これは」


「いいから開けてみて」


 私は紙袋をぐぐっと、さらにセレニアの方に押し付けた。

 セレニアは不審そうにしながらも、紙袋を開けた。

 中から、出てきたスライムのぬいぐるみを見て、セレニアは呟いた。


「わぁ……スラたんじゃないか」


「スラたん」


 そんな名前までは、おじいさんは言っていなかったけど?

 まさか、あの一瞬の邂逅で、既に命名を済ませていたのだろうか……?


「そ、そう。スラたん。大事にしてあげてね。紙袋に入れておけば、他の二人にもバレないでしょ」


 私は何となく照れくさくて、湖を見ながらそう言った。

 街の北側には湖があったのか。

 この湖の先の森を越えたら、その先がドワーフの里がある鉱山だ。

 って、謎の現実逃避をしている場合ではない。


 ふと、セレニアのほうを見ると、セレニアは大事そうに紙袋ごとぎゅっとスラたんを抱きしめていた。

 その顔は、愛おしいものを抱きしめてたまらないといった表情だった。

 いや、可愛いのはアンタだよ、全く……私より年上でしょ。


「ありがとう、大事にする!」


 満面の笑みで、セレニアはそう言った。

 とりあえず、機嫌は直してくれたようだ。

 危ない、危ない。


 これからダンジョンに挑むんだ。

 HPだけじゃなくて、心の状態(ステータス)にも、ちゃんと気を配らないとね。

 だって私は、ヒーラーだから。



 セレニアの機嫌を直した後、しばらくすると、ニーナとモニカも広場に集合した。

 一番装備が変わっていたのは、ニーナだった。ニーナは今まで、ほとんど対人戦に特化した装備だったが、魔物への戦いに備えて、グローブも、皮の鎧も新調したようだ。


「格好いいでしょ、リリー! これで最強の上の、最最強になったよ!」


「えらいね~! 最最強のニーナ!」


 ニーナは私たちとそれほど年は変わらないが、何とも幼く見えてしまう。

 私がニーナの頭をなでると、ニーナは不快そうに手を振り払った。


「私を子供扱いしないでよ!」


 別にいいじゃん。

 モニカなんてナデナデされて喜んでたのに。


「それじゃあ、帰ってさっそくダンジョンに挑もうか!」


 私たちは、そうして準備を万全にして、初めてのダンジョンに行くことになったのだった。


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