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37 グリモワール


 私たちはトムと別れると、街へ行って、装備を整えた。

 最近は魔物を倒して稼いだ報酬もあり、それぞれが糸目をつけずに装備を整えた。


 私の杖は、回復力を高めることに特化した代わりに攻撃力がほぼない、ダンジョン産の装備だ。

 これに勝るものを武具屋さんで見つけるのは難しいし、衣服は魔法防御に特化したローブだから、これも変える必要はない。

 行く先の魔物の傾向などがわかっていれば、装備も都度変えていきたいほどだが、情報も無いし、そこまでの余裕があるわけではない。

 となれば……魔法書店でも見に行こうかな。

 街でみんなと解散すると、私は魔法書店を見つけて中に入った。


「いらっしゃい」


 書店の奥で、大人っぽい店主の魔女が落ち着いた声で出迎えた。


「こんにちは~。回復魔法って……あったりします?」


 魔法書店でも、メインとなるのは攻撃魔法や、強化、弱体化の魔法が多い。

 小さい所には、簡易回復のヒーリングの魔法書だけしか置いていないこともよくあった。


「ん~……数は少ないけど……探してみよう。珍しいね。ヒーラーさん?」


 魔女は脚立を杖で呼び寄せて、その上に乗って棚の上を探した。


「ええ。珍しいですか?」


「知らないのかい? 王都では王国軍がヒーラーを好待遇でスカウトしてるんだよ……っとと……なんでも……北の戦況が悪くて、人員の消耗が激しいとか……何とか……あった!」


 魔女は数冊の本をふわふわと、杖で浮かせてカウンターの台の上に置いた。


「そんなに不足しているんですか……見てもいいですか?」


 私は数冊の本の表紙を気にしつつそう聞いた。


「どーぞ……冒険者も、ヒーラーがいるようなのは前線に行きたがるもんだろ? 死の重さを忘れるからね」


「……ヒーラーだけは忘れないようにしないと、と思いますけどね」


 死にかけるたびに、体力を戻され、戦い魔物を倒すと、前衛や近接戦のアタッカーは、死の恐怖を何度も味わううちに、慣れてしまう。

 結果、死を身近ではないものと考えるようになってしまうのだ。

 前衛に、死の恐怖を忘れるなとヒーラーが言ったって、わからないことだろう。

 だからこそ、ヒーラーがその分の緊張感を受け持って、絶対に殺さないように細心の注意を払わないといけない。


「ふふ……そうだね。アンタたちが一番わかっているだろうよ。余計なおせっかいだった」


「いえ……」


 私は数冊のグリモワールを手にとって、何があるか見てみる。

 「ブラインドに対する瞬時状態異常回復の魔法」……使えそうだけど、優先度は低いかな?

 「ダブル、あるいはトリプル・ヒーリング概論」……どっちもマスター済み。

 「ヒーリングマスタリー」……これ以上効果が上がるのかな?効率がよくなるならいいけど、そこまでじゃないかな。

 

 最後の一冊、少し変わった装丁をしている分厚いグリモワールを見て、私は戸惑った。

 何これ? 表紙には変わった図形が書いてあるだけで題名が無い。

 中をペラペラとめくると、単語の意味はわかるけど、文章として意味をなさないことが書き連ねられていた。


「あの……これはなんです?」


「ん~? 見してみ?」


 魔女は目を細めて、それをペラペラとめくった。


「あー……これはアレだわ。売り物にはなんないね……」


「なんなんでしょう?初めて見ました」


「あら、初めてか。これはね、グリモワールの中でも、スペルキータイプって言うんだ」


呪文の鍵(スペル・キー)?」


「そうさ。大体は偉大な、あるいはイカれた魔術師のマスターピースだね。複雑な術式だから、単純に詠唱すると何十時間もかかるものを、こうして魔法文字で刻むんだ。そしてそれらを呼び起こすための鍵となる言葉をいくつか唱えれば、短縮して難しい魔法を発動できるってわけ」


「へぇー……そんな方式、初めて聞いた。でも、それって強力なんじゃないんですか?」


「強力だよ? ただ、条件もある。まずはこのグリモワールを常に持ち歩いていないといけない。ちゃんと手に持って開いて詠唱しないと、魔法文字が反応しないからね」


「う……確かに邪魔にはなりそう」


「魔法一つは強力だけど、一冊につき一魔法だから、必要な魔法の分だけグリモワールを持ち歩かなきゃならない。これは荷物を軽くしたい冒険者には不向きだね」


「確かに……」


「逆に、王国軍の魔法使いなんかは、配置される部署によって決まったものを持たされたりもするから、そっちのほうが見かけることは多いかもね。戦略魔法は複数人で同じ位置を狙うと、何倍も効果的だからね」


「なるほどー……まあ、魔法の内容次第かなぁ。これは何の魔法なんでしょう?」


「んー……これはね……」



 それから少し経った後、私はそのグリモワールを買って、店を出ていた。

 う……好奇心に負けた。

 そういう方式で発動する魔法というのも、一度は使ってみたいと思ってしまった。

 ただ、店主も売れるとは思ってなかったみたいで、意外と安値で譲ってもらった。

 私はおまけで付けてもらったベルトで、腰にグリモワールを固定してぶら下げた。


 ……やっぱりちょっと重い。

 だけどもったいないのでしばらくは装備しておこう。


「あれ、リリー。魔法書店に行ったのですか?」


 私は書店の前で、モニカに会った。

 モニカも書店に入るようだった。


「うん。ちょっとね。モニカも行くの?」


「ええ。ここは品ぞろえがよかったでしょう? 店主とは顔なじみなんです」


「へぇー、不思議な魔女さんだったね」


「ええ、あの人は最強の武器商人ですよ」


「魔法のこと武器って呼ぶのやめて? ほどほどの武器にしておいてね……」


 私はそう念を押すと、モニカと別れた。


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