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36 トムとの再会


 後日、私達はダンジョンを攻略するために、装備を整えることにした。


「さて、じゃあ装備を整えに、ビクスにいくか?」


 セレニアが平然としてそう言った。


「いやいや、普通行かないよね? あんなことした後なのに!」


 セレニアやモニカが指名手配されていてもおかしくない。

 それにジュールの件もあるし、ブレイズ達に私がめちゃくちゃ誤解されている気がしてならない。


「冗談だ。では、南西の街……ミズキへ向かうか。最近の討伐報酬はそこで交換していたしな」


「アンタ真面目キャラなんだからさ……真顔で冗談いわないでよ……」


「フン、この前のお礼だ」


 おっさん発言をいつまで引っ張るんだ。よっぽど傷ついてしまったのだろう。

 私も注意が足りなかったな……

 なんだかんだ言って、私たちは結局魔物の討伐報酬の交換などはセレニアに任せることが多くなっていた。

 セレニアのことは既にすっかり信用しているし、前衛だけあって、地力が強く、単独行動しても不安は少ない。

 結局、私たちは装備を整えるために南西の街、ミズキへと向かった。




 ミズキに到着すると、そこはビクスよりは小規模な街で、街と外の境界線もそこまで厳格ではなく、のどかなところだった。


「ここは少し田舎感がありますねえ」


「モニカ、アンタやたらと田舎に厳しくない?」


「あれ、言ってませんでした? 私、これでも王都出身ですよ?」


 モニカは得意げにそう言った。


「えぇ! そうなの?」


 私には意外だった。国で一番安全な王都出身でも、冒険者になろうなんて思うものだろうか。モニカほどの魔術師なら、王国軍にでも入ったほうがよさそうな気もするが。

 そんなことを思っていると、モニカが突然駆け出して一つの屋台のほうへと一人で行ってしまった。


「ん? どうしたの?」


「さぁ?」


 セレニアもさっぱりという顔をしていたので、近づいてみると、何とそこにはトムがいた。

 トムはモニカの過去の冒険仲間だ。そして、かなり腕の立つ薬師でもある。


「トムじゃありませんか! 北へ向かったんじゃなかったんですか?!」


「うわぁモニカ?! びっくりしたぁ!」


 トムは驚いて、持っていた薬瓶を取り落としそうになっていた。


「元気にしてましたか? 北へ向かうのは諦めたんですか? ご飯食べてますか? 食べてそうですね、前より肌つやがいいですよ。ナザールはどうしたんですか? 喧嘩していないですか? はっ……もしかして……北で命を落として……」


 勝手に頭を抱えて震え出したモニカを、私はトムから引っ張り剥がした。


「ちょいちょい、やめてあげな、モニカ。トム困ってるから……」


「リリーさんまで! お久しぶりです」


 トムはにっこりと笑った。


「久しぶり。着々と夢に近づいているみたいだね!」


「ええ。実は、そろそろ王都に拠点を移そうと思っています」


「えっ? 早くない?! 壮大な夢感出てたのに、もう叶えちゃうの?」


「自分でもびっくりです。元々ため込んではいたのですが……お得意様の勇者様が、金払いがよくて……在庫を用意したらほとんど買って行ってしまうんです」


「あぁ……勇者は無駄遣いさえしなければ、本来一杯お金持ってるからね……」


「はい出ました、利権ビジネスと癒着。トム、見損ないましたよ」


 かつての仲間に突然辛辣になるモニカ。

 お前は勇者に親でも殺されたのか。

 私は勇者に追い出されたけど。


「いやいや、真っ当な取引関係だよ?! すごくいい人だよ。一人で頑張っているから、回復薬が必要なんだ」


「一人で?! 勇者が? そんなの聞いたことが無いよ……」


「あ! そうそう、その人がリリーさんってヒーラーさんを探していたんだ。アイナっていう人なんだけど、知ってる?」


「アイナ……? はて……」


 私は記憶を辿ってみたが、そんな人は思い浮かばなかった。

 名前からして、女の子だろうか。

 女の子の勇者に会ってたら、絶対覚えているはずなんだけどな……


「やっぱり人違いなのかな。リリーって名前、めちゃくちゃめずらしいってわけでもないですからね」


「そう……そうねえ。同じ名前の人くらいだったら会ったことあるし……ヒーラーではなかったけど」


「そっか、じゃあ忘れてください。でも、いい人ですよ。いつか会ったらよろしく言っておいてください」


「うん。覚えとく」


 気が付いたら、私は後ろからモニカに強く抱きしめられていた。


「ん?」


 そしてモニカは蛇のように強く、両腕で私の身体を締め付けてくる。


「うぐぐぐぐ……痛い痛い! 何! もう!」


「ひと~の~! 元仲間に! 色目つかいやがってぇ~……元、仲間の私より話し込むってなんなんですかー!」


 低い声でモニカは不満を訴える。


「わかったわかった、悪かったから!」


 私はモニカを振りほどくと、屋台に目をやった。

 ここでトムと会えるなんて最高だ。ダンジョン前の薬品の準備は、全てここで済ましてしまえそうだ。

 私はモニカとトムが話している間、薬品を選んだ。セレニアとニーナも、隣のアクセサリー類を売っている屋台を物色しているようだ。


「ナザールは街にいますが、南へ下るようですよ。僕とナザールはここでお別れです」


「大丈夫でしょうか……あの人。一人でやっていけますかね?」


「うーん……モニカさんよりは意外としっかりしてると思うよ」


「えぇ! 心外!」


 そんな二人の話を聞きながら、私は薬品をいくつか見繕った。

 懐かしいな。あれから少ししか経っていないけど、ナザールとモニカとリザードマンを討伐したのが、遠い昔の様に私は感じていた。


「そうだ! トム、あの時私が報酬にもらった回復薬はある?」


「全く同じものは無いなぁ。僕の調合は基本、その時手に入った原料に合わせてブレンドしているから……」


「そんな! もうちょっとしかないのに! あれが無いと困るのよぉ!」


 私の二日酔い特効薬が! ちびちび飲んでいたのに、もう無くなりそうだ。

 そんな時にトムと出会えたから、絶対買って帰ろうと思っていたのに。


「そんなにお気に入りだったのは嬉しいけれど……そうだ。今度から、欲しい薬に合わせた材料を持ってきてくれれば、販売価格から差し引いて販売してあげるよ」


「本当?! あれには何が必要なの?」


「あれにはレイタケというキノコが必要なんだ。北部の山脈地帯の更に先に生えているんだけど、今は入手が難しいんじゃないかな……」


「そんなぁ……」


 北部か。南だったらなんとか足を延ばせるのに、魔王の支配領域にまで取りに行くのは難しい。


「もし僕が王都に移っても、材料持ち込みは歓迎だよ。他にも、面白そうな原料があれば紹介してくれれば買い取るし」


「わかった。きっと手に入れてみせる! でも、トムも原料が仕入れられそうだったら仕入れて、作ったら取り置きしておいてね!」


「う、うん……すごい執念だね……そんなによかったんだ、あの状態異常回復薬」


 当然。あの薬品の有無は、酒場の店員からすれば、死活問題ってものです。


 とはいえ、それに限らず、私はトムから沢山のポーションを仕入れた。

 いざというときのための単純回復ポーションと、状態異常回復魔法で治せないものにも細かく効いてくれる回復薬。特に毒用の物は、効果が細かく分かれているので、何種類も購入した。

 何だかんだ、私はある意味ポーションオタクなのだ。回復魔法でできないことを補ってくれるし、自分ではとてもじゃないけど、色々覚えて調合なんてできやしない。

 いつかまたトムに会う日を楽しみに、私もレイタケを探すとしよう。


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