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35 ダンジョン

 私達は新しいパーティを結成すると、フルール村を拠点としながら、近くの魔物を無理せずに討伐していった。もちろん、私は酒場でもちゃんと働き続けた。

 働いているとは言っても緩いもので、仕事さえこなしていれば冒険者と話し込んでもいいし、セレニア達と今後のことを話し合っていても構わない、気ままなものだった。


「村の周辺は安全が確保されてきたな。周辺の魔物を狩っているだけで、結構な資金も稼げたし、いいことづくめだ」


 セレニアはそう言って、美味しそうに酒をあおった。

 飲み干した後、ぷはーっと満足気に息を吐き出す。


「そうねえ。村の平和が何より一番。しかし、セレニアはおっさんみたいに美味しそうにお酒を飲むね」


「なっ……お、おっさん? 私がおっさん……?」


「あっ……」


 しまった、禁句だったかもしれない。

 セレニアは意外と、自分が女らしくないと思われることを気にしており、女騎士として誇らしく振舞う反面、人から女性として見られなくなる事に怯えていた。


「うぅ……やっぱりそうなんだ。私なんて男たちから魔物の一種にしか見えてないんだ……クラウスだってそう言ってたし」


「いや、違うって、そう言う意味じゃなくて……」


「じゃあどういう意味なんだ?!」


 セレニアは涙目で抗議する。

 自分が人からどう見えているか不安に思っているその姿は、女騎士というより、か弱い乙女にしか見えなかった。


「あー……ほら、今、すごい女性らしい。ほら、涙は女の武器って言うし……ただしヒーラーの大泣きを除く」


「本当か? 本当なんだな?」


「そーそー。自信持ちなって。今、十分可愛いから」


 私はセレニアの座る椅子にもたれながら、無責任なことを言うと、テーブルに置いてあったモニカのお酒を盗み飲んだ。


「あっこら。飲んだ分を計算して、払い戻しなさい」


 モニカが抗議する。


「今度奢るから。今のどが渇いたの、私は」


「ジョッキを爆発させますよ」


「やめてよ……ジョッキどころか村が吹き飛ぶでしょ」


 私は恐る恐るお酒をモニカに返した。


「そういえば聞きました? 北東へしばらくいったところにダンジョンがあるらしいですよ。先日セレニアが他の冒険者から聞いたみたいです」


 モニカは目配せしたが、セレニアはうじうじしながらエイヴェリアのところに行って私の失言を言いつけ、慰められているようだった。


「エイヴェリア~聞いてくれよぉ~……」


 私は哀れなセレニアから目を逸らして、モニカに向き直る。


「……ダンジョンかぁ。放っておくとよくないなぁ」


「ダンジョン? それってなーに?」


 ニーナが質問をした。ニーナは冒険者になりたてなので、冒険者が知っているべきことはほとんど知らない。まあ、私も勇者パーティにいたせいで、意外と知らないことも多いんだけど。


「そう……ニーナは知らないよね。はい、解説担当、どうぞ」


 私はモニカにそう話を振った。


「いいでしょう。私のことは先生とお呼び」


 モニカが勿体つけてそう言った。


「はーい、先生」


 私とニーナは声を揃えてそう返事をした。


「ダンジョンとは、遺跡であり、魔物を生み出す生産施設であり、富の宝庫でもあります。通常地下や複雑な建物に生じ、その発生プロセスは解明されておりません」


「ダンジョンはどうしてできるかわかんないってこと?」


「その通り。そんなダンジョンの最深部にはこの惑星から発生した高濃度の未知なるエネルギーによって変質した、人類には生産不可能なアイテム、遺物などが眠っています。そしてそうした未知なるエネルギーがあふれ出すことで、深部から徐々に魔物が生じると考えられています」


「それじゃあ、その辺をほっつき歩いている魔物は?」


「いい質問ですね! 彼らも基本的には、大なり小なりのダンジョンから這い出てきた魔物と考えられています」


「出ました、いい質問」


「やった!満点だ!……それじゃあ、ダンジョンを壊せば魔物は出てこないってこと?」


 いい質問に得点は無いよ、ニーナ。でも二度目のいい質問かも。


「ダンジョンは複雑かつ広大であるがゆえに、ダンジョン自体を破壊するのは現実的ではありません」


「へぇー……がんばれって殴ればなんとか壊せない?」


 脳まで筋肉でできているのかな? この子は。


「ですが、最深部に到達して、エネルギーを媒介する遺物やアイテムなどを入手すれば、魔物の発生を抑えることができるのです」


「へぇー!それなら、ダンジョンを全て攻略すれば、魔物はこの世からいなくなるってこと?」


「いえ、王国の調査によれば……ダンジョンの発見頻度と冒険者の総数、熟練度などから計算しても、地上の魔物に対処しながら全てのダンジョンを攻略することは不可能とされています。しかし、もちろんいずれは王国もそれを果たすつもりです。その為には、まずやるべきことがあります」


「魔王の討伐……」


 私はそう呟いた。何よりも最優先に、王国軍を動かし、勇者を生み出し、王国が目指すのは魔王城の攻略と魔王の討伐だ。


「リリー君の言うとおり。一説によれば、魔王城そのものも、最大級のダンジョンの一つだと言われており、他のダンジョンをいくら潰しても、国内に多くの魔物をばら撒き続けるほどの規模があると言われています」


「ほぇ~……魔王城が、ダンジョン?! なんじゃそりゃ!」


「王国中の魔物を滅ぼすには、まず何より魔王を倒さなければどうしようもないということですね」


「わかりやすっ」


 普段のモニカからは想像もできない説明に私は驚いた。

 私もなんだか、生まれてきた頃から、勇者は魔王を倒すためにいるし、それはいつか果たされると教えられてきたから、そこまで本気で考えたことはなかった。


「実は結構、いろんな所がつながっていて、結局は魔王を倒さないとうまくいかないってわけなんだね」


「なんだ、リリーも知らないんじゃん!」


「そうそう、私も一人娘で、蝶よ花よと育てられたからね」


「そうは見えないけど!」


「なんだと」


 私はニーナに強く抗議した。


「とにかく、魔王を倒すまではいたちごっこですが、冒険者はダンジョンを見つけ次第攻略していく必要があるのです。ちなみに、私はダンジョンが大好きです。いくら壊しても怒られないから」


「生き埋めだけは勘弁だからね」


「術者に危害を及ぼす魔法なんてあるわけがないじゃないですか」


「モニカは戦うたびに記憶がリセットされるのかな?」


 私の記憶では、モニカは幾度も術者や仲間を危険に晒す魔法を放っている気がする。


「まあ連携のお勉強も終わったことだし、ダンジョンにでも潜ってみる?」


「おお、リリーはダンジョンに行ったことがあるのか?」


 エイヴェリアに慰められて、元気になって戻ってきたセレニアが意外そうに尋ねた。


「もちろん、私たちだって見つけ次第攻略してきたよ。だって、そこで手に入るアイテムは強くなるのに必須だからね。私の杖だって、ダンジョンに眠っていたものだよ」


「そうなのか……?王国軍では、ダンジョンを攻略することはほとんどないぞ。基本的には、軍隊は数と戦略の戦いだからな。ダンジョンは少数精鋭のほうがいいと聞く」


「そうそう。そう言う意味で、勇者パーティは小回りが利くのよね。王国からすれば、ある程度自由を与えた特殊部隊って感じじゃないのかな」


「とくしゅぶたい!!」


 ニーナは目を輝かせた。


「いや、私たちは勇者パーティじゃないから……」


「一刻も早くダンジョンに潜ろう! 私も特殊部隊になりたい!」


「だからそれは……」


 そこで私は、遠くのカウンターでエイヴェリアが少し困ったようにこっちに目配せしているのに気づいた。

 やばい! ちょっとさぼっているうちにお客が満員になっている!


「ごめん、仕事に戻る!」


「勝手にサボっていただけだろ……私たちが引き留めたかのように言うな……いじわるヒーラーめ……」


 セレニアは私の失言にまだご立腹のようだ。

 私は聞こえない振りをして、酒場の仕事に戻ったのだった。


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