33 勇者のその後 憎しみの応酬
王国軍の詰所である程度回復した後、ビクスの街の宿へ戻った勇者ブレイズだったが、彼の仲間は暖かくは迎えてはくれなかった。ジュール以外の仲間がブレイズの元に集まり、現状を相談する。
「ブレイズ……ようやく戻ったか。まずいことになったぞ」
ロイヤーはブレイズに伝えた。
「どのまずいことだ?ロイヤー。俺には問題が山積みすぎて、どれのことだかわからない」
「まず、お前が広場でやられたということは街中に広がっている。評判はガタガタだ。今や街を歩くだけで、後ろ指を指されるぞ」
「なんだと……ふざけやがって!あの女ども……」
声を震わせてブレイズは怒った。
「それと、ジュールは裏通りで女に襲われた」
「女だぁ? 何、女に負けてんだよ」
ブレイズは、更なる悪い知らせに腹を立ててそう言った。
「アンタもでしょ。笑える」
ダリアが小馬鹿にしたようにそう言ったが、ブレイズは悔しそうに睨んで、それ以上は何も言わなかった。
「……ジュールはリリーを街で見つけて、声をかけた後に襲われたらしい」
「はぁ? リリーがこの街にいたのか?」
「どうやらな。まあ、一つ前の村で別れたんだ。ここにいること自体はおかしくはない」
ロイヤーが肩をすくめてそう言った。
「俺を襲った女二人組も、リリーの名前を出していた」
「そうなのか? じゃあ……ブレイズとジュール、二人が同時にリリーと関係する奴らに攻撃されたってことかよ」
「リリー……あいつ! あの女! 今まで面倒見てやったのに! 追い出した復讐のつもりか? 舐めやがって……」
「そりゃあんな追い出し方をすれば、恨みは持っているだろうよ。しかし、面倒なことになった。俺たちはただでさえ北の魔物に手を焼いているんだぞ……」
「北の魔物か、リリーの一味、どっちを先にやるかだ……だが、舐められたままじゃ気分が収まらねえ」
「世界の状況を見れば、北へ進むべきだと思うがな。まあ、ジュールは部屋で休ませている。お前も少し休め」
ロイヤーはブレイズにそう言った。
「絶対に許さねえぞ。リリー……」
復讐に燃えるブレイズに、ルリナは怯えていた。
「私も……いつかリリーさんに……」
リリーの居場所を奪ったルリナを、リリーは恨んでいるだろう。
ダリアとは面識がないから、ダリアは恨まれてはいないだろうが。
想像して怯えているルリナの肩を、ダリアは励ますように叩いた。
「ま、頑張って。私は抜けることにするわ」
「は、はぁ?」
ダリアの発言に、その場の全員が驚愕した。
「お前……どういうことだよ、ようやく連携もできるようになってきたっていうのに……」
「連携? 私はアンタが連携してるのなんて、まるで見たこと無いけど。私は名誉ある勇者の仲間になれると思って入ったのに、今や街でアンタの仲間だって名乗ったら馬鹿にされるわよ。わかる? もうアンタの仲間であるメリットがないの。他の冒険者と組んでたほうが、よっぽど稼げるしストレスもたまんないわ」
「ヒーラーがいなくなったら困るだろ! わがまま言うんじゃねぇよ!」
当たり散らすブレイズを、小馬鹿にしながらダリアは続けた。
「困るわよねぇ。そう、ヒーラーっていうのは引く手数多なの。仲間が死んだら真っ先に責任を問われる難しいご商売だから、絶対数が少ないわけ。せいぜい、次に入る子は、繋ぎ止める努力をすべきね。それじゃ、さようなら」
ダリアは言いたいことを全て言い終えると、すっきりとした表情で、手荷物をもってその場を去った。
「はぁ……どうする?」
ロイヤーはブレイズにそう問いかける。
ブレイズは怒りを身体にため込んで、震えている。
「あの、私も……」
ルリナが何かを言いかけたとき、ブレイズは抑えきれなくなったのか、叫んだ。
「ふざけやがって! ヒーラーっていうのは全員、周りのことを考えられない、馬鹿ばっかりじゃねえか!」
「ひぃ……」
ルリナは何も言えなくなり、口をふさいだ。
「もういい、ブレイズ。休め。俺たちでヒーラーを探しておくから……行くぞ、ルリナ」
「はい……」
ルリナはロイヤーに連れられ、部屋を出た。
廊下を歩きながら、ルリナはロイヤーに本心を吐露した。
「ロイヤーさん、私も辞めたいです……」
「言えるもんならブレイズに言えばいいさ。自分の問題だろ……」
ルリナはブレイズが怖くて言い出せず、そのままパーティに残るしか無かったのだった。