32 近接同士の連携
グオォォ……
だらんと身体から一瞬で力を失い、倒れこんだリザードマンを見て、私は驚いた。
周りに被害が出ない魔法を……あのモニカが使った……?
「でかしたぞ、モニカ!」
敵が一体減って、動きやすくなったセレニアは目の前の一体に集中。
全くと言っていいほど、ダメージを受けずに避け続けることができている。
「すごいじゃん、モニカ!」
私は感動してそう言った。
「へ?何がですか?」
次の呪文を詠唱しようとしていたモニカは、私にさっぱりわからないという顔を浮かべた。
「いや、威力を控えた魔法を使ってくれたんだって思って……」
「威力を押さえた……ですって? 何を言っているんですか……! 心外です!」
「えぇ……」
モニカの静かな怒りを感じ、私はたじろいだ。
「ストライクレーザーは、超高出力のレーザーを一点集中に放つ、強力な魔法なんです。見た目の派手さが重要なのではありません……叩きだす威力こそが重要。このレーザーが当たった場所へ対象へ生み出すダメージは、メテオラに匹敵します」
「なるほど……だったら前回も、私はストライクレーザーを使ってほしかったかな……」
その方が明らかに周りの被害が少ないでしょ。
使えるならあの時から使っていてよね……
「それに、ストライクレーザーは貫通力が物凄いので、都市などで放つと、いくつもの建物を一瞬で倒壊させる可能性があります」
「前言撤回……それを使うときは、絶対、敵の向こう側を確認してから撃ってね……」
そんなこんな話しているうちに、ニーナは一対一で、リザードマンをかなり押していた。
しかし、リザードマンもやられてばかりではない。スキルの連撃がくる。
リザードマンは姿勢を低くし、ニーナへと斬りかかった。
以前、リザードマンと戦った時に組んだ、モニカの仲間だったナザールは、リザードマンの一撃で瀕死になった。
しかし、ニーナのHPはそれよりもかなり高い。
それなら……
「”テンポラリシールド”!!」
即席のバリアをニーナに張る。
「おぉ?!」
ニーナは、自分の体を金色の粒子が包んだことに驚いた。
そして、リザードマンの一撃に何とか反応したが、少しかすった。
粒子は飛び散り、消え去った。
リザードマンの一撃目はテンポラリシールドのバリア分を消し飛ばし、ニーナのHPを若干削った。
「”ダブルヒーリング”!!」
もし、ニーナが二撃目を食らうようなら、中程度の回復が丁度いい。
私は先読みしてダブルヒーリングを詠唱した。
「よっと!」
しかし、なんとニーナは二撃目を回避してみせた。
リザードマンのスキルは、並の冒険者では見極められないほど速く、高めのHPと防御で乗り切るのが定石だ。
ニーナが避けたのは予想外。
MPは少し無駄になったが、予想できるはずもないので良しとしよう。
リザードマンの攻撃を避け、スキル後の隙に、ニーナは迷わず攻勢に出た。
「いまだ! ”破天荒解”!!!」
ニーナは姿勢を低くした。
そしてアッパーでリザードマンの顔を下から殴りつけると、すぐに跳躍し、空中で身体を回し、踵落としでリザードマンの頭を地面に叩きつけた。
ドゴン!
硬いものが地面に叩きつけられる音が響く。
リザードマンはそのまま動かなくなった。
「いっちょあがり!」
ニーナは綺麗に拳法の構えをしてみせた。
「すごーい!」
私は素直にそう褒めた。
回復ありとはいえ、初陣でリザードマンを倒すなんて、普通だったらありえない。
しかし、私が見たいのはこれからだった。
ニーナの役割はアタッカー。
敵と直接対峙することではなく、前衛が敵を引き付けているところに、攻撃するのが役目だ。
周りに気を遣わずにただ正面の敵と戦うのとは、勝手が違うはずだ。
「ふん……さて、次は?」
「ニーナ、セレニアのサポートにまわって!」
「合点承知!」
ニーナはセレニアの近くへと近づいたが、セレニアとリザードマンの応酬を見ながら、入っていく隙が無く戸惑っているようだった。
「なっ……これは……どうすればいい?」
「さっきみたいにずっと戦わなくていい! 敵に隙があって、セレニアの邪魔にならないタイミングだけ動いて!」
「な、なるほど……」
私の指示にニーナは戸惑いながらも納得すると、セレニアたちの周りを、ステップしながら隙を伺っている。その瞳の鋭さは明らかに、考えながら動いている様子だった。
「なるほどな。それじゃあ、これでどうだ!」
セレニアは、最後の一体にニーナが援護しに来たという状況を理解したのか、敢えて大ぶりな斬撃で、リザードマンを遠ざけた。リザードマンはそれを避けるため、後ろへ飛びのいた。
リザードマンのその隙を狙って、ニーナは背後からスキルを使った。
「”電光影裏”!!!」
身体の勢い全てを乗せた肘うちが、リザードマンの背中に勢いよくぶつかった。
リザードマンは身体を逆側に折り曲げられ、バランスを崩しながら、セレニアの方へ押し戻される。
「”ブーストエッジ”!!!」
セレニアの方に押し戻されたリザードマンの動きに真っ向からぶつかるように、セレニアはスキルで猛スピードで接近し、斬りかかった。
セレニアは一瞬で移動しながら、通り過ぎざまにリザードマンを斬りつける。
ズバン! と斬撃の音が響く。
そして二人が交錯した後、リザードマンの首はぼとりとその場に落ち、そして身体がそれに続いて崩れ落ちた。
「おぉーー……」
相性抜群。
この二人、凄く連携できるんじゃないか?
「やった!見てた?見てた?セレニア!」
「ああ。すごいじゃないか、ニーナ」
「本当?私、凄い?!」
「うん、上出来だよ!」
私もニーナの元へ駆け寄り、勝利を祝った。
とはいえセレニアがリードして、ニーナにスキルを撃たせてあげたというのが実際のところだろう。
それでも、少なくともセレニアのその意図が伝わっている時点で、十分連携できている。
「リリー……」
「何、どうしたのモニカ」
モニカが不満そうに私に擦り寄ってきた。
「私、今ちょっと魔法を使うのを我慢しましたけど?」
さすがにニーナのためと空気を読んだのだろう。
セレニアがリザードマンと一対一になった時点で、モニカが魔法で終わらせるのは簡単だったはずだ。
「はい、はい。よく我慢できました」
私はすごく適当にぐしゃぐしゃとモニカの頭を撫でた。
「いいでしょう。今日のところはなでなでで手を打ちましょう」
「突然幼児化しないで」
私は呆れたが、確かにニーナのことを思って魔法を我慢するなんて、モニカにしては凄いことだった。
結構いいチームになりそうだ。
私たちは結果に満足しながら、リザードマンから装備を達成報告のために剥ぎ取り、村へと戻ったのだった。