31 四人のパーティ
私たちは村に帰り、真っ先にエイヴェリアの酒場へと向かった。
「おかえり、リリーちゃん達。あら?そちらの子は?」
「こんにちは! 私はニーナ! 今日からこの村のチャンピオンだよ!」
ニーナは元気よく挨拶した。
「あら、頼もしいわね、ニーナちゃん。私はエイヴェリア、よろしくね」
エイヴェリアは誰にでもそうするように柔和に挨拶をした。
「ふっふっふ……マスター、とっておきの笑い話を聞かせてやろうか」
セレニアはすぐさま、ドヤ顔でエイヴェリアに武勇伝を話し始めた。
あれ、おかしいな。
この子、この村を出るときは頼れる真面目な女騎士だったはずなのに。
まあいいか、セレニアも、モニカも、私のことを思ってやってくれたんだ。
それは素直に喜ぼう。
「私も久しぶりに飲もうかな。今日はちょっと気分がいいから」
「あら、珍しいわねリリーちゃん。楽しいお酒なら大歓迎よ。私も飲もうかしら」
エイヴェリアも客から勧められれば、お酒を飲むことはあった。
それでも、実際に飲むのところは久しぶりに見た。
「いいぞ~マスター。ゴブリンを屠った報酬が沢山あるからな。マスターの分も奢ってやろう」
「あら、嬉しいわ~」
セレニアの面倒くささは、もう口調も相まってほとんどオッサンだった。
奢られているエイヴェリアもオネエなので、何が何だかわからない。
しばらくみんなでお酒を飲みながら、エイヴェリアの振舞う料理を一緒に食べた。
「それじゃ、ニーナちゃんは住むところがないのねえ。しばらくは、リリーちゃんと一緒に住んだら?」
エイヴェリアはお酒が入ったことで、いつにも増してぽわぽわしている。
「確かにそうだね、私が無理やり連れだしちゃったから、私の部屋に泊まりなよ」
「いいの? 普通に外で寝るつもりだったけど」
「うら若き乙女が一人で野宿しちゃダメでしょ……」
「ところで、私は本当に冒険者なんてできるかな?」
ニーナは元気いっぱいで自信満々なように思えて、ふとしたところで気弱な感じがした。
「大丈夫だよ。でも、連携とかはこれから勉強しないとね。まあ、それはセレニアとモニカも一緒だから」
「心外ですね。私、連携には人一倍自信があります」
「どの口がおっしゃっているの? ゴブリン討伐の時に仲間を全員吹き飛ばしたのはだぁれ?」
「全員吹っ飛んだの? それは楽しそう!」
「聞く分には楽しいけどね……これからはあなたも当事者だから。ニーナ……」
モニカの魔法の被害を受けても、ニーナが全く同じことを言えるか見ものだ。
「それはそうとして、実際連携は実戦で学ぶしかないのですよね?」
珍しくモニカが真面目に聞いてきた。
「そうだね。あらかじめ打合せはした上でも……魔物はこっちの思う通りには動いてくれないからね」
「それじゃあ、四人で何かを倒しに行くのがいいですよね」
「そうね。何を討伐しようか。一体でそれなりの強さのものがいいかな」
「リザードマンがいいのでは? 沼地には、以前のとは違う個体がいるかもしれません」
「あんた、また隕石撃つつもりじゃないでしょうね」
「まさか。今の私なら分かります。リザードマンに刺さる古代魔法はもっと……」
「そのよくわからない古代魔法とやらを前提に考えないでくれないかな……」
そして翌日。
沼地を訪れた私たちは……
囲まれていた。
「いっぱいいるんですけどぉ!!」
リザードマンが三体。
一体見つけたと思ったら、三体はいると思おう、リザードマン。
「ふふふ、隕石が必要でしたら、いつでも」
「何でアンタは楽しそうなの!」
にやりとしているモニカに、私は思わず怒鳴った。
セレニアが二体をうまく引き付けて、それぞれの攻撃をかわしながら注意を引き続ける。
平然とやっているが、すごいことだ。
そしてもう一体を、何とニーナが引き付けていた。
ニーナは斬撃を紙一重で避けながら、リザードマンを殴り、ダメージを与えていく。
なるほど、思った通り強い。
一対一なら、きっと放っておいても勝ってしまうだろう。
しかし、それは本来の戦い方じゃないし、結構なダメージは負ってしまう。
「”ヒーリング”」
かすった程度のダメージでも、あくまでニーナはアタッカーだ。セレニアほどのHPは無いから、減少が早い。私はこまめに回復を唱える。
「おぉ? 怪我と疲れが吹き飛ぶ!」
とん、とん、と地面の上で軽くジャンプすると、更に動きを速くして、ニーナはリザードマンに攻撃を仕掛ける。
「”流星光底”!!!」
ニーナはリザードマンの大ぶりな斬撃を軽くかわすと、流れるようにその腹へと掌底を打ち込んだ。
リザードマンは軽く身体を浮かせ、少しよろめいた。
気絶の状態異常は常に入るわけではないようで、リザードマンは気絶まではしていない。
しかし、よろめいたところに、ニーナは蹴りを打ち込む。
「はっ!やぁっ!」
ニーナは攻撃をかわしながらも、リザードマンの隙の大きい攻撃には、しっかりスキルを入れていく。
多少判断ミスをして攻撃が当たっても、直撃は避けている。
私はそこに軽い回復魔法を入れていけば、問題ない。
「”ヒーリング・オーバータイム”」
セレニアの方には、継続回復を切らさないようにしつつ……
というところで、セレニアは片方の相手をしている時に、もう片方の一撃を死角から貰ってしまった。
「ぐっ……!」
「”ダブルヒーリング”!」
それなりにHPが減ったので、中程度に回復。
それでも、二体を相手にしているにしては、驚くほど被ダメージが少ない。
「詠唱完了”ストライクレーザー”!!!」
突然近くに控えていたモニカが杖をまっすぐに向けると、セレニアと戦っている内の一体へと、直線状の細い光線を猛スピードで放った。
バシュッ!と音を立てて、片方のリザードマンが細い線に頭を撃ち抜かれ、即死した。