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3 他人との話し方は、忘れる

 私はパーティのリーダーらしき二人が、意見を交換しているところへと近づいた。

 その周りでは、それぞれのパーティの仲間たちが、お酒を飲みながら騒ぎ、親睦を深めている。


「大丈夫だって。この村の薬屋はなぜか充実していたから、ポーションの備えは十分だ」


「とはいえ、ポーションを使えば隙ができるだろう?戦力的に、五分五分っていうところだ。安全とは言い難い」


「あ、あの~……」


 私は白熱した議論を続ける二人に、控え目に声をかけた。

 しかし、エイヴェリア以外の人と話すのが何日ぶりか分からないくらいで、滅茶苦茶に緊張して小声になってしまった。

 へえ~、人間って、あんまり人と話してないと、話し方を忘れるんだ。

 蚊の鳴くような小さな声は、酒場の喧騒の中に消え、二人には届かなかったようだ。


「七人もいるんだ。連携さえうまくやれば、何とかできるって!」


「うちのパーティと君のパーティの連携は、今回が初めてだろう?個々のパーティの働きが良くても……」


「あのっ!」


 今回は聞こえるようにと、私は声を張り上げたが、かえって大きすぎる上ずった声が出て、二人は驚いたようにこちらを見た。

 うっ……絶対変な奴だと思われている!

 そして、同時に二人から見られると、自分から話しかけたくせに言葉が詰まる……!


「あ、あの……少し……お話聞いてしまったんですけど……」


「お、おう……どうしたの?お姉さん」


 そう言った黒髪の男の人は、作戦に賛成していた方だ。

 そして、同じように目を丸くしてリリーを見ている青髪の男性は、どちらかというと作戦に慎重なようだった。


「実は、私ヒーラーみたいな事をしていたことがあるというかなんというか、全然お邪魔ならいいんですけど、もしお力になれたらとかおこがましいですよねすみません帰ります」


 はぁ、はぁ……

 息を切らしながら、自分でも何を言っているのかわからないけど、私はとりあえず思ったことを全部口に出してしまった。


「お姉さん、ヒーラーなの?」


「う、うん……昔やってた……っていうか……追い出されたというか……」


 動揺しすぎて言う必要もないことまで、私は言ってしまった。


「解決じゃん!」


 黒髪の男性は、そう言って立ち上がった。


「俺はアラン。四人パーティのリーダー、前衛を務めてるんだ、よろしく」


 アランはそう言うと、私に手を差し出した。

 私は手を取り、握手に応じた。


「俺はエルバート。三人パーティのリーダーだ。同じく前衛」


 二人とも前衛だったけど、私はおかしいとは思わなかった。

 パーティのリーダーは、前衛を務めることが多い。

 一番敵に近く、全体の状況を掴みやすいし、撤退を決めるのも、敵の攻撃を集める自分の体力と相談で決められるからだ。


「本当に、渡りに舟とはこのことだよ!俺たち、前の街からヒーラーを探していたんだけど、見つからないままここまで来てしまったんだ」


「そっかぁ。ヒーラー、少ないですよね」


 実際、今この時代ではヒーラーの絶対数が少ないがゆえに、回復薬に頼るアラン達のようなパーティが多いのだ。


「実は、エルバートと俺のチーム合同で、ミノタウロスを倒すつもりなんだ」


 アランはそう説明した。

 だけど、私は疑問に思った。

 ミノタウロス?

 たかだか、ミノタウロスを?

 七人がかりで?

 ブレイズ達、勇者チームであれば、たったの四人でもすぐ倒せる相手だ。

 それを七人で相手しようというのだから、本当に私なんて無しでも大丈夫かもしれない。

 やっぱり邪魔かも?


 とはいえ、一応見ておこうと思い、私は身に着けている分析スキルを発動した。


 その分析スキル”慧眼”は、ヒーラーにとっては必須と私が考えているもので、仲間の生命力を数値化できるというものだ。

 とはいえ、これを身に着けるのには少し苦労した。

 分析スキルを学べる魔法書を小さなころから何年も探し回ったが全然見つからず、一度村を訪れた行商が取り扱っていたのを見たときには、親に泣きついて無理やり買ってもらったのだ。

 それくらい希少なものらしかった。

 さらに、中に書いてあることは難解で、著者のメイナとかいう回復術師の独自の理論が前提になっていたせいで、解読するのにさらに数年かかった。


 メイナの理論に基づけば、生命力を数値化したものは、ヘルスポイント、略してHPと呼ばれる。

 これは、メイナの理論にすぎないので、他の冒険者に言ったって通じない、独自の基準だ。しかし、私はそのわかりやすく効率的な考え方と呼び方を愛用している。


 それで、アラン、エルバート、その他のメンバーのHPを見てみる。

 なるほど……

 多分大丈夫。

 

 多分大丈夫、というのは、私が居たらの話で、確かにアラン達以外の攻撃手(アタッカー)のHPは、ミノタウロスと戦うのには少し、心許ない。

 その微妙なところを見極めて、回復薬でなんとかなるかを議論しているアランとエルバートに、私はむしろ信頼を持てた。


「是非、参加してくれないかな?成功報酬は、八人山分けで」


 アランは、そう提案してくれた。


「おねがいします!」


 私は即決した。

 リハビリ、というのはおかしいかもしれないが、久しぶりに相手する魔物には、ミノタウロスは丁度いいと思った。


「それじゃあ、決まりだな!明朝に、この酒場の前に集合してくれ。ミノタウロスは村のすぐ近くの森に出るらしい。それもあって、とっとと討伐しないと、この村にも危険が及んじまう」


 ミノタウロスは私たちの二、三倍は大きな、人型で頭が牛の魔物で、巨大な斧を振り回す。

 そんなものが村のすぐ近くまで来ているとは。

 私は、この村、マスターのいるこの酒場は、いつまでも安全であってほしいと思っていた。

 だから、必ずミノタウロスを倒そうと、心に決めた。

 マスターと酒場は私が守る!


 私がアラン達と話し終わって、カウンターに戻ると、とてもうれしそうな顔で、マスターは私を迎えた。


「マスター……私、参加することになったよ……!」


 自分でも恥ずかしいことに、親に褒めてもらうために手伝いを報告する子供のように、目を輝かせて私はマスターに伝えた。


「よかったわね、リリーちゃん、本当によかったわ!」


 マスターはそんな私の期待に応えるかのように、涙ぐんで喜んでくれた。


「お仕事が決まったリリーちゃんに、一杯サービスしてあげるわ。何にする?」


 マスターに聞かれて、私は少し迷った。

 けれど、すぐにこう答えた。


「じゃあ、ミルクにしとく。明日、寝過ごしたら大変だからね」


 私は数十日ぶりに、お酒を飲まないことを選択した。

 マスターは嬉しそうに笑うと、私にミルクを一杯渡したのだった。


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