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28 裁き


 一方そのころ、酒場の二階の勇者ブレイズの席の前には、なぜかセレニアとモニカの二人が立っていた。


「ねえねえ、お兄さん、勇者だと聞きましたよ」


「実は私たち、そんな噂を耳にしてな。本当か?」


 セレニアたちに、酔ってだらしなくずるずると下がったまま座ったブレイズは、体勢を整えようともせず、答える。


「ああ。そうだよ。なんだ? 一緒に飲みたいのか? そういう奴が多くて困る」


「リリーって知ってます?」


「なっ? はっ……? あ、いや、アイツは昔の仲間だが……」


「ビンゴ」


 モニカは無表情で勇者を指さし、そう告げた。


「何だ? お前ら。リリーを知っているのか?」


「いや、気にしないでくれ。そんなことより、この街の状況は、あまりよくないみたいだな。どうだ、勇者様の戦績は、最近は芳しくないのか?」


「あ? 何だと、お前……」


 プライドの高いブレイズはすぐに、セレニアの挑発に乗った。


「いやなに、拠点としている村に、結構な強さの魔物まで現れるようになってしまってな。正直困っているんだ……勇者が仕事をサボっているのなら、原因を取り除く手助けをしてやりたくってな」


 セレニアは普段誰にも見せないような雰囲気で、にやりとしながら挑発する。


「何だ? お前。やる気か?」


 ブレイズは側にあった剣に手をかけた。


「いやですねぇ、勇者様。私たちのようなたかが冒険者が、勇者様に喧嘩を売るわけないじゃないですか。だって、私たちに負けるような雑魚(・・)なら、そもそも勇者を名乗れていないはずなので……」


 モニカが更にブレイズを焚きつけた。


「よし、表へ出ろ」


 ブレイズは酒が入っていたこともあり、モニカの一言で、簡単にその怒りが頂点に達した。

 ブレイズは剣を手にして階段を下り、店の出口の方へ向かう。

 セレニアとモニカも、アイコンタクトを取りながらその後をついて行った。


「ちょ、ちょっと! 勇者様? お二人も……早まらないでください!」


 酒場の主人は、カウンターの前を通り過ぎて外へ出ていく三人が、明らかに異様な雰囲気だったのを見て止めようとしたが、モニカに杖を向けられ、動かないよう制止された。


「手出し無用ですよ。外でやってあげるって言っているんですから、むしろ喜んで欲しいくらいです」


 酒場にいた冒険者たちも、先ほどの言い争う声につられたのか、ぞろぞろとモニカ達の後をついて、外に出てきた。


「おいおい……なんだなんだ?」


「決闘か?ありゃ勇者じゃないか……」




 街の中央広場で、勇者ブレイズは剣を出して構えた。


「来いよ。二対一でも構わねえ。女ごときが……身の程を教えてやる」


 周りには人だかりができ、ブレイズとセレニア、モニカの戦いを見守っている。


「モニカ。周りのことは考えろよ」


「ギャラリーが近いですね。今回、リリーの許可は出ていませんが……」


「私が許可する。ぶちかませ」


「りょーかい。まいどあり~」


 セレニアに許可を出され、嬉しそうにモニカは詠唱を開始した。

 しかし、いつもほどは大きく声に出さず、ぶつぶつと何を言っているのかわからない程度に詠唱をしている。

 周りの人間やブレイズは、モニカが既に詠唱を始めていることにすら気づいていない。


「それじゃあいくぞ」


 セレニアは素早く距離を詰めると、ブレイズに斬撃を浴びせた。


 ギン!


 金属同士がぶつかる音と同時に、衝撃波が広がる。

 目にもとまらぬ速さだったが、ブレイズは剣で危なげなくそれを弾いた。

 観衆から、歓声が上がる。


 近い距離で火花を散らして鍔迫り合いしながら、セレニアは言う。


「さすが勇者。無理して手加減はしなくて良さそうだな?」


「やる気はあるのか? 女騎士!」


 ブレイズの言葉に、セレニアはにやりと笑うと、凄まじい連撃を叩き込んだ。

 しかし、ブレイズはそのすべてを剣で防ぎ、反撃した。


「うおおおぉっ!!」


 ブレイズの横なぎをセレニアは剣で防いだが、その勢いを殺しきれず、吹き飛ばされてしまう。


「おっと……!」


 ギャラリーが再び大きな歓声を上げた。

 しかし、セレニアは空中で一回転すると、綺麗に着地して見せた。


 そんな時、野次馬の一人が気づく。


「ん? なんか……薄暗くなってきたな……?」


 そして、ゴロゴロと不穏な音が聞こえる。

 そう、これはまるで……一雨来る前のような、あるいは……


「どうした、女騎士、もう終わりか?」


「ああ、そうだな。そろそろだ」


 立ち上がったセレニアは、ブレイズに指をさしながら、ゆっくりとブレイズから距離を取った。

 ブレイズは、それを不審そうに見つめている。


「何だ?」


 観客も違和感を感じ、ざわざわとし始めた。


「やれ」


 ブレイズに指をさしたまま、セレニアがそう言ったその時、その場の全員が存在を忘れていたモニカが、杖を大きく掲げ、呟いた。



「”ライトニングボルト”」


 ピシャッ!


 バリバリバリ!


 ド ゴ ゴ ゴ ォ ォ ン!!!


 雷が空気を破り千切る音と、周りの大気が一斉にざわめく音が同時に聞こえ、街の喧騒を全て押しつぶすほどの大きさで周囲に響いた。

 その街の住人全員の鼓膜を破りそうなほど、あるいは全員の心臓が一瞬だけ止まるほどの音。


 そしてそれと同時に、全ての物の輪郭を失くす程に、強い眩しい閃光が走る。

 それが天から舞い降りた一筋の雷だと、雷が消えて一拍置いたあとでようやくわかるほどの、凄まじい閃光だった。


「うわぁぁぁ!!」


「ひいいぃぃぃ!!」


「ぎゃぁぁあ!!!」


 そこらじゅうで悲鳴が響く。


 しかし、実際に被害を受けたのは……その雷の直撃を食らったのは、勇者ブレイズ、ただ一人だった。


「お……ま……」


 衣服や装備が黒く焦げ、ボロボロになった勇者ブレイズは、それでもなんとか言葉を口に出そうとしたが、やがて力なく膝から崩れ落ちた。そして地面に倒れ込み、動かなくなった。


「フン……リリーの痛みを思い知ったか」


 セレニアはそう言ったが、誰もそんな言葉を聞いていられないほど慌てふためき、観衆はヒステリックになって逃げまどっていた。


「勇者が! 勇者がやられたぞぉ! 逃げろ!!」


「おい、モニカ……」


 セレニアに突然肩を掴まれ、モニカは身構えた。


「げっ……これは怒られるパターン」


「いいぞ! 周りにも被害は出ていないし、最高の一撃だった!」


「わーお。あなたも意外とアウトローですね、セレニア。それはそうと、あちらを見てください。王国軍が本気で走ってきています」


 モニカが指をさしたほうから、大勢の兵士たちが、必死の形相で走ってきていた。


「や、やばい! 逃げるぞモニカ! 私は顔が割れているかもしれない!」


「あなたの古巣にも落としてあげましょうか? 雷を」


「や、やめるんだ! いつか戻るかもしれないんだから……」


 そんなことを言いながら、セレニアとモニカは全速力で広場から立ち去った。

 幸いにも、逃げ惑う人々によって混乱を極めていた広場から、二人は人混みに紛れて、誰にも見つかることなく逃げられたのだった。


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