27 再会と、出会い
私は、セレニアとモニカの二人を置いて酒場から出ると、手持ち無沙汰に露店街を歩いていた。すると突然、走って来たのか息を切らした男に、後ろから声をかけられた。
「リリー!こんなところで会えるなんて!」
最悪。こっちは全然そんな気持ちじゃないっての。
声で既に察して振り向くと、やはり以前の仲間、魔法弓使いのジュールがそこに立っていた。
私はすぐに辺りを見回し、ブレイズ達が近くにいないか確認した。
この街にいるとさっき酒場で聞いたばかりで、まさか本当にその一人と会ってしまうとは。
「ああ、安心してくれ。ここには俺しかいないぞ」
「そう……で、何?」
私は露骨に嫌な感情を表に出しながら、答える。
「実は……探しに行こうと思っていたところだったんだ。それが偶然にも会えるなんて、奇跡だな」
「最悪の奇跡だね。二度と顔も見たくなかったのに」
「なあ……悪かった。二人で話さないか? アイツらが知らない酒場も知ってる。そこへ行こう」
「やだ。話すことなんて何もありません。さよなら」
私は一刻も早くその場を立ち去りたかった。
ジュールに背を向けた歩き出すが、ジュールも諦めずについてくる。
「頼むよ……実際、お前がいなくなってからかなりやばいんだ。ブレイズも……お前に戻ってきて貰いたいってさ」
「本当に? だったら何で追い出したの? 意味がわからない。ついてこないでってば!」
露店街を抜けて、人気が少なくなった通りに来ても、まだついてくるジュールに私はそう言った。
「頼むよ。話だけでも聞いてくれないか。俺たちのためだけじゃない。この街や……世界のためなんだ」
私は黙ってしまった。本当に私が抜けたことが原因で、ブレイズ達が足踏みしているのかどうかはわからない。でもそうして勇者が先へ進めなくなっていると、この町や、フルール村にも被害が及んでしまう。
私が抜けたせいで、ブレイズ達が魔物たちに負けたら、誰が魔王たちを倒すのだろうか?
私たちのパーティは、勇者の中でもかなり期待されていた方だ。
そんな実力者たちが負けたとあったら、戦況に大きく響くだろう。
私のせいで……?
「そんな言い方ずるいよ……追い出しておいて……」
私の心が少し揺れかけた時、突然、場違いに勇敢な声がその場に響いた。
「待ちな、悪党!このニーナ様のテリトリーでおイタは許さないよ!」
そんなセリフと同時に、軽装の動きやすい服装で、手に頑丈そうなナックルグローブをはめたショートヘアの金髪の少女が飛び出してきた。
「な、何だお前は……」
ジュールは驚きながらも、その少女に警戒する。
「この子、嫌がってるでしょ。ヘンタイめ。私が成敗してくれる!」
私は驚きのあまり何も言えなかった。
ニーナと名乗った少女は、片足を上げ、両手をジュールの方に構えた。
格闘家の冒険者だろうか。
しなやかな身のこなしで構えたところを見ると、拳法使いの実力者のように見えた。
「邪魔をするな。俺はリリーに話があるんだ」
「元カレ君か? これ以上この子に近づくなら、ボコだよ、ボコ!」
「あの、私は……」
私がニーナに話しかけようとしたら、ニーナはそれ以上言わなくていいといった風に、ウインクして見せた。
「大丈夫。全部私にまかせて!」
しかし、ジュールは諦めるつもりはないようだった。
護身用のダガーを抜くと、ニーナの方へ構えた。
「悪いが……千載一遇のチャンスなんだ。ここでリリーを逃がしたら、もう二度と会えるかどうかもわからない。世界のためだ。どいてもらうぞ!」
ジュールは魔法弓使いだが、護身用にダガーのスキルも身に着けている。
決して接近戦で弱いというわけでもないし、何しろ勇者の仲間だ。
生身で戦うなんて、無謀に思えた。
「ねえ、もういいよ……刃物を持っているし……」
「はっ……お生憎。私はこの全身が……武器だよ!」
ニーナは構えの型を変えると、流れるように……それでいて、途中から見えないほど素早く動いた。
「”流星光底”!!!」
突然ニーナが消えたかと思うと、一瞬にしてジュールが振りかぶったダガーの横をすり抜け、ジュールの腹に掌底を打ち込んでいた。
「がっ?!」
ジュールはそのまま空中に軽く浮くと、膝をついて倒れこんだ。
「ほら、立ちな! 勝負はこれからだよ!」
ニーナは掌で弧を描きながら、拳法の美しい構えをしながら、そう挑発した。
「ぐ……くそ……何だこれ……」
しかし、ジュールはそのまま地面に倒れこんで、動かなかった。
私は分析スキル”慧眼”を使った。
ジュールのHPは半分ほどまで減っている。
……半分? 一撃で?
なかなか強い……
しかもジュールは気絶の状態異常に陥っているようだ。
「あれ? もう終わりなの?」
「あの、もういいから、行こう」
私はそう言って、拍子抜けしているニーナを連れると、ジュールを放ってその場を立ち去った。
ただ気絶しているだけだし、大丈夫でしょ。
正直、見ていてちょっとだけ、スカッとしてしまった。