21 新たな仲間
「ハァ……ハァ……終わった……」
とはいえ、かなり消耗したようで、セレニアはその場に立ち尽くしていた。
「大丈夫?セレニア」
「ああ……けが人は大丈夫だろうか。この家の子供が一人、怪我をしていたのだが」
「その子なら治したよ」
「そうか……よかった。この家の近くに召喚されたらしい。他の人々は逃げたから無事だろう」
「よかったぁ……村に被害が及ばなくて」
「私は……もしかして、リリーがいなかったら死んでいたのか……?」
セレニアは、ふと深刻な顔をして、私にそう尋ねた。
「……死んでたよ。確実にね」
分析魔法が使える私だからこそ、はっきりとわかる事実だ。
もっと言えば、勇者のブレイズが、デーモンの強撃を受けても生き残れる前衛だったからこそ、私は以前の戦いから予想して、セレニアにどれくらいHPに影響が出るかも理解できていた。
計算上では、セレニアは援護無しで強撃を受けていたら、死んでいたのは確実だ。
「そうか……私は……もしかしたら、今までも……助けられていたのだな。あいつらに」
「あいつら?」
「部下たちのことだ。今、死にかけて、少しぞっとした。アイツに近いくらいの強敵に、ヒヤッとさせられたことは初めてではなかったと思い出してな……」
「そっか……」
だったら、それに気づけるなら……
この人はブレイズと似ていると思ったけど、少し違うかもしれない。
「なあ、リリー。私と組まないか?」
「組むって……もう、騎士に戻る気はないの?」
「私は未熟だ。とても今のまま、王国に戻ろうという気にはなれない……。でも、君といたら、私はもっと強くなれるかもしれない」
「ううーん……私は……」
少し考えた。
セレニアは村の為に身体を張れる、いい人なのかもしれない。
その正義感は、ブレイズと同じ。
だけど、私は……
「私は……この村が好きだから。ここから離れたくない……」
今は、先のことなんて、目標とか夢なんて、考えたくなかった。
ただ、エイヴェリアや、村の人や、行き交う冒険者たちから話を聞いたりするのが、癒しだったし、楽しかった。
「そうか……では、こういうのはどうだ?たった今起きたことのように、村の危機を守るため、戦うんだ。周辺の魔物とな」
「村を拠点にして、近くの魔物だけを倒すっていうこと?」
「そうだ。既に、私たちが苦戦するレベルの魔物が、外には多くいる。結構危険な状況だぞ。この村を愛しているなら、なおさら戦うべきだ。どうだ?」
「そっか……そこまでひどいんだ」
私はしばし考えた。
ここが既に危険なら、私はここを守るためにできる事はしてあげたい。
いま、ここに必死で駆け付けたように。
ここに駆け付けるまでの間、私は世界を救いたいなんてそんな高尚な考えを持っていなかった。ただ、よく知った村の、よく知った人々が心配で、何も考えずに駆けたのだ。
「でも、いいの?セレニアは旅をしなくて」
「言っただろ。私はお前と組んで、強くなれればいい。それをこの村でやればいいだけの話だろう?」
「そっか。でも、それなら……助かるかも」
私は、ヒーラーだから、誰もいない中で一人で戦うことはできない。
セレニアがここに残って戦ってくれるなら、心強い。
「じゃあ、よろしくな、リリー」
こうして私は村を守るために、セレニアと組むことになったのだった。
昼の酒場……この時間は人も少ない。
私は酒場のカウンターで、早速セレニアと一緒に今後のことを話し合っていた。
二人で村を守る。とはいえ、具体的に何をするのか、相談しなくてはいけない。
そして、そこに何故か、いつもの無表情を少しむっとさせたモニカがいた。
何も言わずにじーっと、セレニアのほうを睨んでいる。
「な、なぁ。この女性は何だ?」
「その子はモニカ。魔法使いだよ。私から看板娘の座を奪おうとしている」
「看板娘のモニカです。ところで、私と最高の瞬間を追い求める約束をしておきながら、何ですか?この女は」
モニカはセレニアを指して、私に尋ねた。
「そんな約束はしていない……というか働いてもいないのに看板娘の座を奪った気になるな」
あれからエイヴェリアに、村を守るためにセレニアと組むという話をしたら、エイヴェリアはすごく喜んでいた。
恩人の喜ぶ笑顔を見られただけでも、そう決めて良かったというものだ。
「失礼な女だな、モニカとやら。私はリリーと既に約束したんだ。邪魔をするなら斬る」
「斬るはやりすぎ」
セレニア、どうでもいい理由で人体を切断するな。
「私のほうが先約でした。そうですよね?リリー」
「そうなのか?リリー。何とか言ってくれ。もし付きまとわれているのなら、代わりに斬ってやるぞ?」
「だから果物感覚で人を斬るんじゃない……モニカも、しばらくこの村にとどまるんでしょう?」
「私はリリーを連れて旅立ちますよ?」
「私は旅立たないよ?話聞いてた?」
「そうだ、リリーはこの村を守るんだぞ」
「待て、待って。ちょっと黙って!じゃあ、もう三人で組めばいいんじゃない?私はこの村を離れるつもりはないけど」
私がそう言うと、二人は不服そうに顔を見合わせたが、やがて飲み込んだようだ。
「仕方がありません……。せいぜい村を壊さないように気を付けます」
「壊したら本当にセレニアに斬らせるよ」
こうして私はものすごく扱いづらい二人と改めて作戦会議を始めることになった。