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私に気づいて

作者: 季山水晶

 変わったSNSサイトがある。サイト名は『私に気付いて』


 目的はもうどこに行ったか分からない相手に自分の存在を気づいてもらうこと。


 投稿名は性か名前のどちらか、もしくは匿名で、投稿者の身元がそれで特定されるものは禁止。


 掲載期間はたった一週間。文字数は百文字以内で後からの追記もできない。


 掲載されたメッセージに対してのコメントは、百文字以内なら誰でも自由に書ける。


 だが、コメントを書いてくれた全てのメッセージに対して返信を送れるのはその中のたった一人に一度だけ。一週間で掲載もすべての返信も完全に消去される。


 また、一度投稿した内容を再度投稿するには一年間待たねばならない。新たな投稿に同一内容が示唆されたら、サイトの主から投稿権を奪われるといった厳しいものだ。


 この広い世界の中、同じ時に同じ場所で知り合うだけでも有り得ない程低い可能性だ。


 サイトの主曰く、「無茶ともいえる厳しい条件下で、対象者と投稿者が望む相手に再び出会う事が出来たなら、その人たちが生きていくうえで絶対に必要な相手なのである」とのことらしい。


 勿論、そんな無茶なサイトなので実際どれだけの人が再会できたのかは誰も知らないが、不思議と人気が高くアクセス数も多かった。


 そのアクセス数の多さが投稿者に期待を持たせてしまうのだろう。


◇ ◇ ◇


 10年以上前の同級生元気にしているだろうか?ふと、頭によぎった。


 高校生の頃の彼女が昨晩の夢に出てきたのだ。


 別に付き合っていたわけではないが、妙に気になる相手だった。


 いつも思い出すのは日本史の授業中。


 日本の歴史の「覚え方語呂」を発表していた時、「秀吉出てきて安土桃山」と言う所を「あそこの部分、『秀吉出てきてこんにちは』って間違いそうになるの」と言いながら本番でも間違ってしまった華乃。声の小さな華乃の間違いに気づいたのは、幸い僕だけだった。


 決して友達が居なかったわけじゃないけど、彼女は良く本を読んでいた。


 僕もこの年になって、ようやく読書家になれたのだよ。


 今となって思う事。もっと色々語り合いたかったな、君は何を読んで何を考えていたのだろう。



 とある会社の同僚から『私に気付いて』サイトの話を聞いた。


 そもそも、そのサイトを彼女が見ているかも判らないし、宝くじで一等を当てるよりも確率が低そうだ。


 でも、偶然や奇跡に身を委ねたくなる時は有るもので、投降してみる事にした。



 メッセージ数には限界がある。それでいて、短い文字数の中に「お互いだけが知っている事」のみを示さなきゃいけない。


 こう綴ってみた。


「秀吉出てきてこんにちは。かのさん、元気ですか?」


 二十文字程度の短い文章。でも、彼女なら意味がわかるはず。


 冷やかし返答の多い中、ついに見つけた。


「おひさしぶり、あの時の日本史の授業中、とても恥ずかしかったよ。かの」


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