each other
この作品は日浦海里様の
『echo heart』 https://ncode.syosetu.com/n3547ic/
『ache to her』https://ncode.syosetu.com/n3992ic/
の二次創作となります。
一目惚れ、だった。
新学年の教室で。
僕には君だけが他の誰とも違って見えた。
君はいつも穏やかで、友達といても優しく笑って頷いてて。誰が相手でも態度を変えたりしなくて。
でもだからって、積極的に話しかける勇気なんて僕にはない。
授業の班とか、ホームルームとか、たまに話せた時は舞い上がるくらい嬉しくて。
話しかけられたりなんかしたら、心臓が飛び出しそうなくらいドキドキして。
話せなくても、教室で姿を見られるだけで幸せで。
だけど他の男子と仲良さそうに話してるのを見ると不安になって。話しかけられそうだったのにできない自分に落ち込んで。
春の温かさと冬の寒さを一日に何度も味わうみたいに、不安定な心はゆらゆら揺れる。
それでもこんな僕が君を気にしてるなんて、身の程知らずにも程があるから。気付かれて避けられないように、ずっと隠してきたけど。
ふと、気付いたんだ。
このまま次の春が来たら。
学年が変わってクラスが変われば。
そんなことすらできなくなるって。
同じクラスでなくなってしまえば、話すことも見ることもできなくなってしまう。
廊下ですれ違っても挨拶するのさえためらうような、そんな関係でしかないのに。
このままじゃ。
このままじゃ。
どうすればいいかなんてわからない。
でも、変わらなきゃ。
どうでもよかった。
学校なんて、普通にしてればなんにもなく終わって。
友達なんて、笑ってすごいねって頷いておけばいいだけで。
毎日毎日代わり映えしない、からっぽな日々。
でも、それでいいの。
変に目立ってあることないこと言われるのも嫌だから。それくらいなら最初からなんにもなくっていい。
だから、君に気付いたときもめんどくさいと思ってた。
同じクラスの男の子。
もしかして、なんだか好かれてるみたい?
話しかけると緊張してて。たまにこっちを見てて。私が見ると慌てて逸して。
私のことなんて、なんにも知らないくせに。
私の態度に浮かれたり沈んだり。そんな様子を心の中で笑って見てた。
気付かれてるなんて気付きもせずに、いつも必死で、向き合うときはいつも嬉しそうで。
私は心の中でそんな君を笑って見てるのに。
なんでそんなにまっすぐ私を見るの?
いい加減気付きなさいよ。
私は君が思ってるような子じゃないんだって。
近付きたい。もっと知りたい。知ってほしい。
そう思って、勇気を振り絞って話しかけるようになって。今までほどは隠さずに、君を見つめるようになって気付いたこと。
友達と話してる時は、楽しそうに笑っているのにどこか寂しそうで。
ひとりの時は、いつの間にか紛れて消えてしまいそうで。
人の輪の中にいても、寂しそうにぽつんとひとりでいるように見えてきて。
ただ見つめて浮かれてた、あの時の自分に見えていた君はどこにもいない。
思っていたより小さく儚く。
思っていたより弱く辛そうで。
眩しいくらいに僕を惹きつけた君の姿はどこにもないのに、あの時よりも強く惹かれる。
ずっとこんな顔をしてた?
どうして誰も気付かない?
苦しそうに見えるのは、僕の気のせい?
君に聞きたいことがたくさんあるんだ。
ねぇ。
僕は君に、何かできる?
揺らしているのは私だった。
細い針の先で留まって、ゆぅらゆぅら揺れる置物みたいな君のことを。
気紛れに指でつついて、揺らしているのは私だったはずなのに。
放課後の教室、偶然ふたりきりになっちゃって。
君はちょっと嬉しそうな顔をしてから、急に真面目な顔して。
心配そうな声で、大丈夫かって聞いてきた。
無理してるように見えるとか、そんなの君の勝手な想像でしかない。
私はいつもの私でいたいの。
私は普通の私でいたいの。
揺らさないで。揺らさないで。揺らさないで。
私は君みたいに素直じゃないの。
私は君みたいに素直になんかなれないの。
中の私に気付かないで。
私のままで、いさせて。
その時の君はいつもと違う君だった。
最初は皆に見せるのと同じ顔をしてたのに。
いつの間にか、不安そうに、寂しそうになって。
ひとりぼっちの顔をしてるのに。
なのに来ないでと拒絶する。
拒絶されたことへの絶望よりも、泣きそうな君が心配で。
それに。
あんなに辛そうだった君のことが、心配なのは本当だけど。
ごめん。
君がいつもと違う顔を見せてくれたことに、ほんの少し喜んでる、僕がいる。
皆がいるところだと、普通に話してくるだけなのに。
偶然ふたりになったり。偶然じゃなくふたりで帰ることになったり。
そんな時は決まって、無遠慮に、中の私に触れてく君。
中の私がどんなに冷たい態度を取ったって、笑っていいよと言うくせに。
外の私が微笑むと、それはやめてとはっきり拒絶する。
ねぇ。
君には、私の何が見えてるの?
取り繕う君よりも、感情のまま爪を立てる君でいい。
そう言ってみたところで、君は納得しないだろうけど。
この学年ももう終わり。
同じクラスになれなくても。僕はもう、君に話しかけに行けるから。
僕だけに見せる君の姿。
僕だけが知ってる君のこと。
他の誰に見せなくてもいい。
僕が全部、受け止めるから。
ふたりでいる時間が増えてきて。
中の私に触れられることに、慣れてしまった私がいる。
変わったのは君?
それとも私なの?
わからない、だけど。
わかることも、ある。
このままクラスが離れても、多分、同じように。
君と私の時間は続いていくから。
中の私に無遠慮に触れてく君を。
私の中にもそっと、閉じ込めて。
お読みいただいてありがとうございます。
この作品は日浦海里様の『echo heart』『ache to her』の二次創作となります。
どことなく仄暗い『ache to her』の私に惹かれて勢いで書いた二次創作作品、あんなに可愛らしかった『echo heart』の僕までこんなことに!!
日浦様、本当にすみません…。寛大な許可をいただきありがとうございます。
可愛らしい頃の僕と闇纏う私にも会いに行ってみてくださいね。下↓からどうぞ。