8.Boys side 厳命と思惑
「セディ、シェリルとのこと噂になってるよ。一応、騎士科の皆には『オーブリーに干渉無用』と厳命しておいたけど」
「助かります。さすが侯爵家ですね」
その言葉に、ルカリオは顔を顰める。
「すみません。言い方が悪かったのは謝ります。それにしても、これぐらいで噂になるとは」
現在学園に在籍する生徒には王家も公爵家もいないため、必然的に侯爵家がトップになる。
また、伯爵家までの高位貴族にはオーブリー家の稼業が多かれ少なかれ伝わっているため、オーブリーの者の動向について邪魔しないことは暗黙の了解になっている。
今回ルカリオは、その侯爵家の者として暗にオーブリーの任務を妨げるなと命令したのだ。
「で、何か見えてきたの?」
「ええ。まだまだ十分ではありませんが、少なくともシェリル本人は他国とは繋がっていなさそうですね。各地を転々としている末の兄や大元の父親が彼女に隠している可能性はありますが」
「ふうん」
今回セドリックはシェリルから情報を引き出すために、常に動向を監視している。
まだシェリル本人に疑惑の確証が無いため、自宅に踏み込むことも令状を取ることも出来ないがその分個人的に距離を詰めて探ろうと、自身の魅力を最大限に使って篭絡させるつもりだ。
しかし、図書館で少し迫っても顔を真っ赤にしながらも一線を越えてこない。
普通の令嬢なら、あれだけ至近距離で笑顔の一つでも向ければ、逆にこちらを誘惑しようと様々なアピールや誘いをかけてくるはずなのだ。そうなれば、もうこちらの思うつぼ。
好きなだけ情報を引き出すことが出来るはずなのに。
単に初心なだけなのか、父親から誘惑に負けない教育でも受けているのか、簡単には思い通りにならないシェリルに本来なら苛立ちを覚えても良いはずなのだが。
不思議と、任務度外視で個人的に興味を惹かれる気がしていた。
感情を殺す教育を受け続けてきたセドリックには、いまのこの心の在り様がいまいち理解できないでいたが、悪い気はしなかった。
「そうそう、野戦訓練用の携帯食の実現は見送られたそうですよ」
「えっ、あれ本気だったんだ」
「ね、びっくりしたでしょう?」
「真面目……だな」
「ええ、バカがつくほどに」
セドリックはシェリルを思い出して「ふふふっ」と偽りでない笑顔を見せた
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