51.エピローグ
澄み渡る青空、雲一つない快晴の日に、王都の教会で私とルカリオは結婚式を挙げた。
私の両親と兄たち、友人代表のアリア、その隣りに第二騎士団代表としてアルベルト様、そしてルカリオの友人代表兼第一騎士団代表としてセドリックとカルラさんなど近しい人たちに囲まれて、こじんまりとしたでも愛に溢れた結婚式だった。
教会で誓いの言葉を述べた後、表に出て祝福のフラワーシャワーを受ける。
そして最後に、私はブーケトスを行った。
次に結婚が決まっているアリアに届くようにと投げたのだけど、ブーケは空中で風に煽られカルラさんの腕の中に納まった。
それを見てセドリックが笑い、カルラさんはバツが悪そうにしながらブーケをアリアに手渡していた。アリアは基本細かいことは気にしない子なので、とても喜んでいた。
そんな和やかな空気の中、教会の門の傍に一台の豪奢な馬車が停まっていた。
門の陰で家紋は見えないけど、もしかしてと私はそっと隣りのルカリオを見上げた。
ルカリオも気づいていたようで、フッと笑った。
多分、馬車の中は式には来ることが出来なかったルカリオの両親だと思う。いや、そうあって欲しい。
ルカリオは騎士爵を授爵したこと以外、細かいことは何も言わなかったけど、きっと侯爵家の中でも色々あったんだと思う。
特に両親は、兄のスペアとして手放したくなかったんじゃないだろうか。それでなくとも、せめて家格の合う令嬢を娶って欲しかったのではないかと私は思う。
ただ、あのようにしてでもこの場にいてくれているということは、ルカリオをスペアでなく一人の息子として門出を祝いにきてくれたと信じたい。
私は終ぞ会うことが叶わなかった義理の両親に、周りから変に思われない程度にこっそりと頭を下げた。
その夜、私は自分の部屋にウェディングドレスを着て立っていた。
目の前には、騎士の正装姿のセドリック。私たちのちょうど真ん中にルカリオが立っていた。
部屋の明かりを落とし、月明かりのみが差し込む幻想的な夜。
二人目の夫との秘密の結婚式を挙げる。
こんな背徳的な結婚は神様も認めないだろう。だから、見届け人はルカリオのみ。
昼間の神前式とは違い、今は人前式だ。昼間のようにお互いに神へではなく、お互いへの誓いの言葉を述べて夫婦の契りを交わす。
「俺たちの関係を証明する紙も、指輪も、形あるものは何もありませんが、いつでも俺の心はあなたと共に」
「はい。私はいつもセディを信じています」
月明かりに照らされたセドリックは美しい。更にその感慨無量といった笑顔は、私の胸の奥に刻み込まれた。もしかすると、目に見える約束が無いことに一番不安を感じているのはセドリックなのかもしれない。
私は思わずセドリックとルカリオ、二人の手を片方ずつとり自分の胸元に持ってきた。
「これから末永く、よろしくお願い致します」
美しい月夜の静寂の中、歪ながらも幸せな箱庭が完成した。
さて、秘密の結婚式も終えて普通なら厳かな雰囲気が残るはずだが、ここは自宅。更には私たちの寝室でもある。
そうそう長くは緊張感も持たず、すぐに我に返って日常が戻って来る。
今日は昼間の結婚式の後、ずっと食事会もとい宴会のような雰囲気だったから私たちも心地よい疲労があり、あとはお風呂に入って寝るだけだ。自分で言ってて、本当にどうかと思うけど。
三人とも式用の服を脱いで、順にお風呂に入ってまた寝室に戻る。
「今日は初夜になるわけだが」
三人でベッドに並んで座っていると、ルカリオが一石を投じた。
確かに!ここ数日の準備の忙しさにかまけて、私はその問題に蓋をしていた。
「そうですね。でも、いきなり二人を相手になんてシェリルにはキツイでしょう?」
ひぃぃぃぃっ!!私はつい想像して真っ赤になり、ものすごい勢いで頷いた。
「セディはさ、今日騎士団に戻らなくていいの?俺の結婚式に出るって名目で休みを取ったんだろ?」
ルカリオがいい笑顔で告げる。
「ええ、まあ。でも、大事な結婚式だから王族が襲撃でもされない限り呼び出すなと言ってあります」
セドリックも負けじといい笑顔で応戦する。
「それって、俺も呼び出される案件なんだが」
最推し二人の応酬は互角で、なかなか終わりそうになかった。
私はそんな二人と共に居られる今を幸せに思いつつ、これまでに思いを馳せた。
最初は謙虚に遠くから見守るつもりだったのに、今は思いっきり傍で見つめて触れ合って……。最推しの部屋のある屋敷で、最推しと暮らして、最推しの一挙手一投足に感激しながら生きる!最高の推し活過ぎる!!
そしてもし最推しの子を産むことが出来たら……ん?それって最推しの子は最推しになるから、推しが増える!?その子育てって、究極の推し活なのではっ!?
推し活の悟りを開いたような達成感にも似た爽快感と、連日の準備疲れ極めつけは早朝からの着付け疲れ等がとどめとなり、私は深い眠りに落ちていった。
「おや、肝心の方が寝てしまったようですよ」
「ええっ……。まあ、シェリルらしいと言えば、らしいな」
「ふふっ、そうですね」
先ほどの応酬の勢いはどこへやら、二人は慈しむような目で眠るシェリルを見つめる。
「本当に、俺が誰かと暮らす日が来るなんて思いませんでした」
「俺もだ」
「これでも、ルカには感謝しているんですよ」
セドリックはシェリルからルカリオへ視線を移した。
「配偶者としてルカの名前が前面に出ていたら、どんな組織や貴族もおいそれと簡単には手を出さないでしょう。それにまさかもう一人夫がいるなんて、普通は考えつきもしないでしょうから」
敵の多いセドリックにとって、シェリルの安全は絶対。木を隠すなら森の中。愛する人を隠すなら既婚者の中だ。
「それならさ、感謝の印に初夜を譲ったら?」
「それとこれとは別です。では初夜について、今後の話をしましょう。俺としては、その場の雰囲気で早い者勝ちにしたいのですが、ルカはチェス勝負がいいですか?」
セドリックが悪戯っぽく笑う。
「そうだな。呑気にチェスをする時間もゆとりもないし、結局そうなるか」
ファーストキスの時を思い出してルカリオは嘆息した。
「これから時間はありますからね。まあ、俺は負けませんけど」
「おい」
このとき既にぐっすり寝入ってしまった私は、最推し二人のやり取りなんて全く知らなかったけど、とにかく最推しは正義!いつでもどんな時も、最推しのために邁進するのみ!!
これからも、私の最高の推し活ライフは続く。いつか、究極の推し活ライフがくるのは、まだ少し先である。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
無事完結させることが出来てホッとしています。
感想を下さった方、評価して下さった方そしてブックマークして下さった方、皆さま本当にありがとうございます。日々、更新の励みになりました。
特殊な夫婦関係ですが、シェリルはきっと何があっても幸せに生きて行くと思います。
今後もし娘が生まれてその子がいつか結婚する時、最凶のお父さん二人はどうするんでしょうね。今からお婿さんが可哀そうです(笑)
そんな番外編も書いてみたい気もしますが、ひとまずこれにて完結致します。
またいつか、別作品が目に留まりましたらよろしくお願い致します。




