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転生モブ娘(庶民)は大好きな乙女ゲームの世界で、最高の推し活ライフを目指しますっ!  作者: アオイ


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50.アリアとお茶会

 相変わらず恐ろしく仕事の早い最推し二人は、そこから2週間ほどでこの家の部屋に兵舎から荷物を移し住み着いてしまった。

 ルカリオの方は無事に父から婚約の許可を得てはいるけど、結婚前の同棲なんて聞いてない。

 セドリックは何故か最初からこの家の鍵を持っていて、プロポーズの翌日からずっと時間のある時に来ている。オーブリー特有の仕事は不規則だから余計にだ。

 でも、最近気づいたのだけどルカリオが夜勤の時はセドリックがいてくれるし、その逆も然りだ。所属が違う上にお互いに忙しい中、私を気遣ってくれているのかなととても嬉しく思う。

 

 私はふと左手の薬指に嵌まる指輪を見る。

 お互いの両親の許可を取り、婚約の届け出をする書類を記入する婚約式の日、ルカリオが用意してくれたものだ。

 プラチナに小さな濃い紫の宝石を伏せこみにしてある。

 ルカリオはもっと大きな宝石を爪止めにしたものを用意してくれようとしたのだけど、仕事中も気兼ねなく身に着けていたいと言ったら快く贈ってくれた。


「シェリル、幸せそうね」

 アリアが指輪を見つめて言う。

 今日はお店のサンルームでアリアとお茶会だ。

「うん。ありがとう」

「でも、まさか本当にラヴァン様と婚約しちゃうなんてね。しかも、ラヴァン様の髪色の指輪に瞳の色の宝石だなんて、めちゃめちゃ愛されてるじゃない」

「うっ、うん」

 改めて言われると、何だか照れくさい。

「オーブリー様ともいい感じだったけど、まあ二人と結婚する訳にはいかないものね」

 う~ん、その辺りを触れられるとキツい。親友のアリアにも言えないし、うまく誘導されても困るからここらで話題を変えよう。

「そういうアリアも、もうすぐなんでしょ?」

「うん。アルベルト様も、今期こそは騎士爵を授爵出来そうだって」

「そっか、良かったね」

 明るい陽光の指すサンルームで、二人で幸せな笑みを浮かべた……だけで終わらないのがアリアだ。


「で、もちろん結婚式には呼んでくれるんでしょ?」

「もちろんよ」

「あのさ、良かったら商会(うち)で当日のメイクも請け負うわよ。あっ、もちろんお祝いを兼ねて無料でね!」

「あっ、ありがとう」

 商売をうまく織り交ぜてくるのはさすがアリアね。

「最近エデルで流行り出した美容マッサージがあって、今ね、それをうちの商会で取り入れて王国内に広められないか考えてるのよ」

 ん?エデルって確か、ヒロインが行った国よね?美容マッサージって、前世でいうところのエステ的な?まさかヒロインが……?

「ねぇ、シェリル。結婚式の前に、試しに受けてみない?」

「ええっ!?」

「いいじゃない!人生最高の日にさ、最高な姿で臨もうよ!!しかも新郎は美貌のラヴァン様でしょ!」

 そう、そう言われてしまうと受けるしかない。

「あー、ブライダルエステってやつね」

「何それ?」

 つい、前世を思い出して呟いてしまった。

「アリアが言った通りよ。花嫁さんが、結婚式の一週間前くらいに受ける美容マッサージ。前日とかだとさ、マッサージの揉み返しでむくんじゃったり、赤みが残ったらだめだから少し日を開けるのよ」

「ちょっ、それ、マーキス商会でもらっていい!?」

「どうぞどうぞ。でも、アリアの発案ってことにしてね。私の名前は絶対出さないで」

「いいの?」

 万一ヒロインの耳に入って、食品を扱うリント商会なのに不審に思われて探られたら困る。美容関係を一手に担うマーキス商会ならそこまで疑われないだろう。

 私は何度も頷いた。

「ありがとう!大好きよ、シェリル!!」


「それはそうと、ラヴァン家とリント商会の結婚式なのに大々的にはやらないのね」

 アリアが悪気なく不思議そうに言う。

「うん。リント商会って言っても、私は後継じゃないし嫁いでいく身だからね。ラヴァン様も侯爵家としてではなく、騎士としての結婚だし」

「ふうん」

「それに、リント商会がラヴァン侯爵家を後ろ盾にして規模を拡大させようとしているみたいに思われるのも良くないんだって。何かお父さんとかが言ってた」

「そういうものなの?じゃあ、私の時も色々あるのかしら?」

「どうかしらね。でも、アリアはブライダルエステの広告塔にならないといけないんじゃない?」

「確かに!ああ、益々忙しくなるわっ!」

 アリアは目をキラキラさせながら意気込む。本当に、この子も商売が大好きね。


「ねぇ、今そんなに忙しいの?繁忙期?」

「違うわよ。だって言ってる間にきっと結婚することになるじゃない?しっかり体力をつけておかないと。本当、時間がいくらあっても足りないわ」

 アリアは胸元で両こぶしを握って、ガッツポーズをとる。

「なんで体力?」

 結婚生活で、二人分の家事をすることになるからかしら?でもアリアなら、それこそメイドさんを雇いそうなものだけど。

「ちょっと、シェリル!何を言ってるの?シェリルだって他人事じゃないんだよ!!」

「え~?」

「私たちが結婚するのは、騎士様なのよ?」

「うん、そうだね」

「もうっ!シェリルってば、結婚したら一緒にご飯食べて夜はお手て繋いでぐっすりとか思ってない?」

 え?っていうか、それなら今もやってるし、結婚式が終わっても現状何も変わらない気がしてるんだけど、違うの?

「ちょっと、どんだけピュアなの?何か、ラヴァン様が気の毒になって来たんだけど」

 アリアが呆れて天井を見上げる。そんな顔しなくても……。

「結婚したらさ、まあ有体に言うと『子作り』だってするでしょ」

 アリアが少し小声で言う。確かに他に誰もいないサンルームとはいえ昼日中にする話ではない。

「子作り……」

「相手は騎士様なのよ?並大抵の体力じゃないのよ?特に幹部まで上り詰めるような方なんて、きっと体力オバケよ」

 体力オバケ……。そういえば、重い家具も悠々と移動させてたなぁ、中身が入ったままで。

「もう、結婚って現実なのよ!女の子が夢見る物語の結末とは違うんだからねっ」

 物語とは違う、現実……。

 そう、確かに乙女ゲームの世界とはいえ今はこれが私の現実なんだと思ってここまで来たはずなのに、いつの間にか乙ゲー脳になってた気がする。

 今まで最推しは崇め奉るものだと思ってたけど、これからは触れ合える対象。

 毎日顔を合わせて、シナリオも何もない、結末も決まってない、更に最推しの子供も産んじゃうかもしれない!?

 ものすごい可能性に、私の顔は真っ赤になってフリーズした。


「えっ、ちょっとシェリル?大丈夫!?何、もしかして刺激が強すぎた?これくらいで?」

 目の前でアリアが慌てている。

 しかもさ、すっごく今更なんだけどその体力オバケの旦那様、二人いるんだよね……大丈夫かしら、私。


 この後私は詳しい説明はしないまま、カルラさんにまずは手軽に取り組める体力作りについてご教授願うのだった。


お読み頂きありがとうございます。

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