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49.最推しと開かずの間

「お父上と言えば、俺のことは報告しなくていいですからね」

 セドリックの言葉に一瞬驚くが、冷静に考えてみれば婚姻関係を国にすら届けないということはそういうことなんだろう。

「まあ、何となく気づかれてる気もするけどね」

「ふふっ、娘を持つ父親の勘ってやつですかね」

「ああ、本能的な危機感にも似たものだろうな」

 最推し二人は、何だか二人だけで分かりあっているみたいだ。

「それと、ついでにもう一仕事しましょうか。ルカ、家具を動かす体力は残っていますか?」

「ああ。大丈夫だが、今やるのか?」

「?」

 二人は徐に立ち上がった。


「まずは、こちらからですかね。シェリル、少し本棚の本を下ろさせてもらいますね」

 私は最推し二人が何をするつもりなのか全く分からなかったけど、最推しがやるというなら応援するのみだ。

「私も何か手伝いましょうか?」

 ベッドから飛び上がって二人の傍に行く。

「では申し訳ないですが、反対側のクローゼットの中からお洋服や少し重そうなものを抜いておいて頂けますか?全部でなくていいので」

「分かりましたっ!」

 私はすぐさま作業に取り掛かる。

 ここまでくるとあまりの現実味の無さなのか、はたまた最推しに満たされまくったからなのか、身に起きた恐ろしい事件のことなどすっかり忘れていた。

 ケガも無かったし最推し二人からプロポーズされて、いずれ結婚ということの方が私にとっては余程大事件だ。


「よし、いくぞ!」

「はい」

 最推し二人は息を合わせて本棚を少し浮かし、横にずらした。

 さすが現役の騎士、本棚の本を半分ほど残したままでも十分動かせている。

 はぅ~、二人とも上着を脱いで腕を捲って浮かぶ逞しい腕の筋……素敵!

 私は思わず手を止めて萌えに萌えて悶えていたけど、本棚があった場所の壁から現れたのは……扉?

「では、次」

 最推し二人は移動して、今度はクローゼットを動かした。

 するとそちらからも、扉が現れた。

「なんで?」

 私は思わずポカンと扉を見つめた。


「黙っててごめんね、ここ、それぞれ俺たちの部屋なんだ」

「えっ!?」

 そう言えば、鍵の開かない部屋が二つあった。結局そこの鍵を受け取らないままだった気が。

 どうせ部屋は足りていたし、お店が忙しくて後回しになっていた。まさか、そこに繋がってたのっ!?

 って言うか、最推しの部屋って今世見たくても見れなかった。

 侯爵家も伯爵家も縁が無いし、ゲームで公開されていた兵舎内の部屋もヒロインしか入れなかったもの。

 そんな求めてやまない部屋が隣りにあったなんて!?まさに灯台下暗しっ!!

 面倒くさがらずに、さっさと父に鍵について聞けば良かった!


「中の管理はカルラに任せていたので、すぐにでも使える状態ですね」

 セドリックは自室につながる扉を開け中に入る。

「シェリル?もしかして、怒ってる?」

 勝手な後悔とヲタ的歓喜で動かなくなった私を、ルカリオが心配そうに眺める。

「いいえっ!!あの、お部屋見せて頂いてもよろしいですかっ!」

 思わず鼻息荒くお願いしてしまった。もしかしたら眼も血走っているかもしれない。

「どうぞ」

 まずはルカリオが扉を開けて勧めてくれた。


 中に入ると、フローリングに落ち着いた色合いの絨毯が敷かれ、執務机に本棚とルカリオらしい上品な部屋になっていた。

 広さは、気持ち私の部屋より狭いような。それに……あれ?

 まさかと思って、反対側のセドリックの部屋に行きそっと覗き込んだ

 ルカリオと同じくフローリングにこちらは明るめの絨毯、壁紙もルカリオの部屋よりも明るい。同じく執務机に本棚……やっぱり、あれがない。


「あの、お二人ともベッドは?……夜は兵舎に帰っちゃうってことですか?」

 二重生活?やっぱり騎士って忙しいのかな。貴族特有の決まりとかもあるのかしら。

「え?ベッドはあるじゃないですか。さっき一緒に座っていたでしょう?」

「え?」

「ん?」

 セドリックだけでなく、ルカリオまで不思議そうな顔で私を見ている。

 それって、それって……。

 私の意識はそこで完全にブラックアウトした。

 多分今日の事件からずっと恐怖から歓喜までの乱高下が凄すぎて、本当に限界だったんだと思う。



 閉じた瞼に明るい光を感じ、そろそろ起きなければと思う。

 私の顔や髪に、優しく何かが触れている。撫でつけるような、優しいタッチにまた眠りに誘われそうになる。心地良くてずっとこうしていたい気もするけれど、カルラさんがもうすぐやってくるかもしれない。

 私は、うっすらと目を開けた。

「あれ、もう起きちゃったんですか。残念。もう少し、あなたの寝顔を見ていたかったんですけど。ね、シェリル」

 起き抜けのイケボって、超幸せ。まだ夢が続いているのかしら?

「ふふっ、まだ寝ぼけていますか?可愛いですね」

 そう言って、セドリックはチュッと私のおでこにキスをおとした。

「えっ!?」

「おはようございます」

「おっ、おはようございます」

 私のすぐ横に、穏やかな笑みを浮かべたセドリックのご尊顔が!

 はぁぁぁぁっ。起き抜けのイケメン、間近にあることにまだ慣れない私には、逆に心臓に悪い。


 セドリックはベッドに横になり、肘枕をして私を覗き込んでいた。

「そうそう、ルカは既に出勤しましたよ。お店は今日は臨時休業です。昨日あんなことがあったのですから、ゆっくり休んでください」

 顔も声も優しいのに、有無を言わせぬ様に私は頷いた。

 最推しが言うなら言うとおりにするしかない。

 でも、昨日の騒動で崩れた商品棚の整理くらいはしないとな。

「お店が気になりますか?」

 私はこくりと頷いた。

「そう思って、カルラに来てもらっています。俺たちの朝食の準備が終わったら、お店の片付けもお願いしているので大丈夫ですよ」


 噂をすれば、扉がノックされた。

「どうぞ」

「失礼します」

 セドリックが許可を出すと、カルラさんが入って来た。

 私はまだセドリックと一緒にベッドにいるし、何だかものすごく気恥ずかしい。

 いつもと違って、真っすぐにカルラさんを見れない。

「朝食の準備が整いました。本日は二階のダイニングに用意しておりますので、いつでもどうぞ。私はこれから様子を見に店舗フロアに降りますので、何かございましたらお呼び下さい」

 そう言って一礼した後、カルラさんはじっと私を見つめ、その場で騎士の礼を執った。

「シェリル様、これまで素性を隠していたことお詫び申し上げます。セドリック様の許可を得て、これからも変わらずお仕え致しますので、何卒よろしくお願い申し上げます」

「ひゃい、あっ、はい。こちらこそ、よろしくお願い致します」

 思いがけないことに、私は思わず噛んでしまったけど何とか応えた。

 カルラさんはフッと笑顔になって、退室していった。その微笑みは、まさにイケメン女子といった感じで見惚れるほどカッコよかった。


「シェリル?何を見惚れているのです?それに、ふふっ、『ひゃい』って」

 素のセドリックはちょっと意地悪だ。

「やっ、急、だったもので」

 何だか起きてからずっと恥ずかしい思いをしてばっかりだ。

「では、準備をしてダイニングに行きましょうか」

 ちょっと意地悪でも紳士なセドリックは一旦退室して、私に着替えなどの準備の時間を作ってくれた。

 そして二人で朝食を摂る。誰かと一緒にご飯を食べるのは久しぶりで、二人と結婚したらこんな感じなのかな~と、この時は数か月後に思いを馳せていたはずなのに……。


お読み頂きありがとうございます。

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