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45.最推しと事件②

「ねぇ、俺のものに何やってんの?」

 地を這うような声が聞こえたと思ったら、瞬時にいつもの安心できる香りに包まれた。

 一瞬の事過ぎで何が起こったか分からなかったけど、見ると私を脅していた男が床にうつぶせに倒れていた。

 しかも、ルカリオの足がその男の首に乗ってる?更にその手に男が持っていただろう小ぶりのナイフを持ちながら、私をしっかり抱きしめてくれていた。

「シェリル、大丈夫か?怪我は無い?」

 私は一連の恐怖から、壊れた人形のように頷くことしかできなかった。

 男は完全に気を失っているようで、ピクリとも動かない。

 って、死んでないわよね?


 開け放したままの店の扉の外が、にわかに騒がしくなる。

「こっちだ!急げっ!!」

 バタバタと複数名の足音がして、店の前に第一騎士団の騎士たちが到着した。

「ラ、ラヴァン様!?」

 ルカリオは私に向ける視線とは違う、冷ややかな視線を彼らに向けた。

「何があった」

「はっ!王都内で連続強盗犯を見かけたと通報があり、確保に向けて追跡していた次第であります!」

「こいつか」

 ルカリオは憎々し気に男の首を踏みにじる。

「ぐぇっ……」

 あっ、ちょっと声が聞こえたからちゃんと生きてるんだわ。


「まあまあ、その辺で。ご協力感謝します」

 誰も止められない剣呑な空気の中、貼り付けた笑みのセドリックが現れた。

 その姿を認めたルカリオは、少し威圧的なオーラを緩めた。

「まさか、非番のルカがいる場所に飛び込むなんて、運の無い犯人ですね。それによりによってこことは、よほど命が惜しくないようですね」

 セドリックは一見笑顔だが、目が全く笑っていない。

「えっ、殺しちゃ……う、の?」

 何となくセドリックの稼業を知っている私は、その様子を眼前にして動揺する。

 セドリックは一瞬ハッとして、私を安心させるように嘘じゃない笑顔を見せてくれた

「大丈夫。そんなことはしません。驚かせてしまいすみません」

 そして私の方に近寄り、足元の犯人の方へ屈もうとする途中私の耳元で囁いた。

「あなたが危険に晒されて、頭に血が上ってしまいました」

「えっ」

 それは私と傍にいたルカリオにだけ聞こえるような声で、慌ててセドリックを見たけどもう完全に仕事中の騎士の顔だった。


「では、こいつは第一騎士団で預かります」

 セドリックは男を引き起こし、背中にグッと膝を入れた。

「がはっ……」

 男が意識を取り戻し、連行するために立ち上がらせられた。

「さてと、行きましょうか。……世の中には、死んだ方がマシ、ということもあるんですよね」

「ひぃっ」

 セドリックは最後男に何か小声で囁いたようだが、私には聞こえなかった。

 他の騎士が男に縄をかけ連行していく。

 店を出る直前、セドリックはくるりと私たちの方を振り返った。

「ルカ、しっかり取り調べをして後で報告するので、くれぐれもシェリルのこと、よろしくお願いしますね」

「ああ、もちろんだ」

 ルカリオは再度、私を抱きしめる腕に力を込めた。

 あれ?そう言えば私、ずっとルカリオの腕の中に……。こんな時とはいえ、恥ずかしい。

 いつもならこの段階で既に気絶していそうなものだが、今日はこの腕のぬくもりから離れがたい。少しでもルカリオから離れるのが怖かった。

 どうしよう、いつもなら夜この広い家に一人でいても何とも思わなかったのに、今日はそれが耐えられないくらいに怖い。

 思わず、ルカリオの上着をギュッと握った。


「シェリル?」

 ルカリオは私の顔を覗き込む。

 はぁ、至近距離で見ると相変わらず凄まじい美!神様いい仕事するわ……でも、圧倒的な美を前にしてもいつもよりテンションが上がらない私。おかしいわ。

「カルラに来てもらうか?とりあえず、これ以上の厄介事が起こらないように扉を施錠しよう」

 ルカリオがそっと私を離し、扉に向かおうと歩き出す。

「やっ、離れちゃ、やだ」

 私は咄嗟に自分からルカリオに縋りついた。

 まるで駄々っ子のようで、いつもの私なら恥ずか死ぬところだが、今は一瞬たりとも離れたくないくらいに不安だった。

「シェリル……」

 ルカリオは、まるであやす様に私の頭を優しく撫で、私の腰に腕を回して抱きなおし一緒に扉まで歩いてくれた。そして扉を施錠し終わると踵を返し、店舗部分から廊下へ出る奥の扉に向かう。

「えっ、うわっ」

 二階へ上がる階段の前まで来ると、ルカリオは急に私をお姫様抱っこした。

 はっ、恥ずかしい!初めて気絶した時にしてもらったらしいけど、意識がある時はもうどうしていいか分からない。

「ごめんね、この方が上がりやすいし早いから」

 鍛え上げられた逞しい腕や胸に密着し、信じられないほどの至近距離から見つめられて、私は限界寸前だった。

 はあ、お姫様抱っこされている側からのアングルってこんな感じなのね。

 どんな角度から見ても、一切の死角なし!完璧な美貌!!役得、眼福、拝むだけで寿命が延びそうっ。

 色んな賛辞で脳内が埋め尽くされていく。あっという間に二階に着いた。

 そして、私の部屋まで運んでくれるのかと思ったけど、着いたのはバスルームだった。


「思い出すのもむかつくけど、あいつに触れられて気持ち悪いだろ。洗っておいで。俺はこの扉の前でしっかり護衛するから」

 脳内最推しフィーバー出来るほど若干回復しつつあったけど、確かに言われてみればそうだ。

 この後ルカリオが帰ってしまったら、あの犯人に口を塞がれた手の感触などが蘇って再び恐怖心に苛まれるだろう。

 ルカリオの優しい心遣いに、私は素直に従った。


 バスルームに入り、洗面台の鏡で自分の顔を見る。ルカリオがすぐに助けてくれたおかげで、幸い傷一つなくいつも通りに見えた。

 でも、扉の前にルカリオが居てくれるとはいえ、姿は見えないし一人になると途端に不安がむくむくと湧いてくる。

 早くルカリオの元に行きたくて、お湯を張ることをせずにシャワーだけですます。

 犯人と触れてしまった肩や背中など、しっかり洗う。特に塞がれた口は、その感触を二度と思い出したくなくて何回もこすった。けど、そんなすぐには消えない。

 何とか自分の心に折り合いをつけて、扉を開けた。

「大丈夫か?もっとゆっくりしても……っ!?」

 ルカリオの姿を見た途端、居てもたってもいられなくて私から抱き着いてしまった。

 やっぱり、安心する。

 一瞬驚いたルカリオも、優しく抱きしめ返してくれた。

 そして、また私の腰を抱いて部屋に連れて行ってくれた。


お読み頂きありがとうございます。

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