44.最推しと事件①
最推し二人と再会した翌日から、たまにルカリオがお店に来てくれるようになった。
騎士の皆さんが近くの定食屋に行くついでにまた非番の日にと、あまり日を開けずに顔を見せてくれる。
セドリックはなかなかルカリオのようには出来ないらしく、いつも閉店後に裏口からこっそり会いに来てくれていた。
同じ騎士団でも、第一と第二で規則が違うのかしら?
今日もお昼にルカリオが来てくれている。
カルラさんは全ての事情を知っているので、お客様が少ない時間帯は一人で切り盛りしてくれ、私とルカリオをサンルームに行かせてくれた。
一度カルラさんにそれでは申し訳ないと伝えたのだけど、それが一番平穏に過ごせるから是非にと言われ、良く分からないけどお言葉に甘えている。
「本当、このサンルームは、落ち着いていいね」
ルカリオもすっかりこの部屋を気に入ってくれたみたいだ。
この日は昼食はまだというルカリオのために、紅茶とケークサレを用意した。
でも、本格的な昼食となればこんなものでは足りないわよね。
「はい。ここで先パ……る、ルカとお茶をするのが夢でした」
やっぱり愛称呼びは慣れない。
「あっ、もう少し食べ応えのある物をお持ちしますね」
恥ずかしさをごまかしたくて、私は腰を浮かせた。
「待って」
「えっ」
「せっかくだからここにいて。この後は書類仕事だから、ここにあるもので十分なんだ」
立ち上がろうとテーブルについた手にルカリオの手を重ねられ、懇願するような目で見つめられると逆うことなど出来ない。
私は浮かせかけた腰を、椅子に落ち着けた。
「シェリルのお店の商品って、騎士団でも人気なんだよ。俺もセディも君に会うのを我慢して店にも近寄らないようにしていたのに、騎士団の連中が君の作った物を目の前で食べている時、本っ当辛かった」
いつも冷静に見えるルカリオが、そんなことを考えていたなんて驚きだ。
「今はこうして、君と一緒にいながらそれを食べられるなんて、頑張って良かったよ」
にっこりと微笑みを向けられると、単純な私はそれだけで舞い上がってしまう。
きっともう顔が茹でダコのようになっているに違いない。
「実は一度、ヒロインが君の店のシナモンロールを食べているところに出くわしたんだ」
「えっ!?」
「どうやら、第二騎士団の者が知らずに差し入れしたようでね。ヒロインがこの店に来てみたいとか言い出したから、焦って差し入れした奴を含め止めたよ」
「そうだったんですね」
「うん。ヒロインとは関わらせないって約束だったからね」
本当に、私の日常を細かなところまでも守ってくれていたんだとジーンとした。
はぁ、やっぱりルカリオは優しくて最高だわっ!
サンルームに差し込む陽光と相まって、まさに天使に見える!!
シェリルには天使に見えるルカリオだが、シェリルの店の商品をのん気に食べる騎士への稽古での厳しさが増したり、ミゲルへは脅して止めていたり、騎士団では陰で悪魔の異名を取っていた。
しかし、シェリルは一生そんなこと知る由は無い。仮に知ったところで何の支障も無い。
だって、彼女にとって、最推しは何があっても正義なのだから。
そんな風に過ごしていたある日、その日はルカリオが午後から半休を取っていて、私服に着替えたルカリオがずっと私の傍にいてくれた。
いつもの騎士服もカッコイイけど、私服も素敵だわ~。
やっぱりよく着ている服はゲームでの私服と同じなのね。
季節ごとの特別イベントでは行事にあった衣装を着ていたけど、私服でも他のデザインのものも見てみたいわ。何を着ても素敵だし、ああ、夢が膨らむ。
自然に緩む頬を抑えつつ、私はお店の様子を見る。
今日は特に予約分も無く、お客様の数も落ち着いているから早めにお店を閉めてしまおうかなと算段をつける。
カルラさんとも相談し、いつもより早く店じまいを始める。
「何か手伝おうか?」
ルカリオが申し出てくれるけど、特に力仕事も無いし棚卸作業も無いからお礼だけ言って断った。
今日は特に何もなかったから、必要な作業もすぐに終わった。
「では、少し早いですが私はこれで失礼致します」
「はい。ありがとうございました。また、明日よろしくお願いします」
カルラさんはルカリオの方にも向き直り、一礼して退勤していった。
季節がすすみ、まだ夕暮れ時のはずなのに外はもう真っ暗だ。
ルカリオが傍にいてくれるから、カルラさんも今日は表の施錠をせずに帰った。
私は最後に店の玄関の様子を確認しようと表に出た。
そろそろ次のシーズンに向けて、店の飾りつけや色んなディスプレイを変更したいなと、店を外から全体的に眺めてみる。
「うん、じっくり図案を起こしてみるかな」
また一つ楽しみを見つけ、わくわくした気持ちで店に戻ろうとした時だった。
「騒ぐな」
急に、背後から回された手で口を押えられ、耳元に低い知らない男の声がした。
どうしよう。騒ごうにも恐怖で声なんて出ない。
「そのまま、中に入れ」
背中にナイフの鞘だろうか、少し尖った何かを当てられながら歩かされる。
「よし、扉の鍵を閉めろ」
犯人の目的はお金だろうか。このまま中に留まろうとするに犯人の意思に更に恐怖を感じた。
仕方がないから要求に従うことにした。
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