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43.Boys side 闇夜の真実

「やっと、会いに来れましたね」

 シェリルの元を後にして兵舎への帰り道、ルカリオとセドリックは感慨深く話しながら歩いていた。馬車は目立つため、使用していない。

「ああ、長かったな」

「ええ」

「途中、あの女がシェリルの店の袋を持っていた時はさすがに焦った」

 ルカリオは、自分の知らない所でミゲルがヒロインに差し入れをしていた件を思い出して身震いする。

「俺も、後で報告を聞いて驚きました。具体的にどうやって回避したんです?」

 セドリックは所属が違うため、詳細は知らなかった。

「あの女がシェリルの店に行きたいって言ったんだ。でも、あの女は俺が甘い物が苦手だと

知っているはずだから、俺と店を結びつけることはしないだろうと思って。ミゲルの方に手を回した」

「ほう」

「異世界人は王国の保護対象とはいえ、それでも良くは思わない層が貴族には一定数いるからな」

「そうですね。表に出す出さないは別として、貴族には異端を嫌い排他的な考えを持つものも多いですから」

 セドリックは冷え切った眼差しで思い起こす。

「だから貴族の邸宅街がほど近い場所にある店で、万一そんな貴族と鉢合わせた時に、あらゆる権力から守れるか詰問したんだ」

「なるほど。それで、完全に震えあがったんですね」

「ああ。ミゲルの出自は伯爵家だが、三男だからな。家の威光も使えないし。まあ、相手がミゲルで良かったよ。これが団長や副団長だったら難しかったと思う」

「そうですね。最初、あの女の面倒をみていたのは副団長でしたっけ」

 今更だがセドリックまでも、あの女呼ばわりだ。

「ああ。事前にシェリルから、あの女が選択した者が傍に付くと聞いていたから複雑だったよ。まずは俺じゃなくて良かったってところからだったけど」

「確かに、それは俺も完全同意ですね。でも、まさかガイウス殿とは」

「まあ、結果的に一番丸く収まった感じだな。これでガイウス殿の腕が全快すれば、あの女の功績として評価されて貴族からの抵抗も無くなるだろう」

 結局この偶然に見える巡りあわせも、ヒロインが幸せになるための必然なのか、物語の強制力はやはりあるのか二人は分からないまま、それでもさほど巻き込まれずに済んだことにホッと胸を撫でおろしていた。


「あと、さすがカルラだな。よく馴染んでくれた。シェリルが気に入ってくれて良かった」

「ええ、ちょっと気に入りすぎた感じもしますけどね」

「本当、カルラが女性で良かったよ」

「本当に」

 ここに第三者がいれば、二人の目が闇夜に不気味に光ったように見えたことだろう。


「結局、あの男に関しては手筈通りに?」

「ああ、小包にして故郷に送りつけてやったよ。すぐさま実家に帰ったと聞いていたからな」

 件の、あろうことかシェリルをパトロンにしようと近付いた男を襲ったのはこの二人である。

 小包の中身は、男があの夜に失ったもの。そして筆跡を変えて『二度と王都に入るな』というメッセージが添えてあった。

 勝手に知られている所在と実家の住所、その警告を無視すれば、今度男が失うものは何だろうかと脅すには充分であった。

「そうそう、あの男、マーキス商会の長女も候補に入れていたらしいですよ」

「へえ」

「でも、彼女には騎士の恋人がいたので諦めたそうです」

 二人の間に一瞬沈黙が落ちる。

「結局、シェリルの存在を俺たちと隔離したことが仇になったんだな」

「奇しくもそうですね」

「あいつ、目の付け所が良すぎるんだよ。良くも悪くも」

「全くです」

 二人の呆れ声が、闇夜に溶ける。


「まあ、何にせよ、全ての憂いは断ちましたからね」

「いよいよ、だな。俺たちの本懐」

「ええ。と言っても、シェリルがあの様子では今少しの辛抱といったところでしょうか」

「そうだな。初心なところも可愛いけど。近づくだけで気絶されるのは少し困るな」

 ルカリオは困った風というよりは、楽しそうな様子で苦笑する。

「本当、キスなんてしたらどうなるんでしょうね。そうそう、どちらがファーストキスを頂くか事前に決めておきますか?俺としては、恨みっこなしでその場の雰囲気でってことにしたいのですが」

 セドリックは面白がるような、でも挑むような表情を浮かべる。

「それ、完全にセディがうまく運ぼうとしてるよね?ちなみに、事前に決めるなら剣で?」

「いえ、それだとお互い無事には済みそうにないので。そうですね、チェスなどはいかがでしょう?」

 剣の腕は、わずかにルカリオの方が上だ。しかし、もしオーブリー独自の暗器を使われたらルカリオもただでは済まない。王国を守るべき騎士が、私闘で怪我をするなど言語道断だ。

「ねぇ、俺たちチェスの長丁場をやれるほど暇じゃないよな?」

 チェスは見事に実力が拮抗するので、その日の内に勝負がつくとも限らない。

「確かに、そんな時間があればキスの一つくらい奪いに行けますね」

「ほら、奪うつもりじゃないか」

「ええ、やはり珍しく俺も浮かれているようです」


 シェリルが完全に囲われるまで、あと少し。

 それは、闇夜の静寂のみが知る。


お読み頂きありがとうございます。

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