4.本編の最推し
リント商会が急成長を遂げ王都に名を馳せ始めた頃には、いい加減自分の前世の記憶も蘇ってきた。
いまいち自分の前世の名前とか死因は思い出せなかったけど、好きだったものを中心に食べ物やアニメ、ゲームなどを思い出した。
その中にシェリル=リントなんていなかったし、そもそも商人の家に生まれた庶民の主人公ものなんて無かったから、仮にweb小説にありがちな異世界転生であっても知らない物語かモブ中のモブに転生したのだと思っていた。
でも、王立学園に入学したその日に最推し二人の姿を見つけ、ここが『魅惑の騎士と運命の恋』の世界だと知った。
ただし、今はまだゲーム本編開始前。
実際の本編は最推しが卒業し、それぞれの騎士団に入ってからだ。
この学園もよくよく見れば、ゲーム内の期間限定イベント内で背景として映っていた二人の母校だった。
『魅惑の騎士と運命の恋』は最初に攻略したいキャラクターを選択して、あとはシナリオに沿って選択肢を選び、好感度を上げていくスマホゲームだ。
好感度の数字次第で選べるエンディングは変わるが、甘さが変わるくらいでどれもハッピーエンドでバッドエンドはない上、普通にプレイしていれば難なくエンドまでたどり着けるため、気軽に始めるのに良かった。
仕事の疲れをこのゲームで癒していた私は、思いっきりハマって重課金ユーザーになってしまったが。まあ、どのみち当時は独身貴族で恋人もいなかったから……なんて言い訳か。
話がそれたが、一番最初にはまったのがルカリオ=ラヴァン。
彼は侯爵家に生まれはしたが、優秀すぎる兄がいて万一の時のスペアとしての扱いしか受けてこなかった。
スペアだから、兄と完璧に同じようになることを求められる。彼自身の思いや望みは一切顧みられず、人生に対して達観してしまっている。
その反動からか、卒業後は兄が幹部として所属する精鋭部隊で近衛も輩出する第一騎士団ではなく、貴族と平民が混合され実力主義の第二騎士団に所属する。
そして異世界から迷い込んできたヒロインと出会い、初めて兄のスペアではなく自分を自分として接してくれるその存在に心癒されて恋をし結ばれるのだ。
次にはまったのが、ルカリオのシナリオにおいて学生時代からの親友として出てきて気になっていたセドリック=オーブリーだ。
本編のセドリックは、文武両道で何をしても器用にこなせてしまうため人生をつまらないと思っている。卒業後はルカリオとは袂を分かち、第一騎士団に所属する。
実はオーブリー家は王国の諜報稼業を担わされていて、特に高位貴族では暗黙の了解になっている。
その稼業のこともあって他人に心の内を見せず、ある一線以上を踏み込ませない。表面上の笑顔とは裏腹に、ルカリオ以上にお近づきになりにくい人物なのだ。
ヒロインはなかなか大胆な行動力と気概を持つ女性なので、セドリックの思い通りにならないのが彼にとっては心地良かったらしく、目を離せなくなるところから恋心に気づき二人は結ばれていく。
まあ、とにかくまだ本編も始まっていないし、ゲームでは見られなかった貴重な学生時代の最推しを拝める役得を噛みしめながら、モブ人生を謳歌すること。それが今の私の天命!
まずは明後日のために気合を入れてロシェを作る。
最推しのためにスイーツを作って献上出来るなんて、最高の推し活ライフ!
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