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転生モブ娘(庶民)は大好きな乙女ゲームの世界で、最高の推し活ライフを目指しますっ!  作者: アオイ


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30/51

30.欲しかったもの

「今後の話、ですか?」


「ええ。俺たちはもうすぐ卒業します。その後は騎士団に所属して、こうして毎日のように顔を見ることも出来なくなるでしょう」

 セドリックの言葉に、ズキンと胸の奥に何かが刺さった感じがする。

 ここで泣いちゃだめだ。分かっていたことだ。

「そんな顔しないで下さい。あなたの辛そうな顔は、感情に蓋をしたはずの俺の心をも抉ります」

 困り顔のセドリックに、私も苦笑する。


「王立騎士団は、第一も第二もどちらも厳しい。ある程度の後ろ盾のある俺たちでも例外は無く、自由にシェリルに会いに行けるようになるまで何年かかかると思う。出来れば、シェリルの夢を叶えてそこで俺たちのことを信じて待っていてくれないか?」

 真剣なルカリオの瞳から、目を離せなくなる。

 何かこの言葉、聞きようによってはまるで壮大な愛の告白みたい……。


「出来るだけ早く、会いに行けるよう二人とも努力しますので。まあ、俺はルカより早く行けるように更に頑張りますけど」

「おいっ。俺もセディには負けない」

 最推し二人の言葉に、胸に突き刺さった寂しさがじんわり溶けていくような気がした。


「私からのお返事はこれからも変わりません。はい、もちろんです!」

 最推し二人は、ほっとしたような笑顔を浮かべてくれた。


「騎士団ではかなり自由が制限されてしまうけど、毎月必ずシェリル宛に花を贈るよ。最初はシェリルの家に。お店が出来たらそのお店に。俺たちの心が変わっていないことの証だ」

「嬉しいです。でも、どうしてそこまで?私が先輩たちを信じていることは変わらないですよ」

 私の言葉に、最推し二人は顔を見合わせ少し目を伏せた。


「正直、俺たちも怖いんです。物語の強制力がどのように働いて、どこまで影響を受けるのかが。だからシェリルに花を贈り続けるのは、自分自身をきちんと保てているかどうかの確認の意味もあります。卑怯かもしれませんが、俺たちの保険でもあるんです」

「なるほど!保険でも何でも、頼って頂けるのは嬉しいです!!離れていてもお役に立てるなら、私も本望です!」

「全く、君って……」

 ルカリオはそっと私の頭を撫でた。

「んんっ!?」

 セドリックもルカリオに倣って、私の頭を撫でる。

「これくらいのスキンシップなら、気絶せずにいてくれますか?」

 ふふふっと笑われて、本当恥ずかしい。穴があったら入りたい。


「それから、今回の携帯食のお礼とこれからしばらく会えなくなることを踏まえて、卒業までに改めてシェリルに贈り物をしたいんだけど何がいい?」

「えっ?お礼なんて……。既に散々頂いている気がしますが」

 何かいっぱい甘い言葉や素敵な表情にと色んな思い出を頂きすぎて、私はすごく満たされていた。

 今も目の前に高級なスイーツが並んでるし。


「お菓子やお花は、いずれ消えてなくなってしまうでしょう?何か形あるものを、あなたに贈りたいんです。何がいいですか?宝石でも、ドレスでも何でも言って下さい」

 宝石もドレスも私は持っていても使う機会もないし、その分のお金があったら推し活をしたいので今までも興味を持たずにここまで来た。そう、前世からずっと。

 でも、何も言わないのも却って困らせてしまうかもしれない。となると……。

 私は諦めかけていたものを一つ思い出したが、これは言ってみてもいいものだろうか?


「あの、本当に何でもいいんですか?」

「ああ、構わないよ」

「何です?」

 私はドン引きされるかもしれないなぁ~と覚悟を決めて口にした。


「あの、先輩たちが使っている香水が欲しいです」

「香水?」

「はい。出来れば2本ずつ……」

 いや、本当は3本ずつくらい欲しいんだけどね。

 保存用、観賞用、実用品なんてオタク的発想を理解なんてしてもらえないだろうから、どうしても譲れない保存用と実用品に重点を置いた。

 観賞用は仕方ないから実用品と兼ねよう。


「なんで2本?」

「その、気持ち悪いって思われちゃうかもなんですけど許してくださいね?」

 とりあえず胸元で手を組んで、祈るように告げる。

「1本は保存用で、もう1本は日常で使いたいんです。先輩たちの香りがあれば、離れていても傍にいるような気がして心強いというか、寂しさがまぎれるというか……」

 私の言葉に最推し二人が固まった。


 うわぁぁぁぁぁぁぁドン引きですよねっ!匂いで存在を感じるとかキモイですよねっ!

 ああ、もう早く帰りたい。今この時までのことを全て思い出に変えてこの先の人生を生きて行こう。

 とりあえず、帰ったらベッドにくるまって大泣きしよう。それまで涙はこぼさずにこらえるんだっ、私っ!!


「ちょっ、もうっ、こっちは我慢してるんだから、これ以上煽らないでくれるかな!?」

 えっ、怒られた。

「ああ、帰したくない。もう、オーブリーの秘密部屋に入れてしまおうかな……」

 えっ、秘密のお部屋があるんですか?ゲームには出てこなかったから、ちょっと興味ある。


「ふぅ、本当にあなたは意外性の塊ですね。全く飽きないどころかどんどん深みにはまってしまう」

 セドリックが額に手を当てて呟くが、これは褒められているのだろうか?


「俺の香水を贈るから、他の人にはねだっちゃだめだよ。無くなりそうになったらまたすぐ送るからね」

 香水定期便ってことですねっ!それなら使い切ってしまっても大丈夫!

「では、ルカの香水はルームフレグランスとして、俺のは枕にでも吹き付けて下さい。夢でも会いましょう?」

 セドリックが艶っぽい眼差しで私を顎クイして見つめてくる。

 これがっ、噂に聞く顎クイ!しかも最推しにされるなんて!!

 ああダメ。今日もまた失神する。

 私の目の前が暗くなった。

 ねだるなら、香水ではなく気付け薬だったかもしれない。

 ああ、でも、気絶したら自分では使えないから意味が無いか。


 その後、私はいつもの気付け薬で起こしてもらったのはいいけど、目の前のスイーツをあーんしたりされたりで散々甘やかされ、胸キュンどころか尊死レベルの囁きと溢れ出る色気にやられ再び気絶しては気付け薬のお世話になった。


 そして仕事の早い最推し二人は、卒業前に本当に二人の香水を我が家に届けてくれた。

 それはやはりアリアが言っていた通り、市販されていないオーダーメイドだった。

 言ってみて良かった!


お読み頂きありがとうございます。

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