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転生モブ娘(庶民)は大好きな乙女ゲームの世界で、最高の推し活ライフを目指しますっ!  作者: アオイ


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27.最推しの悪戯

「シェリル、ようこそ」

 騎士科の校舎の前まで来ると、ルカリオが迎えてくれた。

「先触れも、馬車の手配も終わってるよ」

「ありがとうございます」

 いつも以上に仕事が早いルカリオと、いつもよりゆっくり歩いてきたセドリックはお互いににっこりと貴族特有の笑みを浮かべていた。


「ルカリオ先輩、私までご一緒させて頂いてありがとうございます」

 呼び出されたとはいえ、馬車に乗せてもらうのでお礼を言った。

 っていうか、ラヴァン家の馬車なんてゲームに出てきたっけ?

 ゲームだとルカリオはほぼ家出同然で第二騎士団に入団していたから、本当にレアだ。

 役得だわ~とヲタ魂が疼く。


 そしてルカリオに導かれるまま校舎を抜けて裏門へ回る。

 そこにはラヴァン家の家紋入りの、豪奢な馬車が待っていた。

 私がよく街中で見る馬車よりも一回り以上大きく何もかもが立派だった。

 つい恐縮して二の足を踏んでしまう私の緊張を解そうとしてか、セドリックが自然に先に乗った。

「どうぞ」

 ルカリオがそっと手を差し出してくれ、私はまるでお姫様にでもなったような感覚でエスコートされる。

 

 中に入ると、先に乗ったセドリックが座っている横にそっと座った。

 すると、私の後から入って来たルカリオが愕然として固まった。

「えっ、何で……」

 私はよく分からずルカリオを見上げ、セドリックはにこにこして見守っている。

「ほら、シェリル。さっき教えたでしょう。まだ足りないようです」

 セドリックに言われて、少し恥ずかしく思いながらも、私は座席を詰める。

 もう隣りに座るセドリックにぴったりと寄り添うような距離だ。

 お互いの体温が肩越しに伝わって、私は顔が真っ赤になるのを感じながら俯いた。


「ちょっ、何でそうなるんだ?」

 明らかに困惑したルカリオの声に、私は顔を上げる。

「えっと、すみません。マナーがなってなくて」

「マナー?」

 ルカリオは私たちの向かいの席に腰を下ろしながら、怪訝な顔をする。

「さっきセドリック先輩が教えて下さって、家格が上の方の馬車に乗せて頂く際は目下の者が進行方向に背を向ける席に座って、謙虚に身を寄せて座るものなのだと」

 私は自分の至らなさを恥ずかしく思いながら話すと、ルカリオは呆れた顔で私とセドリックを見ていた。


「セディ、シェリルをからかうのはやめろ」

「ふふっ、くくっ、あははは」

 触れていた肩が急に揺れだし、セドリックが声をたてて笑い出した。

 きっとセドリックに騙されたんだろうな~と思いつつも、珍しく悪戯が成功した少年のように笑う顔を見ていたら責める気も失せて、ついほほえましい気分になってきた。

「なんでシェリルまで笑ってるんだ?そこは怒っていいところだと思うんだけど」

「すみません、先輩たちの普段あまり見られないお姿を見れて嬉しくて」

 私の言葉にセドリックは笑いを止め、ルカリオの顔から険しさが消えた。

「本当、シェリルは俺たちが大好きですね」

「はい、それはもちろんですっ!!」

 そこは強めに肯定しておいた。この世界の中では、私が一番最推しを愛していると自負している。だって、この世界に生まれる前から、前世から大好きなのだからっ!


「即答……」

 ルカリオは口元に手を当てて、目元を赤く染めた。

「あなたって人は……どこまでも可愛らしい人ですね」

 穏やかな中にもどこか色香を含ませた声音で、セドリックはそっと私の肩を抱き寄せ髪に軽く口付けた。

「おいっ!」

 ルカリオが席を立ち私の肩を掴んで抱き留め、セドリックから引き離した。


 ちょっと待って、セドリックに密着していた時から心臓はこれでもかというほどドキドキしていたし、色気満載イケボからのキ、キス……更にはルカリオのハグぅ~。んんっ、ルカリオの香りが……。

 私は今日も失神した。くっ、まだまだ修行が足りん!


「あ~あ。まずは俺たちの距離にもっと慣れてもらわないといけないですね」

 セドリックの残念そうな声と共に、ルカリオは急に力が抜けたシェリルの身体をしっかり支えた。

「さっ、先日の様に俺の隣りに座らせて下さい」

「はっ?今日はこのまま俺が抱いて行く」

 ルカリオは先ほどのセドリックの行為に腹を立て、シェリルを手放そうとしない。

「いいえ。折角の密室なのでシェリルから必要な情報を聞かねばなりません。本来、そのつもりで早退までさせたのでしょう?」

 セドリックの目から先程までの甘く蕩けた様子が消え去り、オーブリーの者としての怜悧さを取り戻す。

「そうだったな」

 ルカリオも冷静さを取り戻し、そっとセドリックの隣りにシェリルを座らせた。

「このまま、ゆっくりさせてあげたいのは山々なのですが」

 セドリックはそっと胸元の内ポケットから薄く小さなガラス瓶を取り出した。

「それは?」

「気付け薬です。一番体に害が無い物を持ってきたので大丈夫ですよ」

 セドリックはシェリルに近寄り鼻の下にガラス瓶を近づけた。


「んんっ……」

 うっすら目を開けると、間近に最推しのご尊顔がっ!!何?ここは天国?

 私、もう一度死んだのかしら。

 何だか夢見心地でぼや~っと最推し二人を見つめた。

「う~ん。あまり見つめられると、再び失神させてしまうようなことをしてしまいそうなので、俺たちが冷静な内に覚醒して頂けますか?」

 起き抜けのイケボ。ちょっと困り気味だわ。

 っと、ここは……侯爵家の馬車っ!!

 とんでもないところにいることを思い出した私は、すぐに背筋を伸ばして姿勢を正した。

「失礼しましたっ!起きましたっ!!」


「ありがとうございます。シェリルの寝顔を眺めているのも良かったのですが、今日はもう少しお話を聞きたいことがあったので、強引な起こし方をしてすみません」

 セドリックが、今は本当に申し訳なさそうに話す。

 普段は悪びれることなんてないから、こんな風に素の姿を見せてくれることが本当に嬉しい。

 そう言えば、鼻のあたりが少しスースーする。これで起こしてくれたのかしら?

 でもこの馬車の中は先日の会議室より狭い分、最推しとの距離が近すぎてまたすぐ失神してしまいそうだわ。

「あの、大変申し訳ないのですが、私一人で座らせて頂いてよろしいですか?その方がお話もしやすいので」

 ちょっと嫌われるかなと思ったけど、聡い最推し二人は私の失神癖にそろそろ気づいているのか、快諾してくれた。


お読み頂きありがとうございます、

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