22.Boys side 密謀
ルカリオとセドリックは再びラヴァン侯爵家の馬車に乗り、リント商会をあとにした。
「先程の話、お父上は了承して下さいますかね」
「十中八九、了承するだろうな。身分を振りかざすのは気に入らないが、俺たちの申し出は余程のことが無い限り断りにくいだろう」
「ええ、そうですね」
セドリックは、ふいに自分の隣りを見つめる。
「どうした?」
「いえ。行きと違って物足りないなぁと思って」
セドリックは、まるで挑発するような悪戯な笑みを浮かべる。
「そうだな。確かに、俺の腕も軽すぎる」
二人は貴族特有の貼り付けた笑みを浮かべた。
「まあ、冗談はこの辺りにして。根回しなど、やることは山積みですね」
「ああ。何だか、他国を迎え撃つ方が気楽な気がする」
「同感です。ある程度得体が知れている分、マシですね」
二人にとって、ヒロインは得体のしれない何か、まるで魔王が降臨するくらいの気分になっている。何よりも恐ろしいのは、ヒロインの持つ強制力だ。
シェリル曰はくヒロインがやってくるまでまだ数年あるが、それまでに二人とも幹部に上り詰め、ヒロインに関する情報を集めつつ対策することはもちろん、この先ずっと周りが自分たちの邪魔をしないように十分な人心掌握と環境整備をしなければいけない。
シェリルとの未来のために、今より何倍もの力をつけないといけないのだ。
「それから、シェリルのお店についてだけど」
「まずは立地条件ですよね。目立ちすぎず安全で、出来れば騎士の巡回ルートになっているところがいいですね」
シェリルの話になると、二人の表情はどこか和らいだ。
「それなら、巡回中に様子を見に行くことも出来るしな。まあ、最悪巡回ルートの改正を提案してもいいし」
二人とも普段の王都の情報から家の伝手まで全て駆使して、完璧な場所を確保するつもりだ。
「ええ。下準備が出来たら、店舗部分の間取りなどは当のシェリルにも相談しないといけませんね」
「ああ、なんせ彼女の夢だしな。店を持てるって知ったら、何て言うかな」
シェリルの様子を想像しただけで、二人から笑みがこぼれる。
「まあ、今はまだ内密に進めましょう。わずかな綻びがあってもいけません。安全かつ安心して過ごせる完璧な、我々の夢の箱庭。楽しみですね」
二人の笑みが、仄暗さを深める。
二人には密謀があったが、完遂するまでシェリルには内緒だ。
シェリルは、乙女ゲームの攻略対象者ならではの一途さ……もとい執着心に自身が絡めとられつつあることには、一切気づいていなかった。
何気なく窓の外を眺める二人の麗しき瞳の奥に、どこかどろりとした鈍い輝きが光った。
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