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転生モブ娘(庶民)は大好きな乙女ゲームの世界で、最高の推し活ライフを目指しますっ!  作者: アオイ


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21.交渉②

今回まで父親視点です。

「なかなか魅力的なお話ですな。ちなみに、条件などは?」

 失礼の無い様、不信感を隠して余裕を見せる。


「まずは、今から一年以内に王国の騎士団で実用化するところまでこぎつけること」

「一年……。かなりタイトな計画ですな」

 これから職人と素材を探して、大量生産までこぎつけないといけない。新規の工場を建てている時間はないから……と頭の中で算段をつけようとするが、かなり厳しい。


「あまり詳しくは話せませんが、ラヴァンの名を最大限活かせるのがその頃までになるかと。まあ、その後はここにいるセドリックが爵位を継げば今以上の効果はあるでしょうが、そこまで長期化すると商会も大変でしょう」

 ラヴァン家に何があるのか不安も残るが、とりあえずこの二人が学生の内の方が好きに出来るということか。確かにやるなら短期決戦だ。長くなればなるほど、資金も削られるし途中競合が出る可能性もある。


「他には?」

 俺の質問に今度はオーブリー様が答える。

「この携帯食を騎士団専売にして頂くことはもちろん、製法も決して他へ漏らさないで頂きたい。他国への情報漏洩、密輸などもっての外です」

 オーブリー様から笑顔が消えた。その瞳の鋭さは年相応のものではなく、俺は背筋に嫌な汗をかく。

「ええ。それはもちろん当たり前のことです。我が商会は、国益を損なうようなことはしないと誓います」

 オーブリー様は表情を崩し、元の柔和な笑顔に戻った。しかし、経験上その瞳の奥は一切笑っていないことは俺にも分かる。

 ああ、娘よ。早く起きてくれ。お前は一体何を引き連れて来たんだ!


「それから、ご息女の夢はご存じですか?」

 再びラヴァン様が話し出した。

 シェリルの夢?そう言えば、以前……。

「確か自分の店を持ちたいと言っていましたが……」

 ラヴァン様は満足そうに頷いた。

「それを実現して欲しいのです」

「えっ、……何故?」

 驚いて、思わず敬語が抜けてしまった。


 オーブリー様がちらりと扉付近に目を向ける。

 そこには妻を仮眠室の娘のところへ案内した後、ここに入室していた秘書が立っている。

 人払いをということか。

「すまないが、席を外してくれ。何かあれば呼ぶから」

 秘書は一礼して素直に退室した。

 足音が遠ざかると、オーブリー様が真剣な顔で語り出す。


「ここからは、王国にとっても機密事項なので一切の他言を禁じさせて頂きます」

 何が始まるのかと、おれはごくりと嚥下し頷いた。

「実は、少しご息女のことを調べさせて頂きました」

 その言葉に、頭が真っ白になる。

 娘よ、本当に何をした!?いや、何をしていても可愛い娘に違いないが、とにかく起きて早くここに来てくれぇ!!


「リント商会の発展の根幹に、ご息女の様々な発案がありますよね?」

 確かに、シェリルは6歳になった頃くらいから、よく分からないことを言っては新しいお菓子やパンの流行を生み出してきた。

「まあ確かに、娘のおかげで今の商会の形があると言っても過言ではないですな」

 シェリルは俺には勿体ないほどの素晴らしい娘だ。でも、商売に関係なく大切な娘だ。


「これまでの状況を鑑みるに、ご息女の才能はもはや国益に直結する稀有なものです。これを上にまで報告すると、その才能を国から逃さないように何某かの形で王家からの囲い込みに合うでしょう」

「!?」

 本当にシェリルの発想には目を瞠るものがあったが、そこまでとは思っていなかった。

 王家まで関わるのか?そんなことになれば、シェリルが雁字搦めになってしまう。それで果たして幸せになれるのか?笑って過ごせるのか?

 俺の心はどんどん不安に苛まれていく。


「ただ、現状この事を知っているのは私たち二人だけです。そして私たちはこの事を上に報告しないでおこうと思っています」

「えっ」

「しかし王家が動かないとなると、万一ご息女の才能が他国に気づかれた時の安全が保証できません」

「!?」

 やばい、衝撃が続きすぎてどうしていいか分からなくなってきた。

「そこで、秘密裏に私たち二人でご息女をお守りしたいのです。ご息女のために、ひいては国のために」

 話の規模が大きくなってきた。えっ?元々は娘の夢の話では……?


「要は新たに作るご息女のお店を、守りやすい形状に作るのです。現状、今のご自宅を改修したり、常に警備兵を置くなどということは現実的ではないですよね」

 確かに。今自宅に何者かに押し入られても、家の者ではどうしようも出来ない。それに目立った動きをすれば、却って娘が危険に晒されるかもしれない。

 オーブリー様の言葉が、どんどん頭の中を侵食しそれが全て正しいのだと思えてきた。


「ここで少しお話を整理しましょう」

 動揺する俺に、オーブリー様が穏やかに告げた。

「まず最初に、ご息女が2年生の内に携帯食を完成させ学園にて試験、その後騎士団へ納品。3年生、4年生の間にお店を準備し、卒業と同時に開店というのはいかがでしょうか」

 何故全て娘のシェリル中心のスケジュールなのかは腑に落ちないが、まあ覚えやすいことは覚えやすい。


「お店の立地条件、土地の手配、建設設計に関しての人の手配などは全て責任を持って私たちが行います。資金に関しては、私たちと会長の折半でいかがでしょうか」

「いや、娘の店ならば私の方で全てやりますが」

「いいえ。僭越ながら、安全な場所、守りやすい環境と建築設計などは私たちの方が熟知しています。更にそれ相応の伝手もありますので、そこは任せて頂きたい」

 そう言われると反論の余地は無いが、何故そこまでして下さるのか。

「王国のためですから」

 俺の疑問が顔に出ていたのか、即座に答えがきた。

 それにしても、笑っているはずなのにこの有無を言わさぬ圧はなんなのだ。これが、将来のエリート騎士団の幹部か。


「お話は分かりました。ただ、大掛かりな案件になるため、一度家族や商会の者と相談させて下さい。返事は……そうですね、3日後には必ず」

 今この時も地方に出向いている三男の帰宅を考え、期限の日数を算出する。

 まずは次男と情報共有し、シェリルから詳細を聞いてそのことを踏まえて必要な対処を長男と相談だ。

 そして商品開発については、次男を始め商会の皆で職人と工房を当たりつつ、三男と包装に関する打ち合わせ……と一瞬でこの後の予定を組み立てる。


「では、3日後にまたこちらに伺いますね」

 ラヴァン様が最後に締めくくる。

「かしこまりました」

「良いお返事をお待ちしております」

 この若さにして、本当にオーブリー様は心臓に悪い。


 俺はこの二人をお見送りしようと共に玄関へと向かった。

 途中執務室の前の廊下を通りかかると、二人とも何か言いたげな眼差しをその扉に向けた。

 娘の心配をして下さっているのだろうか。

 俺は世間話ついでにお声を掛けてみることにした。


「そう言えば、娘とはどのような?」

 二人はバッとこちらを見た。

「偶然、お昼休みに中庭でお会いしまして。将来お店に出すお菓子などの試食をさせてもらっています」

 ラヴァン様は何でもないことのように言うが、高位貴族に手作りの品を!?

 もしそれで何かあったら、娘の首だけじゃなく商会ごと消えるぞっ!

 まさかの、俺の知らない所でとんでもないことが起こっていた。


「ふふふっ、さすが親子ですね。最初試食をお願いした時のご息女と同じ反応です。顔色まで。」

 ということは、娘も一応断ったんだな。そこはきちんと理解していたんだな?でもどうしてこうなった!?

「大丈夫ですよ。私たちはご息女も貴方の商会も信用していますし、少々大袈裟ですが、何があっても騒がないという約束のもと試食をさせてもらっています」

 何が二人をそうさせるのか、一庶民の俺にはお貴族様の考えなど分かりようもない。

「いや、まあ、何と言うか。そうですか」

「今はもう、二人してすっかり胃袋を掴まれました」

 んんん?ラヴァン様、綺麗な笑顔で何かとんでもないことをおっしゃってませんか?

 俺は冷や汗をかきながら、何とか二人を見送った。

 娘のことで色々気になることはあるが、まずは本人に話を聞いてからととりあえず問題を先送りにする。


 やることは山積み、色々期限も迫っている。しかし、ともかくだ。まずは娘の様子を見に行こう。

 俺は玄関から踵を返し、仮眠室へ向かった。


お読み頂きありがとうございます。

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