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転生モブ娘(庶民)は大好きな乙女ゲームの世界で、最高の推し活ライフを目指しますっ!  作者: アオイ


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20/51

20.交渉①

シェリルが絶賛気絶中のため、2話ほど父親視点で続きます。

 青天の霹靂とは、まさにこのことだろうか。


 いきなり、今まで何の取引もなく名前しか聞いたことの無いラヴァン侯爵家から先触れが届いた。

 なぜ我が商会にやって来るのか?監査機関はラヴァン侯爵家とは関係なかったはず。

 ともかく、今日は俺も次男も出張せずに商会にいて良かった。残った仕事は次男に任せ、目の前の侯爵家に俺は集中しようと思う。


「会長!先触れ通り、ラヴァン侯爵家の馬車が到着しました。とりあえず、奥の応接室にお通ししました」

 執務室まで秘書が報告にきてくれる。奥の応接室は賓客を迎える時の部屋だ。

「分かった。すぐに行く。一番いいお茶の準備を」

 指示を出すと、いつもはすぐに行動に移す秘書が微妙な顔をしている。


「何かあったのか?」

「いや、あの、お嬢が……」

 快活なこの男にしては歯切れが悪い。

「シェリルがどうした」

「お嬢がですね、その、ラヴァン侯爵家の方に運ばれてきたんですが」

「はぁっ!?一体、何があったんだ!!」

 俺は一目散に応接室に向かった。


 シェリルは大事な娘だ。やっと生まれた女の子で、家族そろって大事に大事に育ててきた。

 その娘が運ばれてきたとは!ケガか?病気か?

 俺の頭は珍しく冷静さを欠いていた。


「シェリル!!」

 ノックもそこそこに、応接室の扉を開けた。


「ああ、ダグラス=リント会長、急な訪問をお受け頂きありがとうございます」

 応接室のソファに腰掛けたオーブリー様が挨拶をして下さるが、俺の意識は何故かラヴァン様に抱えられたままのシェリルに釘付けだ!何故だ!何故そこにいる!

 すぐに娘をこの腕に取り返したい思いに駆られながら、でも高位貴族相手に下手を打てないため悶々としつつも二人に向き直る。


「これは、お見苦しいところをお見せし、申し訳ございませんでした。ようこそリント商会にお越し下さいました。お話の前に、我が娘がお世話をお掛けしたようで、ひとまず引き取らせて頂きたく……」

 これはどういった状況か半ばパニックに陥りかけながら、何とか娘の方へ近づく。

 すると、娘を抱えたままラヴァン様が立ち上がった。

「大事なご息女に触れたままで失礼しました。ただ、どうしてもソファにこのまま寝かせるのは忍びなく、どこか落ち着けるベッドなどはありますか?」


 娘との関係性は全く分からんが、とりあえず娘を丁重に扱おうとはして下さっている?

 俺は一緒に入室した先程の秘書に目配せしてから、執務室の隣りにある仮眠室に案内した。

 そこでもラヴァン様は、娘を壊れ物でも扱うように丁寧にベッドに横たえた。本当に丁寧なお人だ。育ちがいいからだろうか?本当にそれだけか?いや、今はまだそれ以上考えるな。


「私たちが声を掛けてお話をしたところ、緊張されたのか急に倒れてしまわれて。しっかり抱き留めましたので、頭は打っておりません。じきに目を覚まされるかと」


 オーブリー様が状況を説明して下さるが、分かるような分からないような。父親としてはどうしても問い詰めたくなってしまう。

 しかし、今はまだ分が悪い。先触れにあった俺への話を聞いてからでも遅くはないだろう。

 もしそれがひどい内容なら、娘の件も併せて追及してやる。毒を食らわば皿までだ!

 俺は秘書に妻を呼んで娘の容態を見守るように言づけ、貴族の二人と共に応接室に戻った。


「改めまして、ルカリオ=ラヴァンです。この度は急な訪問にも関わらず、会長自らご対応頂きありがとうございます」

「セドリック=オーブリーです。よろしくお願いします」

 二人は俺なぞに頭を垂れ、爵位を笠に着ることのない好青年だった。

「ご丁寧にありがとうございます。して、我が商会への話とはどのようなことでございましょう」

 俺は固唾を吞んで、二人の言葉を待った。


「では早速ですが……」

 オーブリー様がラヴァン様に視線を向ける。ラヴァン様は頷いて口を開いた。


「以前ご息女から携帯食についてのお話があったと思うのですが、覚えておいででしょうか」

 携帯食?半年ほど前に、シェリルが騎士達のために作れないかと言ってきたあれか?

 チョコレートの溶けやすさと包み紙をどうするかが課題とか言っていたやつか。

 確か、伝手も先行投資分の回収見込みも無いため見送ったはず。


「ええ。確かに覚えておりますが」

「ご息女からは、携帯食が完成しても騎士団へ売り込む伝手がないため実現不可能と聞きましたが、それは今も変わりませんか?」

「はい。確かに、変わりないですね」

 今更、こんな予想外のところから蒸し返してこられるとは。あいつは何をやったんだ?

「では、それを商品化して頂けませんか?」

「は?」

 言っている意味が分からない。

 売る先が無いのに、どうするつもりだ?


「伝手は、私たちが作るというか、私たち自身が伝手ですね」

 事も無げにラヴァン様が告げる。

「順を追って説明すると、まずは商品をリント商会に作って頂き、それを王立学園の騎士科に収めて頂きたいのです。そこで、実用化出来るか生徒を使って試します。生徒の訓練で何度か試して改良し、実戦に際して十分有用だと証明できれば、次に各騎士団にて採用するということを考えています」


 まだ生徒とは言え、さすが高位貴族。いや、この二人だからか。確かに筋は通っている。しかも、伝手としては申し分ない身分と家名だ。

 商会としてはこれまでにない新製品の開発、新規市場開拓、十分すぎる取引先、しかもうまく行けば騎士団が存在する限り続けられる商売と、いいこと尽くしだ。

 しかし、これではうちの商会にとって都合が良すぎないか?こんなことをして、この二人に、家に何のメリットがある?

 仮に騎士達の戦場における食事改善からの人心掌握?いや、この二人の家ならそんなもの今更だろう。

 正直、一商人としては是非賭けてみたい。二つ返事で飛びつきたいが先程の娘のこともある。ここは慎重に行けと、商会長としてというよりは父親としての自分が頭の中で警鐘を鳴らす。


お読み頂きありがとうございます。

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