2.最推しとの約束
「なるほど。そんなことが」
神妙な声を出しつつもセドリックの肩は小刻みに震えている。
思いっきり笑いを堪えているのだろう。
隣りのルカリオは、何とも言えない顔でセドリックと私を見ている。
確かに、こんなしょうもないこと、誰に相談しても呆れられて当然だ。
「ですので、もしご迷惑でなければ一つ貰って頂ければ助かります。全く開けていないので」
おずおずと、まだラッピングされたままお店の紙袋からも出されていないマシュマロをセドリックに差し出した。
前世の知識から、セドリックは貴族の品の良い食事に飽き、庶民的なジャンクフードや珍しいスイーツ等が大好きなのは知っていた。反対にルカリオは特に拘りは無いものの、甘い物が苦手だ。
「いいのですか?30分も並んだのでしょう。しかも、なかなか手に入らない日もあるとか」
「いいんです。どんなものか知りたかっただけというのもありますし、まだこんなにも残っているので」
私は再度両手に鎮座するマシュマロを見つめる。
「そちらのマシュマロは、あなた一人で召し上がるのですか?」
「ええ、まあ。でも、このまま食べ続けるとさすがに飽きるので、ロシェにしようと思っています」
「ロシェ?」
セドリックが大きく瞬きをし、好奇心を隠せない表情に変わる。
ルカリオも呆れ顔から一転した。
「はい。クルミやビスケットで食感を足して、このカラフルな色味を生かして溶かしたホワイトチョコレートを絡めて一口大にして冷やしたお菓子です。でも、甘ったるいだけではなんなので、色味をあきらめてダークチョコレートで試してみてもいいかも」
ついいつもの癖で自分の思考に浸りかける。
「へぇ。ちなみに、それは今日作るのですか?」
「いえ、この量に必要な材料を用意してしっかり冷やし固めてとなると、完成は早くて明後日ですかね」
「なるほど。では、明後日の昼休みにここで待ち合わせしましょうか」
「えっ?」
「今あなたの手にある分で、どれくらい作れますか?」
「30~40個くらいでしょうか」
「分かりました。では、ありがたくこちらは頂戴しますね」
そう言ってセドリックは紙袋を手に取った。そして、ちらりとルカリオを見た。
「話題のお菓子、ルカも味見します?」
ルカリオは無言で首を横に振る。
「ですよね」
淡々と話を進め、席を立とうとするセドリックに、シェリルはハッと我に返り焦った。
「えっと、明後日ってロシェを持ってってことですよね?」
「ええ。もちろん」
「あのっ、でもそんな庶民が趣味で作った物を食べて大丈夫なんですか?自分で言うのもあれなんですが、どこの馬の骨とも分からないような……」
伯爵家の嫡男に、侯爵家なんて、毒味係とかそういうものを通さないといけないのでは?
別に何か入れたりなんて絶対しないけど、何かあったら罪になるのかなとか余計なことが浮かんで顔が青ざめる。
「ふふっ、顔が真っ青になって今にも倒れそうですよ。大丈夫。俺から言い出したことですし、何があっても咎めません。それに、あなたはリント商会の方でしょう。王国の食糧庫とも言われる商会のお嬢さんを疑ったりしません。商売の基本は信用なんてこと、あなたは身体に染みついているでしょう?」
シェリルは予想外の展開と、自分のことを知られていたことにも驚いて首を縦に振ることが精一杯だった。
「では明後日、楽しみにしていますね」
セドリックはにこやかに、ルカリオはかわいそうな者を見る目で去って行った。
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