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転生モブ娘(庶民)は大好きな乙女ゲームの世界で、最高の推し活ライフを目指しますっ!  作者: アオイ


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18.最推しの告白

 ルカリオが再び跪き、私の手を取る。

「俺は、君が好きだ」

「ルカ、抜け駆けしないで下さい。俺も、あなたを好ましく思っています」

 セドリックまで跪いて、ルカリオとは反対の手を取られた。


「えっ……と」

 正直、ちょっと何言ってるか分かんないんですけどって感じだ。

 本っ当にちょっと待ってもらいたい。モブですよ?本編に名前すら出てこない、存在すら無いモブ中のモブですよっ!

 そりゃもちろん嬉しいけど。イベントのランキング得点で、キャラクターから自分の名前入りのメッセージカードっていうのに必死でランインしようとしたくらい筋金入りですからねっ!


 嬉しさと、でもどうしようも無さとで私の情緒は無茶苦茶だ。

 いっそ私の妄想劇場であったと言われる方が信ぴょう性がある。

 数秒の間に色々考えて、既にオーバーヒートしている私だが、目の前の美しい濃い紫とエメラルドの瞳に囚われて動けない。


「むっ、無理ですぅ……」

 何とか、消え入りそうなか細い声が出た。


「何故ですか?」

「叶えたい夢があるから?」

 次の言葉が出てこない。夢なんて、最推しの幸福を見守るための手段に過ぎないし。

 多分、ヒロインと結ばれるならそっちの方が絶対幸せになれるだろうし。


「わたっ、私が邪魔者になっ……ちゃったら……」

「何を言うのです?あなたが邪魔になるはずがないでしょう」

 セドリックは私を安心させるように言ってくれた。


 いつもの笑顔じゃない、ひどく真剣な顔。おそらく今目の前にいるセドリックは、本当に素のセドリックだ。

 たとえモブで終わるにしても、ヒロイン以外でこの姿を見れただけで我が人生に悔いなしっ!……と今までなら簡単に思えたのに。


「ねぇ、シェリルが考えていることを教えて?」

 ルカリオが優しく語り掛けてくれる。その温かさに、今まで胸の奥に押し込めていた感情が溶けて溢れ出すようだ。

「だって、ヒロインが来るから。ヒロインに出会ったら、きっとそっちの方が良くなっちゃうでしょう?」

 今までゲームで散々ヒロインとしてプレイしてきたのに、いざヒロインと同じ世界線の別人になると、ヒロインへの嫉妬が止まらない。

「物語には、きっと強制力があります。それが働いたら、ヒロインのことが魅力的に見えて強制的に惹かれあうかも……。そんな未来が分かっていて、先輩たちにこれ以上近づけない。今ならまだ、ヒロインと結ばれた先輩たちを見ても祝福できそうなので」

 必死に笑顔を取り繕うがおそらく出来ていない。しかも一番最後の言葉は嘘だ。祝福何て出来ない。もう想像しただけで泣きそうだ。


「う~ん。俺たちを信用してもらえないのは心外ですね。まあ、物語の強制力と言われてしまえば、今の俺たちに否定する術はありません」

 最推し二人は一旦私の手を離して立ち上がった。


「ちなみにさ、自分がヒロインに選択されたって分かるものなの?」

「ええっと、ヒロインに選択された人がヒロインのお世話係と言うか護衛というか、とにかく騎士団の中でヒロインのことを任されます」

 私は自分のしっちゃかめっちゃかな感情を一旦横に置いて、最推しへの説明に集中する。


「ちょっと、騎士団の中でって。そんな他所から来た女の子がいきなり騎士団に入るの?」

「はい。ヒロインは異世界からこの王国に迷い込んで行く当ても住む場所も無いので、王国の保護対象になるそうなんですね。で、騎士団の兵舎に住み込みで雑用をして過ごすっていう」

「雑用……住み込み……」

 ルカリオは驚いている。まあ、確かに男所帯の兵舎に何も知らない女の子が一人飛び込むなんて異常な事態だ。


「ヒロインは、何故騎士団で雑用を?」

「私も詳しくは知りませんが、王都で迷っていたヒロインを保護した騎士が、王家から騎士団でヒロインの保護を命じられるんです。そこで働き者なヒロインが置いて頂く限りはと恩返し的な感じで雑用を申し出るんです」

「なるほど」

「で、兵舎のことや騎士団のきまりとか何も知らないヒロインのために、攻略対象者の騎士が一人専属で就きます。その騎士こそがヒロインが選んだ人です」

「確かに、兵舎には色んな階級の騎士がいますからね。幹部が就いて目を光らせておかないと不埒な輩が出かねませんから、そこは納得ですね」

「まあ、王家からの命令もあるなら余計にだな」

 ゲームでは流し見ていたプロローグも、実際には色々な柵があるみたいだ。

 この裏側から見る感じも、ヲタとしてはたまらない!


「それにしても、ですよ。そもそもヒロインに一人しか選ばれないなら……、例えば

ルカが選ばれても俺が残りますよね」

「ねぇ、何で俺なわけ?そこセディでもいいだろ」

 ルカリオがいつもより低い声で反論する。

「まあまあ、もしもの話ですよ」

「ふん」

 ルカリオが拗ねた。可愛いっ!こんな二人の掛け合いを間近で見られるなんて、贅沢の極み!これはまるで期間限定ガチャで当たるプレミアムストーリーのようだわ。もう私なんて空気と思って、じゃんじゃん続けて下さい!!

 すっかり最推しのやり取りに魅入ってしまい、私は自分の置かれた状況をすっかり忘れていた。


「だから、ね。無理に諦めなくていいんですよ。夢も俺たちも両方手に入れてしまいましょう?」

 蠱惑的な微笑みを湛えたセドリックに、間近でこんな殺し文句を言われると私は今日もまたキャパオーバーだ。

「ねぇ、だからシェリルも素直に、俺たちを受け止めて」

 続いてルカリオが、私の耳元で囁いた。

 だめ、こんな近くに麗しいご尊顔からのイケボなんてありえないっ!

 二人とも、完全に私を殺しにかかってるっ!

 既にキャパオーバーの私は、限界を突破しそのまま失神した。


「シェリル?」

「おや、気を失ってしまいましたか。これくらいで……可愛い人ですね」

 顔を真っ赤にしてぐったりと椅子にもたれ掛かるシェリルを、二人して覗き込む。


「さて、まずはお父上に取り入るところから始めましょうか」

 完全に茹だった私は、セドリックの呟きなど知る由も無かった。


お読み頂きありがとうございます。

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