16.最推しと告白②
「あなたです。シェリル=リント」
私が疑われてる!?
セドリックの仕事の邪魔はしたくないけど、冤罪も困る!
私はただ平和に最推しの姿を眺めたいだけなのに。
どうやったら人畜無害なのだと伝わるか、どうやったら最推しへの愛が証明できるかなど、色んなことが脳内をぐるぐる回る。
「でも、私は父や兄に付いて他国に行ったこともありませんし、商会の取引には関わっていません」
必死に弁明してみる。
「ええ。それは分かっています。俺が聞きたいのは、何故俺達のことを知っているかです」
「えっ?」
「ルカの甘い物嫌いに始まって、あなた多分俺が普通の貴族の食事に飽きていることを知っていましたよね?」
「ん?」
話が変な方向に逸れだしたぞ。とりあえず商会はお咎めなしなんだよね。良かった。
で、次は私……。まあ、ゲーム内知識しか無いけど最推しの好みとかはもちろん把握するよね☆って、何か問題でも……って問題しかない?
ゲームの世界、ゲームのキャラクターって浮かれてたけど、高位貴族のしかも騎士について詳しく知っているってもしかしてまずい?
「そんな、たまたまです。私、そこまで深く考えていなくて……」
苦しいけど、言い訳をしてみる。
「へぇ。たまたまですか。では、何で最初の『レインボーマシュマロ』を俺だけに渡そうとしたのですか?ルカと二人でいるなら、二人に貰ってもらえないか聞きますよね?」
おっと、そこからか~。本当に何も考えて無かったな私。
「あの時は……セドリック先輩がずっと話しかけて下さっていたので、その流れで」
「ふうん。俺は、あなたがルカは甘い物が苦手かつ、俺がああいったジャンクな物を好むことをあらかじめ知っていたからこその行動だと思いましたけど」
ぐっ、信用されてない。まあ、推理通りだけど。
「それに、あなたほど聡明な方が深く考えないはずがないですよね。若干7,8歳で商会の利権について父親に説いたのはあなただと、従業員の方たちから聞きましたよ。長兄が法律関係に進むようになったのも、あなたに影響されたからだって」
確かに、その件については必死だったし、まだ子供過ぎて周囲に目が行かず緘口令も布いていなかった。だらだらと冷や汗をかきながら押し黙ると、机の横に静かに立っていたルカリオが動いた。
「ねぇ、俺の瞳の色、何で分かったの?そんなに近くで見つめあったことなんて無かったよね。有名なラヴァンの紫は、兄貴のアメジスト色だ」
そうなの、確かにそうなんです。それはヲタをこじらせた結果なんです。すみません。だって、あの一度きりでまた会えるなんて思わないじゃないっ。そこに全力を注いでしまったのよ。
「あと、多分俺と兄貴の確執、知っているよね?あの時、君の涙に驚いてすぐには分からなかったけど、後から考えたら俺の生い立ちを知らないと泣けないはずなんだ」
ルカリオは少し傷ついたような顔で見つめてくる。
これって、私にスパイ疑惑的な何かがかかってるってこと?うそ、最推しの幸せを応援こそすれ、不利益を与えるつもりなんて毛頭ないよ。
「ルカの生い立ちに詳しいなら、俺のことももう知っていますよね?」
セドリックの微笑みがいつものの柔和なものから、どこか酷薄なものに変わった。
私はどう答えて良いか分からずに言葉に詰まった。
「沈黙は肯定と捉えます。俺のことを知っているなら、これは何だと思います?」
セドリックはポケットから小さなガラスの小瓶を取り出した。無色透明な液体が入っている。
「セディ!!」
ルカリオが何かに気づき声を荒げた。
何?セドリックの職業柄考えると、自白剤?もしくは……毒?
情報を得る?それとも邪魔者を消す?私、今死ぬの?
予想を大幅に超える展開に、さすがの私も青ざめた。
「セディ、そこまでしなくても!シェリルはまだ学生だぞ!」
ルカリオが私を庇ってくれてる。ああ、尊い。死んでもいいかも……って今は洒落になんないか。はあ、今のこの世界も、家族も大好きだったんだけどな~。何か調子にのっちゃったのかな。
モブなのに、一時の夢を見てごめんなさい。
「お気に障ったのならすみません。家族は何も関係がないので、罰するなら私だけにして下さい。それから、私は特に誰かを害するつもりも陥れるつもりもありません。大変おこがましいのですが、ただただセドリック先輩とルカリオ先輩の幸せを願っております。もし許されるのなら、最期は先輩たちの手で一思いにお願いします」
項垂れた私に、ルカリオだけでなくセドリックまでぎょっとする。
「ちょっ、ちょっと待ってください。どこまで話を飛躍させているのですか。そもそも今、あなたは何の罪で裁かれるつもりだったのですか?」
「えっ、何かは分かりませんが、私がいるとお二人にとって都合が悪いのかな~って。あと、何か不敬なことをしでかしてしまったのかと」
「都合が悪いって、それだけで覚悟を決めたの?」
ルカリオが真っ青な顔をして、私の座る椅子の傍までやって来た。
「はい。お二人の幸せが、私にとって一番なので」
そこは若干鼻息荒く推しておく。
「君って子は」
ルカリオは跪いて私の手を握り、ハァとため息を吐く。
「すみません、少し脅かすだけのつもりだったんです。あなたの秘密を知りたくて。ただ、それほど覚悟を決めているなら、いっそ洗いざらい話してください。あなたに危害を加えるつもりはありません。そのことに関しては、剣に誓います」
『剣に誓う』それは、騎士として最上級の誓いだ。それを破ることは、騎士の道を完全に絶つことに等しい。
「俺も、剣に誓って君を傷つけない」
手を握られたままその位置から上目遣いで見られると、むしろ息の根が止まりそうなのですが!ああ、美の暴力再び!
「さあ、ゆっくりでいいですから話してください。俺達は味方ですよ」
今度はセドリックが私の椅子の横に立ち、背もたれに手を置いて耳元で囁いた。
はああ。だめだ、耳が幸せすぎて死ぬ。私の顔は熟れたトマト以上に赤いだろう。
私の脳はもう正常な判断が下せず、とりあえず全て話したくなってしまう。でも、どこから話そう。
「あの、すごく変なことを言うのですが……」
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