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転生モブ娘(庶民)は大好きな乙女ゲームの世界で、最高の推し活ライフを目指しますっ!  作者: アオイ


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15.最推しと告白①

 最推し二人と約束の日、私は緊張しながら騎士科の校舎に向かっていた。

 騎士科には訓練場もあるから、他の学科とは大分離れた所にある。

 いつもの中庭を抜けると、放課後ということもあってほとんど生徒は見当たらない。

 やっと校舎に辿り着くと、騎士を目指すに相応しい体格の良い男子生徒がまばらにいた。

 その内の一人に声を掛ける。


「あの、私、商学科2年のシェリル=リントと申します。4年生のラヴァン先輩かオーブリー先輩をお願いしたいのですが」

「ひっ……、あっ、分かった。案内するよ」

 「ひっ」ってなんだろう?やはり私は珍獣扱いのままなのだろうか。

 何となく周りを見回すと、皆気まずそうに目を逸らす。中には、何だか可哀そうなものを見るような目で見られている気がするんだけど、届け物をしに来ただけなのにどうしたんだろうか。

 きょろきょろしながら、とりあえず前にいる男子生徒に付いて行く。彼も居心地が悪そうだ。

「あの、先輩たちは今どちらに?教室ですか?それとも訓練場ですか?」

 ずっと黙っているのも気まずいので、話しかけてみた。

 すると彼はビクッと肩を震わせる。

「い、いや。そのどちらにもいらっしゃらないかな。まあ、付いてきてよ。すぐそこだから」

 歯切れの悪い返答に、何だか不信感を持つ。この人について行って大丈夫かなと不安げに周りを見るが、やはり皆目を逸らす。

 いざとなったら回れ右をして走って逃げようと心に決めた時、廊下の一番奥の部屋の前で止まった。


“第7会議室”


 扉の表記はそうなっていた。でも、隣りの部屋は第3会議室、はす向かいの部屋は第4会議室、何か番号がおかしくない?

 目の前の彼は、若干顔を青ざめさせて扉をノックした。

「シェリル=リント嬢をお連れしました」

「どうぞ、入ってもらって下さい」

 中からセドリックの声が聞こえて、私はほっとした。

 その言葉に彼は目の前の扉を開け、私を中へ促す。

「失礼します」

 中に入るとそっと扉が閉められ、扉の前の彼は去ったようだった。


「すみません、こんなむさ苦しい所にお呼び立てしてしまって」

 セドリックが笑顔で近づいてくる。


 第7会議室はわりとこじんまりしていて、会議室というわりに騎士科の生徒が8人も入ればぎゅうぎゅう詰めになるんじゃないかというくらいの狭さだった。

 しかも窓が無くて圧迫感がすごい。

 自然の光が入らない分明かりが多く設置されていて、明るさに問題はないがあまり長居したくない部屋である。


「あの、ご依頼頂いていたケークサレをお持ちしましたけど、どちらに置きましょうか?」

 とりあえず約束の物を置いて、忙しいだろう最推しの邪魔にならないように退出しようと思った。


“カチャン”


 私の傍らにまでやってきたセドリックが、私の後ろにある扉の鍵を閉めた。

「えっ」

「さあさ、もっと中へどうぞ。と言っても広い部屋ではありませんが」

 まるでエスコートするように自然に私の腰を押す。

 一番奥の壁の前に執務机と呼ぶには簡素な机と椅子があり、机のすぐ横にルカリオが立っていた。そしてその机の前、ちょうど部屋の中央に位置する場所に不自然に置かれた一脚の椅子、そこへ促される。


「ケークサレ、いつもありがとうございます。こちらはお預かりしますね」

 ひょいっと、ケークサレの入った紙袋をセドリックに取り上げられた。


「では、こちらにお座りください」

 何が起こっているのか分からない私は、とりあえず言いなりになって着席する。

 これが最推しじゃ無かったら、即座に暴れて部屋から逃げようとしていただろう。

 セドリックは壁際の机の前に移動し、その机に軽く腰掛けるように位置取った。


「さて、早速ですが本題に入りますね」

 私は訳が分からず困惑したまま、とりあえず耳を傾ける。

「実は、リント商会について調べさせてもらいました」

「えっ?」

 商会は常に健全な経営をしていたはず。父も兄達も悪事を働けるほど器用な性格はしていない。一体何を疑われていたのか。

 どんな言いがかりをつけられるのか、今朝普通に家を出てきたが家族が今どんな目にあっているのか、急に不安になってきた。


「ふふっ、何も心配はいりませんよ。リント商会について調べるのはかなり手こずりましたが、商会に関して言えば完全に白です。むしろ、汚い手段を使わずにここまで商会を大きくできるなんて、本当に感服致しました。世界でも例を見ないほど見事な手腕だと言えるでしょう」

 何だかものすごい賛辞を贈られている。

 でも、商会に関して「は」とは?あとは一体何がだめなんだろう。


「あの、商会は何を疑われて……?」

「あまり多くは話せませんが、簡単に言うと他国との繋がりや貴族との癒着ですかね」

「えっ!?そんなの、絶対ありません」

 私は即座に否定した。

「ええ、そうなんです。驚くほど無かったんです。普通これだけの急成長の裏には、多かれ少なかれ何かあるんですけどね」

 セドリックは相変わらずいつもの笑顔で話している。

 ゲームではこの笑顔に癒されていたけど、今は少し怖い。

「それに、従業員の皆様もさすがですね。買収して情報を得ようとしても誰も乗ってこない。苦心してそれぞれが語る小さな小さなエピソードを組み立てて、やっとおおまかな筋が見えてきたくらいです」

 ううっ、商会の皆、商会を大切に思ってくれて守ってくれてありがとう。


「ですが……」

 安堵したのも束の間、セドリックの言葉に背筋が凍った。

「どうしても違和感が一つ」

 セドリックはじっと私を見詰めた。


「あなたです。シェリル=リント」


お読み頂きありがとうございます。

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