14.結婚観と最推しからの依頼
「ねえ、シェリル。隣国のバッカス商会って知ってる?」
昼休み、ランチをしながらアリアが話しかけてきた。
「うん。隣国のお酒を扱う大手の商会だよね」
「そう、そこの長男がお嫁さんを探してるんだって」
「へえ、そうなんだ」
「そう、それで本当はギブソン商会と縁を繋げたかったらしいんだけど、あそこって適齢期の女の子がいなくって、今各国の有力な商会をあたっているらしいのよね」
ギブソン商会は、この国でお酒を扱う最大手の商会だ。
「ふうん。色々大変ね」
「ちょっと、他人事じゃないわよ。今はお酒関係をあたってるみたいだけど、見つからなかったら私やシェリルまで話がくるかもしれないんだからっ!」
「ああ、もしそうなったらアリアは大変ね。アルベルト様がいるもの」
「そう、そうなのよ!でもさ、身分も違うし、お互いまだ学生の身だしさ」
アリアが、ハァとため息をつく。
「アルベルト様って、確か実家を継がなくていいんだよね?アリアはやっぱり結婚まで考えているの?」
私の言葉に、アリアは頬を赤らめる。
「そりゃあ、ね。結婚出来たらいいなって思うわよ。幸い、商会は兄が継いでくれるし。アルベルト様も嫡男じゃないから絶対貴族のお嫁さんをもらわないといけないってわけじゃないと思うし」
確かに、この国では家を継がない貴族はよほどの高位貴族であるか貴族に婿入りしない限り、成人後平民になる。
または騎士として身をたて、一代限りの騎士爵を賜る。
騎士のお嫁さんには平民もいるため、アリアにも可能性は十分あるのだ。
「そっか、結婚出来るといいね」
アリアは嬉しそうに笑った。
そして、いつものように未来の旦那様の元へと駆けて行った。
二人が付き合ってもうすぐ一年が経つ。正直、結構惚れっぽいアリアがこんなに長持ちするとは思わなかった。やはり恋われてお付き合いすると長持ちするのだろうか。
そんなことをぼんやり考えていると、最推し二人がやって来た。
「シェリル、どうしたの?ぼうっとして」
ルカリオがそっと近寄ってくる。二人は私の両脇にそれぞれ座った
「いえ、結婚について考えていました」
「はっ!?」
最推し二人の声が重なる。
「シェリル、結婚するの?」
ルカリオが珍しく慌てた声で言ってくる。
「いいえ、私は結婚なんてしません。でも、アリアが無事に結婚出来たらいいなって」
最近、やっと最推し二人を前にしても普通に話せるようになってきた。
「ああ、アルベルト=コーエンですね」
「はい。二人とも順調そうですし、誰にも邪魔されずに幸せになれたらいいなって」
「邪魔されずというと、何か心配事が?」
セドリックの目が少し真剣なものに変わる。
「まあ、身分もありますけど、今バッカス商会がお嫁さん探しをしているようで。アリアも大きな商会の娘ですし、庶民の中では可愛らしい容姿で有名なので」
「なるほど、バッカス商会でそんな動きが」
「まあ、出来るだけお酒関係の商会をあたるそうなので、大丈夫と思うんですけど」
私が考えたってどうしようもないことばかりなんだけどなと愛想笑いを浮かべた。
「ねぇ、シェリルは自分の結婚については何も思わないの?」
ルカリオに急にふられて少し驚いたけど、答えなんて入学当初から決まってる。
「私はそもそも結婚する気なんて無いので」
「えっ!?」
最推し二人が再び声を揃えて驚いていた。
「えっ?」
私は思わず驚かれたことに驚いた。
「何で?結婚って、女の子の憧れじゃないのか?」
ルカリオが困惑している。珍しい。
「まあ、でも私の夢は自分のお店を持つことなので。自分の好きな仕事をして生きていけたらそれでいいかなって」
ルカリオもセドリックも目を瞠って固まっている。
珍しいこの光景も、網膜にしっかり刻んで生涯独身を貫く糧にしよう。
「……そうですか。色んな考え方がありますね」
先に立ち直ったのはセドリックだった。
「それはそうと、シェリルにまたあれをお願いしたいのですが」
「ああ、ケークサレですね。分かりました。明後日ですか?」
「そうですね。ただ、いつもと違って明後日は騎士科の校舎にそれを持ってきて欲しいのです」
「校舎にですか?」
「ええ、あいにく俺もルカも昼休みにこちらに来られなくて。放課後、騎士科に来て下さい。校舎に着いたら、その辺の誰かに言付けてもらえたら案内してもらえると思いますので」
代わりの誰かに渡すだけじゃだめなのかなとも思いつつ、まあ最推しの言うことなので素直に聞くことにした。
「分かりました」
「いつもすみません」
「いいえ、おかげで色々な種類や味のコンビネーションを作ることが出来ていますので助かっています。お店の看板商品にもなるかも」
私はにっこり笑って了承した。騎士科に行くのは初めてで緊張するけど、普段中庭では見れない二人の凛々しいお姿を拝めるかもしれないし、役得だと心が弾んだ。
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